第8話 着せ替えは程々に
「骨格も間違いなく健康な10代女性の物です。身体の組織にも特に異常は見受けられません。何の心配もありませんよ」
良かったですね。と先生は優しげに微笑んだ。
今日はボクが女の子になって5日目。週も明けた月曜日だ。
昨日出張から帰って来た父さんと、母さんとの三人で、再びお医者に来ていた。
今日は、朝一番から血液検査やらMRIやらの精密検査をやらされた。
血液検査は小さな試験管(?)で、7本分も血を取られた! うーー、採血キライ……!
MRIでは、全身くまなく撮影されて、結果は今、先生が言った通りだ。
ボクの身体は間違いなく、上から下まで完全に女の子になっているそうだ。
先生は前回診てくれた、おじいさん先生ではなくて、若い女の先生だった。
堀越先生と言う、お姉さんみたいな人だ。
堀越先生は、前の先生のお弟子さんみたいな立場な人で、これからボクの担当の先生になってくれるそうだ。
茶髪がちょっと派手で、あんまりお医者さんらしくないなと思ったんだけど、綺麗なお姉さんに優しく微笑まれると、なんだかホッとして、こちらもつい笑い返してしまう。
「体力も戻って来ている様ですが、学校への復学は、体調を見ながら行なって下さい」
問題が無ければ、後2~3日で学校へ行っても良いと言われた。
他にもいくつか、女性化した事で考えられる注意点を教えてくれた。
「他に何か聞きたい事はありますか?」
一通り説明をしてくれた後、堀越先生がコチラに訊ねて来た。
聞きたい事かぁ~……、んーーー……。
「何でこんなに胸大きいんですか?」
つい聞いてしまった……!
よりによって何でソコかよ?! と思わなくも無いけどさっ……。だって気になっちゃったんだモン!
だってFカップだよ?
そう! Fカップもあるのだボクのブツは!
この歳でコレは大き過ぎじゃない?!
母さんも小さくは無いんだけど、コレは遺伝を超えて無い?!
「あー、そうですね、突発型の方に良く見られるのですが……」
先生の話では、ゆっくり変わって行く普通タイプの人達と違って一晩で変化する突発型の場合、一気に女性ホルモンが大量に分泌されるのだとか。特にエストロゲン……だっけ? だかが一気に沢山出て、身体の変化が急激に促進されるのだそうだ。
「なので、大きくなられる方が多いんですよ」
と先生は仰った。
「えっと、それじゃもしかして、男性化しちゃう人達って……」
「ええ! それはもう皆さん大変ご立派に……」
「「ほほぅ……」」
「ゴホン、ゴホン!」
父さんの咳払いで、つい前のめりになったボクと母さんは、視線を泳がせた。
「あ、えー……いいですか。身体の急速な変化に伴い、気持ちの在り方も変わっていきます。これまでと違った考え方や、趣向が現れる事もあると思いますが、それとシッカリと向き合い受け止めて上げて下さい。それは紛れも無く、あなた自身なのですから」
「それでは、次回の予約を入れてしまいましょうか?」
先生が、空気を変える様にそう言った。
暫くは、毎月経過観察と検査を続けて行く事になるそうだ。
うぅぅ、毎月採血されるのは気が重いなぁ……。
その後は、今度はボク担当のカウンセラーさんを紹介された。
こちらも女の人で、なんだかホンワカした感じの人だった。
年齢は堀越先生よりちょっと上かな? 20代後半って感じ。
笹本葉子さんと仰るそうだ。
今日は初めてなので、簡単な自己紹介と連絡先……L〇ENの交換だけした。
ヨーコさんは「いつでも連絡してね」と言ってくれた。
病院を出た後は、三人で食事をした後買い物に行く事になっていた。主にボクの服関係……。
今も元の男物を着てるので、サイズ的にブカブカだ。
具体的には、サイズが大きすぎて肩の出かかっているTシャツ。
これまたサイズがブカブカなので、ベルトで思い切りウェストを絞めて裾を折り返して履いているジーンズ。でも、ヒップ周りは少しきつめに感じるから不思議。
足元は母さんのサンダルをお借りしてます。
流石に、いつまでもこのままではどうしようもないので、母さんが女物を見繕ってくれる事になっていたのだ。
それと学校の制服も……。
病院で先生も言っていたし、そろそろ学校にも行けそうだからね。
これからは女子の制服を着るのかぁ……。と考えると、微妙な気持ちになって来るんだけどさ……。
お店では、ブラウスにタイとスカートは直ぐに用意して貰えた。
でも制服上着はお直しが必要な為、数日時間が必要なんだとか。
まあ衣替えはまだ随分先だからね。「休みの日に自分で取りに来ます」と、お店の人には伝えてお願いして来た。
そんなこんなで家に帰ると、もう3時近くになっていた。
家に着くと直ぐ、父さんと母さんは連れだって仕事に出かけた。
ボクの通院に合わせて、仕事の予定をずらしてくれたので、今夜の帰りは遅くなるそうだ。
「美古都ちゃんが、学校が終わったら今日も来てくれる事になってるから。三人でお夕飯食べててね」
母さんがそう言って、二人で慌ただしく出かけて行った。
ホントご迷惑おかけしてます。
二人が出かけた後、自分の部屋で買って来た服を片付けていると、いつもの様に慌ただしい足音が響いてくる。
そしてこれも、いつもの様に遠慮も無くボクの部屋のドアを開くと、そこに広がっているボクの新しい服を見て、ミコトの目が思い切り輝き出した!
