第7話 下着だってイイじゃない
「寝てるの? ……開けるよ?」
もう一度ノックしながら、開けると言って来た。
ヤバい!
急いでそのままトランクスに脚を突っ込んで引き上げた。
ボクの脚の間は今、大変な事になっているのだけれどそのまま上げたので、トランクスの中も大変な事になったと思われる!
でも、今はそんな事を気にしている場合では無い! トランクスを履いた勢いでベッドの上にお尻から着地して、そのままベッドの上に放り投げてあったシャツを拾い上げ、それに頭を突っ込んだ。
で、でも、なんか突っかかって引っかかって、上手くシャツが着れない!
ベッドの上で、シャツとジタバタと格闘している間に扉が開いてしまった! あひゃあぁ……!
「……何やってるの? ミナト?」
「シャ、シャツがう、うまく着ねにゃくて……」
噛んだ。
顔を真っ赤にして胸を出したままシャツを着かけているマヌケなシーンを、ミコトに見られているという羞恥イベントが発生していた。
い、いあ! それだけならまだイイが! いや! 良くないがっ!
もしその前の、ボクがやっていた事まで見られていたとしたら…………。恥ずかしさで、気がどうにかなりそうです!!
もう、死んでしまう!!!
「それ、胸の下に腕を入れてるからシャツが伸びないんでしょ? 先に腕を通しなさいよ」
ミコトは溜息を付きながらそう言って、部屋の中に入って来てボクの着かけていたシャツを着直させてくれた。
「まったく! ちょっとは自分の身体の構造を自覚しなさいよね!」
そう言ってミコトはボクの頭に手を乗せ、ポンポンとする。
「……別にあたしのだって、……小さい訳じゃ無いのに」
「え?!」
「え?」
え? ミコト今なんて言ったんだ? 良く聞き取れなかったゾ?
「そ、それで? まだお昼前だけど、家には誰も居ないの?」
なんか慌てた様にミコトは顔を背け、「……チョッとこの部屋暑いね」とか言いながら部屋の窓を開け放ち、庭先に目線を送っている。
ひょっとして、さっき頑張ってしまったから部屋に熱が籠ってた?!
でもでも、ミコトってば普通に話しかけて来てるな……。これは、見られてないかな? 気付かれてないかな? セーフかな?
「ミ、ミコトは……、お、お昼回ったら来るって……聞いてたけ……ど?」
気付かれていなかったかもしれないけど、やっぱりナンカ恥ずかしくて、思わずベッドの上の枕を抱えながら聞き返した。
「買い物が早く済んだからね。とりあえず来て見たの」
「……かい……もの?」
「そ! コレ!」
そう言ってミコトはベッドに膝を乗せ、ボクの鼻先に持っていた紙袋を突き付けた。
「アンタのだから」
ミコトはそう言って、その袋をボクに開けろと言う。
朝から買い物に行ってたっていう話だけど、一体なんだと言うんだろ?
袋から出て来たのは、薄水色でフカフカとした丸っこい布地のモノだ。
ブラだった。
「うひゃわわ! 何でこんなモノ?!」
「何言ってるの? アンタが付けるのよ?」
「え? ボクが?! な、なんでこんな……」
「いい加減、そのまんまユサユサさせていらんないでしょう?」
「……ユ、ユサユサって…………」
「後何日かしたら、もう外に出ないとイケナイのよ? アンタそのまんまで外を出歩く気?」
そう言ってミコトは、ボクのシャツの胸元で自己主張している、小さな突起部分を指先で突いて来た!
「ひにゃ?! にゃ、にゃめっ!!」
さっきまでしてた事もあって、必要以上に感度が鋭くなっている部分を刺激され、自分の意志とは関係無しに身体がビクリと反応してミコトから反射的に距離を取った。
そのまま胸を腕で隠す様にしてミコトに抗議した。
「い、イキナリ何すんのさー! ミコトの痴漢!!」
「ち、痴漢ってなによ?! アンタがそんなモン何時までも突き出してるからイケナイんでしょーが」
「……そ、そんなモン……」
「どうせ着け方分んないんでしょ? 教えて上げるからサッサとシャツ脱いで」
「う……、そ、そうだけど……。今着たのに……?」
「イイから脱ぐ!」
「あぷぅ!!」
「ホラ下向いて……。身体ごと……、腰を曲げて、そ!」
「……ぅ、ん!」
「ホラ、こうやって掬う様に包み込んで、前のホックを止めなさい。そ、ホラ、これを引っ掛けてスライドさせて……ほらハマった。で、そのまま前向いて、……こうやって手で位置を直しながら形を整えて……」
「ンっ! ンん! そ、そんなにぃ! 動かしにゃ! なめぇにゃ!」
ブラのカップの中で、ボクの胸を動かすミコトの手の動きに悶絶してしまう。
「うん、収まったんじゃない? 後は肩紐を調節して位置を整えて……。変な感じではない? ちょっと上げる感じで収めるのが楽よ?」
「ん……こんな、こんな感じ?」
「うん、カワイイ。やっぱり良く似合ってる」
「……え? ……ぁ、そ、そうなの……?」
なんだか、『カワイイ』と言われて不思議な気持ちが湧いて来た。
恥ずかしいと嬉しいの間の様な変な感覚にフワフワしてると、ミコトがいきなり爆弾を落として来た。
「じゃ、サッサと下も履き替えちゃいなさい」
「へ? な、なに? した……って?」
「下よ、下! パンツ履き替えなさいって言ってンの!」
「へ? こ、これ? え? え?! ぅええ?!!」
「上じゃない! 下! ショーツ!」
ミコトはボクに、女物のパンツを履けと言って来た!
