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不死身の生還者〜生き残り騎士は魔石の子らとの帰還を誓う〜  作者: 氷雨そら


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王都、共同生活 1


 目を覚ました瞬間、バルトは勢いよく起き上がり――低いうめき声を上げて腹部を押さえた。

 治癒魔法は万能ではない。

 ましてや九歳の子どもの魔法だ――精度はまだ低いのだろう。


「――メリーナがいるから、創は塞がるだろうと思ってはいたが」


 バルトは、とりあえず腹部を見て無事に傷が塞がっていることを確認した。

 あの状況で何もせずに治癒魔法をかけられた場合、切断された両足をきちんと元の位置に戻してから治癒魔法をかけなかった故に、左右逆についてしまった男のお伽噺のようになっただろう。


 だが、子どもたちがそうならぬように応急処置できるとも思えない。


 ――誰かがいた。多分それはあいつだ、とバルトは確信した。


「ルドラ」


 バルトは最低限の自身の状況を確認すると、ベッドの端に座った。

 出血が多かったせいだろう。ひどくふらつくが、彼は自身のことより戦いの最中に様子がおかしかったルドラのことが気になっていた。


 それに意識を失ったそのあと、魔獣が出てこなかったとも限らない。


「子どもたちは……」


 そのとき、勢いよく扉が開いた。


「……お前たち」


 子どもたちは、バルトと目が合った瞬間勢いよく部屋の中に走り込み、その勢いのままドカッとバルトに抱きついてきた。


「ぐ……」


 バルトの腹部に激痛が走る。

 しかし、彼は持ち前の強靱な精神力で小さくうめくに留めた。


「――隊長殿ぉ」

「隊長殿、ご無事で良かったです」

「――良かったよぉ」


 一番に抱きついてきたルビーが鼻水をすすりながら大泣きした。

 バルトの服はべしょべしょになったが、致し方あるまい。

 ルードニックもウォルフも大泣きで抱きついてきている。


「――ルドラ」

「隊長殿……」


 ルドラは元気がない。

 バルトは彼女の頭を撫でて笑みを浮かべた。


「お前のおかげで助かった……ありがとな」

「ルドラ、隊長殿のこと守れなかった」

「いや、生きてる。ルドラのおかげだ」


 死にかけであったが……これで済んだのは、間違いなくルドラのおかげだ。


「本当に?」

「ああ、本当だ」


 ルドラの目が急激に潤んだ。

 大粒の涙がこぼれる。彼女はバルトにしがみつくと大声で泣き始めた。

 つられるようにルビーまで泣き出したので、しばし部屋は騒然となり、バルトの服はさきほどよりさらに鼻水と涙でびしょ濡れになった。


 二人の頭を撫でながら、バルトはルードニックと向き合い口を開く。


「メリーナはどうした」

「……メリーナは」

「聖女様は、神殿に戻られましたよ」


 明るい声音、うさんくさい笑顔。

 部屋に入ってきたのは、商人オルセイ・ロードイアであった。


「――なぜ、お前がまたここにいる」

「あなたを王都に連れ帰ってきたからでしょうね」

「また、偶然通りかかったとでも?」

「金の匂いが漂ってきたもので」


 オルセイはうさんくさい笑顔でそう言った。

 事実、彼がいなければバルトはとっくに死んでいる。

 今までも高位魔獣と相対するたびにバルトはひどい怪我をしてきた。

 そこになぜか彼が通りかかって王都まで連れ帰ってくるのだ。


「――いつもどおりでよろしゅうございますね?」

「ああ、任せる」


 バルトはため息をついた。

 あまり金に頓着しないバルトは、高位魔獣の素材の処理をオルセイに丸投げしている。

 今回も、国王に献上する魔石や特に希少な素材以外彼が上手く売りさばいてくれることだろう。


「ところで、メリーナは神殿に帰ったのか」

「ええ、戻られてすぐに猊下が自ら聖女様を迎えに上がり、神殿に戻られました」

「……」


 オルセイの言う猊下とは、メリーナの祖父である神殿長を指す。

 通常であれば、まだ九歳のメリーナを家族が心配して迎えに来るのは当然であろう。

 だが、メリーナの言動からバルトはなんとなく不穏な空気を感じた。


「孫としてではなく――聖女、としてか」

「ええ、聖女様として、ですね」

「……」


 神殿はもともと独自の立ち位置を持つ。 

 国王の位は神殿が与えるものであり、メリーナの祖父である神殿長は国王に膝をつく必要がない立場だ。


 ――そもそも、十年前、王政は終わりを迎えるはずだった……。


 子どもたちは泣き止み、バルトを見つめている。


「ああ、国王陛下がエンデローグ卿が目覚めたら登城するようにと」

「そうか」


 バルトはふらつきながら立ち上がった。


「そんなにすぐに行かなくても……生きているのが不思議なくらいですよ?」

「ああ、そういえば……俺の臓物が無事に体内に収まっているのはお前のおかげだろう? オルセイ、感謝する」

「――今回も、たくさん儲けられたので……こちらこそ感謝しております。ああ、子どもたちも一緒に来るように、と仰せでした」

「子どもたちも……か」

「ええ、子どもたちも。あなたは、まるで物語の序盤に死んでしまう親切な脇役のよう――見ていられないのですよ」

「余計なお世話だ」


 そうであれば、バルトはもうとっくにここにいないはず。

 バルトの周囲には主役となるべき人間がたくさんいたのだ。


 ――今はもう誰もいない。


 オルセイは再びうさんくさい笑みを浮かべると一礼して去って行った。

 つかみ所のない男ではあるが……ここまではっきりと金が目的と言われればいっそ清々しいくらいだ。


「……さて、今度は何を命じられるやら」


 戦いの前には『生き残れ』とだけ命じた国王だが、基本的に情で動く人物ではない。

 だが、素の彼をよく知るバルトにはわかっている。

 彼は、誰よりも情に厚いからこそ、国民を守るためにどこまでも非情なのだ――と。


 

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