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不死身の生還者〜生き残り騎士は魔石の子らとの帰還を誓う〜  作者: 氷雨そら


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2/12

魔石の子ら 2


 どれくらい焚き火を見ていただろうか。

 人の気配を感じてバルトは振り返る。


 銀の髪と瞳――まるで月の化身のような少女だ。


「メリーナ、皆と菓子を食べていたのではないのか」

「……」


 彼女は、終始無表情である。

 神秘的であると同時に、九才いう年齢に見合わない大人びた印象を受ける。


「……エンデローグ卿。質問をお許し願えますか」


 部隊長になるにあたり、国王から賜った家名……庶民であるバルトはまだ慣れない。彼の返答は少し遅れる。


「ああ、なんなりと」


 子どもからの質問だ。他愛ないものかもしれないし、本質を突いたものかもしれない。


「……なぜ、戦うの」

「……なぜって、それは」


 バルトは口ごもった。


 ――初めは復讐心から。


 彼の故郷を奪った魔獣を根絶やしにしようと思った。


 ――そのあともやはり復讐心だ。


 全てを失い、ようやく手に入れた仲間たちを奪われ怒りを糧に戦ってきた。

 しかしもう、彼らは一人も残っていない。


 だからバルトは、最前線に向かうことを決めたのだ。そして、それは受理された。


 メリーナはバルトの答えを期待していないように見える。

 それでも死地を探している、と幼い子どもに言うのは気が咎めた。

 だからバルトは、先ほど決意したばかりの誓いを口にした。


「お前たちを守るため――かな」


 せめて五年、という言葉を呑み込んで。

 するとメリーナは、銀色の瞳を大きく見開いた。


 魔石に選ばれた子らは、皆に共通点がある。それは、彼らに襲いかかった魔獣の襲撃から生き延びたことだ。


 彼らを助けたのはバルトだ。さらに彼らが手にした魔石を魔獣から手に入れたのもバルトだ。


 数奇な運命。しかし彼女は例外だ。

 目の前にいる少女、メリーナ・リーゼハルトは、他の子らと生まれも立場も違う。


 メリーナは、国境にある中央神殿自治区の神殿長の孫娘だ。

 魔石に選ばれたことは事実のようだが、他の子どものように武器となる魔導具を持たない。


 魔導具の代わりに彼女が持つのは、人が失いつつある高い魔力。

 彼女が持つそれは治癒、そして壁の維持に欠かせぬ力だ。


 もちろん彼女もたった九つとは思えぬ人生を歩んでいる。


 聖女である母の胎内にその命が宿った時、国境の壁が崩壊した。命は厳密にはいつ宿るか……そのあたりは曖昧ながら。


 二つ目の壁が崩壊した日、彼女は産声を上げた。聖女である母の死と引き換えに。

 

「聖女殺しの聖女……でも?」


 今の悲惨な現状が、彼女のせいであると言う者もいる。だが、バルトの考えはもちろん違う。


「俺の部下にそんな名の人間はいない。メリーナ、お前のことも上官として守る」

「……」


 メリーナの表情はやはり変化がない。

 代わりに唇が微かに震えた。


「では、どうか国境の壁まで連れていって」

「国境の……壁? 最前線だぞ」

「……」


 それは、バルトが幼い頃から見慣れていたどこまでも果てしなく続く壁だ。そして、平和だったあの場所は今、高位魔獣との戦いの最前線となっている。


「メリーナ、隊長殿と二人きりでお話ししてずるーい! ルビーもお話したかった!」」


 暗い雰囲気を打ち壊すような、元気な声が背後から聞こえた。


「もう、メリーナ。ルドラが、せっかく呼びに来たのに〜」


 そのあとに続く声は、ルビーにそっくりだがややのんびりしている。


「ねー、ルドラ?」

「ねぇ、ルビー?」


 ルビーは赤いツインテールを、ルドラは淡い緑の三つ編みを揺らし腰に手を当てている。


「ほらっ、このままじゃウォルフがお菓子全部食べちゃうよ」

「メリーナ行きましょ。お菓子食べそびれちゃいますよ〜」

「私は……」


 メリーナは、同じくらいの子どもと接したことがないのかもしれない。ひどく困惑している。


「行ってこい」

「……」

「隊員同士交流を図るように。上官命令だ」

「かしこまりました」


 メリーナは、ルビーとルドラに手を引かれて去っていく。


「あっ、そうだ!!」


 天幕に入る直前、ルビーがバルトの元に駆け戻ってきた。


「隊長殿の分ですよ〜!!」

「むぐ!?」


 バルトの口の中に広がったのは、これでもかというほど砂糖を使ったヌガーの甘みだ。


「では!!」


 ルビーが走り去る。


「あいつらを連れて……前線かぁ」


 甘いものが苦手なバルトの口の中は、いつまでも甘ったるかった。


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