1話 出会いは終電間際の路地裏で…
読んで下さった方とこれから読む方に。すみません。レーティング設定をR18に変更するため、3話以降はムーンライトノベルズ(女性向け)に掲載します。どうぞ、よろしくお願いいたします。
―――どうしてこんなことになったんだろう。
残業で会社を出たのはついさっき。
終電間際で、利用する駅への近道だからと、
人気のない路地を歩いていたら、後ろから声をかけられた。
「カノジョぉ、ちょっと待ってよ」
振り返ると、見知らぬ男。
赤ら顔にいやらしい笑み。知らない人なのに、
当たり前みたいにを掴もうとしてきて――怖くなって逃げた。
こんな時間、こんな道を選んだ自分が悪いの?
でも誰もいない。誰も助けてくれない。
ぱたぱたとパンプスの音が響くたび、追いかけてくる足音も重なる。
心臓がバクバクして、喉が張り付いて息が苦しい。
(どうしよう……! このままじゃ――!)
「捕まえた」
背後から伸びた手が、もうすぐ肩に届く――その瞬間。
ぐいっと強い腕が私の身体を引き寄せた。
驚いて見上げると、そこには――月明かりに浮かび上がる、
見知らぬ青年の横顔。
整った異国めいた容姿、宝石みたいな赤い瞳が、こちらを射抜いていた。
「……君か」
「え?」
彼は私を庇うように抱き寄せながら、
低く冷ややかな声で背後の男を睨みつける。
「か弱い娘にしつこく迫るとは、恥を知れ」
追ってきた男は舌打ちして、闇に消えていった。
安堵する間もなく、助けてくれた青年が、
今度はまっすぐ私を見つめてきて――。
「怪我はないか?」
低く響く声に、息を呑む。
長い外套の裾を風がはためかせ、銀の髪が月明かりにきらめく。
どこかこの世界の人間ではないような、透きとおる雰囲気。
「助けを乞う声に応じて現れたが……無事で何よりだ」
そう言って、彼は私に手を差し出した。
指先から微かに光が走る。
暖かい――けれど、不思議と胸の奥がざわついた。
「えっと、あの……どうお礼をしたらいいのか……」
私が言うと、彼は少し首をかしげ、いたずらっぽく微笑んだ。
「ならば、君の“口づけ”を所望」
「くちづけをしょもう……?」
その瞬間、時間が止まったように感じた。
月の光が彼の横顔を照らす。真っすぐな瞳。
まるで儀式のように厳かだった。
どうしてか、断るという発想が浮かばない。
頬が熱くなり、頭の奥がぼうっとして――
「……はい」
気づいたときには、そう返していた。
彼の指先がそっと私の頬に触れる。
次の瞬間、唇に淡い光がふれた。
ふわり、と風が舞い上がり――
青年の手首のブレスレットが、淡く金色に輝いた。
「――っっ!?!?」
頭の中が真っ白になる。
けれどその瞬間、彼の手首にはめられた銀のブレスレットが淡く輝き……。
ポンッ!
二人の間に、ふわふわしたウサギのぬいぐるみが飛び出した。
「『異世界の人気マスコット・うさりん』だと……っ!」
「な、なにこれ!? え、ちょっと! いきなりキスって、ええぇ!?」
思考が真っ白になった。
時間が止まったみたいに、世界の音が全部遠ざかっていく。
(ちょっ、え、嘘でしょ!? え、いま何された!?)
脳が事態を理解しようと必死に回転するけど、全然追いつかない。
さっきまで変質者から助けてくれた“変な外人さん”が、まさか――いや、いきなりキス!?
(やばいやばいやばい! これ絶対通報案件! ていうか、なんで私、逃げないの!?)
体は動かないのに、心臓だけが暴れ馬みたいに跳ねている。
頬が熱い。唇がじんわり熱い。
何も考えられない。いや、考えたくない。
(いきなりキスとかありえない! ていうかこの人、助けてくれたのに何してんの!?
でも……なんで、ちょっとだけ、熱くて……心臓、すごいんだけど)
混乱と怒りと羞恥が一度に押し寄せて、頭の中がぐちゃぐちゃになる。
叫びたいのに声が出ない。
青年は真剣な瞳で、私を見つめ直した。
「やはり……君だったのか」
つづく