ぬぅっ! 嫌な予感しかしない……。
案の定、今すぐ全部着ろとか言い出した!
これはどー考えても、ボクの事を着せ替え人形か何かだと思って、遊び倒そうとしているのに違いない!!
ボクがそう言うと……。
「そんな事あるワケ無いじゃない! アンタ女の子の服の着方分かんないでしょ? それを一通り教えて上げようってだけじゃない!」
そうミコトは言い返して来たけど……目が泳いでるよ?!
まあ、なんだかんだで結局ボクは遊ばれてしまったワケなんですが……シクシク。
「あ! このフレアのミニなんてカワイイじゃない!」
「ぅえ?! なんだこのスカート?! いつの間に!?」
「おばさん分かってるなー。ホラ、次はコッチ履いて履いて!」
「ぬ、脱げるから! 自分で脱げるから! 下ろさないでよ!!」
「ふーん……、やっぱりブラウスにパンツだけってエロイね!」
「な! なに言ってんのさ?! オヤジか?!!」
「イイからイイからホラ履いて! ……うん、良いじゃない! やっぱりカワイイ!」
「そ、そう? で、こんなんじゃ歩くだけで捲れない? なんだか凄い不安感あるんだけど?」
「そう? 大丈夫よ、慣れよ慣れ! ンふ♪」
「んな!! な、なんで捲り上げるのさ?!!」
「えー? だって、こんなの目の前に出されたら、捲り上げないワケに行かないじゃん♪」
「バカなの?! オヤジなの?!!」
「イイねー! 反応が初々しくて、女の子っぽくて実にイイ!!」
「やっぱバカなの?!!」
こんな感じで、ボクは完全にミコトのオモチャだった。
そして最後に……。
「うん、イイよ似合ってる♪」
「そ、そう? 変じゃない? ス、スカート短すぎない?」
「ダイジョブよ! 皆こんなモンよ?」
……最後に着せられたのは学校の制服だった。
今日、医師の許可も貰えたので、今日明日、体調に不安がなければ、明後日の水曜日に登校しようと云う事になっていたのだ。
ミコトは、チェック柄のプリーツスカートをウエスト部分を幾重にも折って、丈を短くするやり方を教えてくれた。
「そ、そうかな? ミコトのより随分短くない? さっきのミニより短い気がするんだけど?」
「うん? 気のせい気のせい! 全然普通だよ?」
ミコトはそう言うけど、やっぱりずいぶん短い気がする。
股下が、今までで一番風通しがいい感じなんだよね。
姿見を見ようとしても、何故か目元を思いっきり緩めたミコトが鏡の前に立ってボクに見せようとしない。
なんだ? この怪しい行動は?!
そんな疑問は、帰ってきたユウジの一言で吹き飛んだ。
「な、なんで、に……ねえちゃん……、パンツ出してんのさ?」
やっぱり短かった!!
ミコトが調整したスカートは、少し動くだけでも正面からパンツが覗く位まで、メッチャ短くなっていたのだ!!
ユウジ位の下からの目線では、完全にパンツがはみ出す程の短さだ!!
その犯人はユウジのその言葉の後、舌打ちの音を盛大に部屋に響かせたのだ。
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