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第2話 出会い頭にキスって何事?

読んで下さった方に。すみません。レーティング設定をR18に変更するため、3話以降はムーンライトノベルズ(女性向け)に掲載します。どうぞ、よろしくお願いいたします。

 飲み会帰りに変な男に追いかけられて、路地裏で逃げ場もなくなったその瞬間。

(誰か助けてっ!)

 て思ったら――本当に誰かが現れた。


 月明かりの下、男の前に突然立ちはだかったのは……

 肩や袖ゴテゴテした金の刺繍とたくさんの金ボタンのついたロングコート。

 さらに黒いマントを翻した、

 十九世紀ヨーロッパの貴族そのまんまみたいな格好をした、

 赤い瞳の外国人。

 ヘンな男から助けてくれたまではよかったけど、

 いきなりキスって何なになんなの⁉

 ショックで固まる私の目の前で、

 青年は『うさりん』とかいうぬいぐるみを凝視して息を呑んでいる。


「軽いキスだけでこれとは…」

「――いやいやいや! 軽いキス? っていうかあなた誰!? 

何このコスプレ!?」

挿絵(By みてみん)

 その一言で自分を取り戻した私は慌てて距離を取る。


「乙女の唇をいきなり奪っておいて、『軽いキス』とは、

いくら外国人とはいえダメでしょ!」


 すると彼は、真剣な顔で一歩前へ。

「にわかには信じられないかもしれないが、

私は密命を帯びて異世界から来たんだ。

名はニコラウス・オ・デッラ・ゲラルスカ。ビエナ王国の第二王子だ」

「はあ?」


「このブレスは、キスの度に異世界のアイテムを呼び出す。

君の協力が必要なんだ!」

「……。いや、それより先に“痴漢”にキスさせられた

被害者の気持ちを分かって!? あと名前長い!」

「ではクラウスと呼んでくれたまえ。痴漢? 私は痴漢ではない。

これは必然なのだ。キスやロマンス行為の深さに比例して、

召喚されるアイテムの希少度も増す。つまり――」

「つまり!?」

「もっと濃厚なキスをすれば、

私は“異世界に帰る水晶”や“呪いを解くタリスマン”を手にできる!」

「何言ってるの⁉ バカなの⁉ そんな真顔で言われても困るんですけど⁉」


 怒りのあまり私は絶叫した……けれど足元には、

 空中からいきなり飛び出したふわふわのウサギぬいぐるみがまだ転がっていて。


(夢じゃないの? 本当にアイテム出ちゃったし……どうするのこれ!?)


 半分パニック状態の私にも彼は動じず、むしろ真剣そのものの顔つきで頷く。


「いいか、これは単なる浪漫的行為ではない。

ブレスの魔法体系は明確に規則化されているんだ。唇の接触面積、

接触時間、そして双方の感情の昂揚度――これらが複雑に絡み合い、

アイテム召喚のレアリティを決定する」

「ちょっ……何その理屈っぽい公式!? 

そんなの聞きたくなかったんですけど!」


「現に、君と交わしたごく短い接吻で、

既に『うさりん』が出現している。これはつまり、

基礎的な適合率が極めて高い証拠だ」

「適合率とか言われても! 私ただの一般人なんですけど!」

「いや、違う。君は選ばれている。この異世界から来た私の

“ガチャ・パートナー”として」

「ガチャ・パートナーって言わないでよ!? なんか軽いし!」


 必死で否定しても、クラウスは一歩も引かない。

 その瞳は、まるで科学者か哲学者のように熱を帯び、語り続ける。


「私の父王は呪われ、王国は滅びの危機に瀕している。

私が帰還するには“帰還水晶”が必要だし、王の呪いを解くには

“解呪のタリスマン”が不可欠だ。その両方を引き当てるには――」


「引き当てるって言うな! ガチャ感増すでしょ!」

「――君とキスを重ねるしかない」

「結論がサラッと最悪なんですけど⁉ ……もう知らない!」


 頭にきて、私は踵を返した。

 だけどその瞬間。


「ぐうう~~~~~~っ……」


 とんでもなく大きな腹の虫の音が、路地裏に響き渡った。

 振り返ると、クラウスは顔を真っ青にして、その場にへたり込んでいる。


「お、おいおい……」

「……すまない。ここ三日、何も口にしていなくて……貧血が……」


 マントを翻して颯爽と登場したくせに、中身はガス欠の人間って…。

 その落差に呆れるやら心配やらで、私は頭を抱えた。


(うわぁ……放っとけないじゃん!)


 マントを翻して登場したくせに、中身はガス欠の人間。

 その落差に呆れるやら心配やらで、私は頭を抱えた。


(うわぁ……放っとけないじゃん!)


 でも、いきなり自分の部屋に連れ込むのもどうかと思ったので、

 丁度近くにある牛丼チェーン「牛乃屋」に連れていくことにした。


「ここは……食堂か?」

「そう。とりあえず何か食べなさいよ」


 クラウスは真剣な表情でメニュー表を見ていたが、

 おもむろに牛丼を指さした。

 出てきた牛丼を前に箸を手に取ろうとして固まった。


「……これは何だ?」

「え、箸。日本人はこれで食べるの」

「……この棒で食べろと?」

「棒って言うな」


 仕方なく店員さんに、


「すみません、スプーンください」


と声をかけたところで――。


「待て。スプーンは子供の使うものだから、フォークをくれたまえ」

「はぁ?」


 自信満々に言うその顔があまりに真剣なので、つい笑ってしまった。

 そしてクラウスはフォークを器用に操り、牛丼を一口。

 次の瞬間――目を見開き、がつがつ食べ始めた。


「……うまい! 何だこれは! 柔らかい肉と、香ばしい玉ねぎ…。

――そしてこの赤い棒は?」

「紅しょうが。ちょっと辛いけど、牛丼には必須」

「必須……なるほど!」


 彼は理解した風に頷き、紅しょうがをこれでもかと山盛りにして、

 夢中で食べ進めていった。

 真っ赤な山の中から顔を上げたクラウスの口元には、

 紅しょうがのかけらがぺたり。


(……イケメンなのに、なにこのかわいい姿)


 思わず頬が緩んでしまう。

 さっきまでコスプレ変人だと思っていたのに、

なんだか放っておけない気持ちがじわりと広がった。


**********


 食べ終えて店を出ると、クラウスはフラフラと私の肩にもたれかかってきた。

「……むぅ……眠い……」

「はぁ!? ここで寝ないでよ!」

「この数日、徹夜で動いていたからな……ようやく……」


 すうすうと寝息まで立て始める。

 タイミング悪く雨まで降り出し、私は頭を抱えた。


(血糖値スパイクか⁉ でもこのまま道端に放置はできないし……)


 結局、タクシーを拾って自分のアパートへ。

 今月ピンチなのに、タクシー代がどんどん増えていくのを横目に、

 私は深いため息をついた。


(……ほんと、とんだ災難だわ)


つづく

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