1.呼び声
作成済の作品で、約25万文字です。毎週土曜に週1で投稿する予定です。
死ぬってこういう感じなのか。
何もない場所。
まるでどこかに落ちているかのような感覚がある。
いや、死んだのに感覚があるのか。
もしかするとまだ死んでいないのだろうか。
‐私の声が聞こえますか。
どこからか声がした。
「誰だ?」
辺りを見渡すが誰も見えない。
何もない真っ暗な空間が広がっている。
‐あなたは…
そんな中声だけが聞こえてくる。
恐らくは女性の声だ。だが俺はその声に聞き覚えは無い。
「俺がどうかしたか?」
何かを言おうとして考えているような雰囲気がしたため俺は先を促す。
-どうやってここに?
「どうって言われても」
なんで死んだんだったか。
ここに来る前の記憶をたどる。
「確か車にはねられて…」
そこまでは意識があった。
救急車のサイレンが近づいてきたのは覚えている。
聴覚が最後まで残るというのは本当だったようだ。
とはいえ、救急車に乗るところまでは覚えていない。
救急車が到着するまでに意識を失ったのだろう。
魔法があれば生き返る事もできたかもしれないが、あいにくと魔法が無いことぐらい分別はつく様な知識は持っている。
だから魔法で生き返るなんて言うのは無理だ。
魔法なんてものは存在しない。空想上の産物だ。
まあ、魔法があればそもそもこんな事になってないか。
-そうですか。
「というか、お前は誰だ?」
俺の状況を把握できていないのだろうか。
-私が分からない?
「救急隊員か?」
今の状況に声をかける者が居たとしたら、それが真っ先に思いつく。
あるいは、もう病院について、医者が診察しているのだろうか。それにしては質問の内容が変だ。
それに、この状況はなんだろうか。周りが何もない空間を漂っている。これが死後の世界なのだろうか。
-では彼女の研究の成果ですね
俺は状況を全く理解できないが、声の主にとって、この状況には心当たりがあるようだ。
「彼女って誰だ?」
この声の主とは別に、俺を呼んだ奴がいるのか。
-あなたは誰に呼ばれたのか分かっていないのですね。
やはり声の主は何かを知っているようだ。
「あんたが俺を呼んだんじゃないのか?」
-あまり干渉するつもりはなかったのですが、今は状況が切迫していますので、少し話した方が良いかもしれません
「何の話だ?」
このままだと俺は死ぬとでもいうつもりだろうか。
徐々に辺りが明るくなっていく気がする。
同時にまるで体が溶けていくような感覚に襲われる。
意識はあるのに、体の感覚が徐々に無くなっていくようだ。
-あなたは戦いに巻き込まれます。
「戦いって何だ?」
何か突拍子もないことを言われて、そのまま聞き返す。
-この島を救って下さい。
声の主の言っている事は俺には理解できない。
「島ってどこのことだ?」
-もう一度会えることを期待しています。
何やら一方的に話をしているが俺も聞きたい事がある。
「あんたが俺に何かしたんじゃないのか?」
-それはまだ言えません。
「姿を見せたらどうだ?」
-それはまだできません。
「まだ?」
-あなたがどういう存在か見極めてからです
「俺が危険人物かもしれないって事か?」
-島の中の者は、島の外の者を警戒するのが普通です。
「だったら何故呼んだ?」
-それが彼女の研究ですので。
「研究? 何の研究だ?」
-もうあまり時間がありません
声の主は俺の質問には答えず、話を終わらそうとしているようだ。
「時間が無くなると何が起きるんだ?」
だが何も状況が把握できない俺としては、少しでも情報が欲しい。
-霧に気を付けてください。
それだけ言われても何をしろというのか。
「霧って何だ?」
俺の知っている、視界が悪くなるあの霧の事か?
だとしたら気を付けると言われても、自然現象である以上どうにもならない気がするが一体何を言っているのか。
そう思っていると、俺の予想外の事を、声の主は言い始めた。
-霧の前では魔法は役にたちません
「魔法?」
そもそも俺は魔法を使えない。そのはずだ。
-健闘を祈ります。
その言葉を最後に、俺の意識は覚醒していく。
目を開いた時、俺は自分の体が別の物になっている事に気が付く事になる。




