王都、共同生活 2
かくして、メリーナを除く子どもたちはバルトとともに王城に招喚された。
国王は、彼らを呼び出すと開口一番こう言った。
「堅苦しい挨拶は良い。望むものを何なりと申せ」
国王はいつも浮かぶ表情の読めない笑顔を消して、厳しい表情を浮かべている。
だが、バルトは知っている。国王は大の子ども好きなのである。
なぜ知っているか……それは……。
「ルビーお姫さまになりたいです!!」
「る……ルドラも!!」
バルトの思考は、双子の元気な返答で中断された。
お姫さまとは……しかし、目の前にいるのは国王だ。
全く叶えられない願いでもない。
「ふむ、それもいい」
「「わーい!!」」
国王の考えと、ルビーとルドラの考えはおそらくずれている。
バルトは、やっぱり国の安寧が第一な国王を睨め付けた。
「まあ、睨むなバルトよ。そなたも願いを言ってみよ」
「……陛下、いつもと同じで結構です」
「欲のないことだ。では、そなたの分は全てそうするとしよう。さて、ウォルフとルードニックは何を望む?」
「お菓子をたくさんください!」
「……壁の外の民に援助を」
二人が答えると、国王はニヤリと笑った。
「王城中の菓子をかき集めるとしよう。まあ……望むほどあるかはわからぬが。それから、壁の外の民の援助を今回は倍とせねばな」
ルードニックだけは意味がわかったのだろう。
バルトに驚きの視線を向けた。
「隊長殿は……今までずっと?」
「当たり前のことをしたまでだ。それに、もっと多額の援助をしている者もいる」
バルトは武功を上げるたびに、報奨を壁の外の人々のために使うよう申し出た。
生活であれば、バルト分の魔獣の素材をオルセイが売ったわけ前で十分すぎる。
明日死ぬかもしれない自分には不要な金だと思いながら、誰より生き延びているが……。
ちなみに、最も多額の援助をしているのかが誰なのか、バルトは知らない。
だが、案外近くにいるのかもしれない。
「さて、ではまずルビーとルドラに褒賞の一部を与えるとしよう」
国王が軽く手を挙げると、心得たように王城の侍女たちが現れた。
彼女たちはルビーとルドラににこやかに声をかけて連れ去った。
「さて、これから先のことであるが」
「……子どもたちには、やはり戦場はまだ早いと存じます」
バルトは思っていることを正直に口にした。
「だが、今戦わねば、子どもらは大人になることができぬだろう」
「――それは」
「戦います」
低い声はルードニックのものだ。
バルトは気がついていた。
ルードニックが、今回仕留めた魔獣はたった一匹。それでも、生き物を屠った。
ルードニックにとって覚悟の一撃であった。
「――俺も戦います」
「ウォルフ」
「斥候は殺されてしまいました。身軽な者が必要です」
確かに身軽で器用で戦うこともできる短剣使いのウォルフは、斥候に向いていることだろう。
だが、彼はまだ十一歳だ。
「どちらにせよ貴殿が生きている間は、彼らの育成を頼むほかあるまい」
「……」
バルトは不服そうな表情を浮かべたが……事実、彼らが扱う魔導具に触れ、使い方を指導できるものはバルト以外にいない。
他の魔石所持者ですら、魔石が嵌め込まれた他者の魔導具に触れることはできない。
ある時から、バルトだけがどの魔導具でも扱えるようになった。
そう、バルトの魔導具の魔石が砕け散った、九年前から。
「ということで、屋敷を用意した」
「は?」
「今の住処では全員住むには手狭であろう?」
「そ、そそそそれは?」
バルトは嫌な予感に声を振るわせた。
だが、確かに子どもらは騎士団の寮で住むには幼すぎるし……それぞれワケありだ。
「エンデローグ卿。子どもらと一緒に暮らすことを命じる!」
「……俺は!」
「「わーーーーい!! 隊長殿と一緒〜!!」」
フリルたっぷり、リボンいっぱいのドレスに身を包んだルビーとルドラが走り込んできた。
髪色に合わせてか、ルビーのドレスは赤、ルドラのドレスは淡いグリーンだ。
二人とも本当のお姫様のようだ。
今の会話が聞こえていたのだろう。二人はバルトに抱きついて、わーいわーいと歓声を上げている。
ルードニックとウォルフもバルトに縋るような視線を向けている。
バルトはお人よしなのである。子どもと関わったことがほとんどないが、面倒見が良い男だ。
――彼にこの状況で断るという選択肢はない。どちらせよ、この国で王命は絶対であるという事実は別にしても。
「陛下のご意向のままに」
彼はガックリと肩を落とし、国王の命令を受け入れ、子どもたちは両手を挙げて喜んだ。