いくらなんでもハードル高くない?!
ボク、ほんの数日前まで男子だったって、判って言ってるのかなこの人は?!
「い。いや! 無理でしょ! いくらなんでも! 女物のパンツだよ?」
「そうよ、女物よ?! 何言ってるの? 男物をいつまでも履いてる訳に行かないじゃない」
「え? ……あ、いや……、そ、そう、そうかもしれないけど……。で、でも! 心の準備と言うモノが……」
「なに? またそのパンツ、あたしに脱がせて貰いたいの?」
「んにゃ! にゃにを?! そんにゃわけ! じ、自分で、にゅげるしぃ!!」
思い切り噛んでしまう。
「そ? なら早く脱いでコレ履いて、ホレ」
そう言ってミコトが、ブラとお揃いの色のパンツを、ボクの目の前に突き出して来る。
「え? ……今?」
ミコトが無言で頷いた。
「ミ、ミコトの前……だよ?」
「いいじゃない、どうせ女の子同士でしょ? 見てて上げるから早く履き替えなさいよ」
「いやいやいやいや! ダメでしょ?! ボク、ついこの前まで男子だったんだよ?! 知ってるよね?!」
「これ以上ないくらい知ってるわよ?」
「なら分るでしょ?! フツー! 女の子の前で、パンツなんか脱げないからね?!!」
「だから今は女の子同士なんだから平気でしょ? って言ってるじゃない。モノ分り悪い子ねぇ?」
「そーじゃないでしょ?! ねえ? 違うよね?! ねえ? ミコトぉぉ~~~……」
「あーーもう、ハイハイ分りました。分ってます! 直ぐ涙目になるんだから、もぅ! おふざけは止めてソッチ向いてるから、早く履き替えて?」
お、おふざけって……やっぱりボクは、からかわれてたのか?!
ナンカ少し、目元が笑ってる感じしたからおかしいなとは思ったけど……う゛~~~ミコトのいぢめっ子!! そのうち泣くからなボクは!! うぅぅ~~……。
少し涙目になりながらも、ボクはベッドから降りた。
ミコトは背中を向けて「早くしなさいよ」とか言ってる。
う~~~……、ホントは履き替える間くらい部屋から出て欲しいんだけど、そんな事を言うとまた話が長くなって色々余計にいじられそうな気がするしぃ。
後ろ向いて貰ってるのが妥協点なのかなぁ……。しょうがない! サッサと素早く済ませてしまおう!!
「コッチ……見ないでよ?」
「わかってるから、早くしなさいよ!」
流石にミコトの正面を向いてパンツを下ろすとか出来ないから、ミコトにはお尻を向けてトランクスを脱いだ。
あ……いと。
屈んで脱いだトランクスを脚から外した時、チラリと後ろのミコトに視線を向けると、ピクリとミコトの顔が動いた気がした!
「い、今! コッチ見……」
「み、見て無いから!!」
間髪入れずミコトに否定された。
「で、でも今……」
「なに?! やっぱり履かせてほしいの?!!」
「い、いえ!! 履きます!!」
慌てて脱いだトランクスをベッドの上に放り投げ、紙袋から出しておいた水色のパンツに脚を入れた。
ホントはトランクスの内側は、さっきの余韻で凄い事になってる筈だから、コッソリ隠しておきたかったんだけど今そんな余裕は全く無かった。
履いたパンツは上げる時に少しお尻の部分で抵抗感じたけど、ソコを越えるとパチンと綺麗に収まった。
そうか、トランクスは男子だった時のサイズだからブカブカで気付かなかったけど、お尻が少し大きくなってるかも。
でも腰回りは細くなってるよね? コレ。
「出来た?」
「う、うん」
「ほら、ちゃんと見せて。手で胸元隠さないの! 手は後ろ! ちゃんとセットで着けてるトコ見せて」
「……う、うん…………。ナンか、コレ……スんゴク恥ずかしいんだけど……」
「いいわよ……うん。イイ、似合ってる……、やっぱり可愛い。うん!」
「……え? ……う、うん……、そ、そう……なの?」
ミコトに何度も『可愛い』と言われると、決して悪い気はしない。
むしろ、なんだか嬉しいんだか恥ずかしいんだかで、モジモジと落ち着きが無くなってしまう。顔もきっと赤くなってるんだろうなコレ……。ほっぺたがさっきから熱い。
「やっぱり毎日何度も揉みまくった甲斐はあったって事よ。ブラのサイズもピッタリでしょ?」
「ぅえ? そうなの? 只楽しんでただけでしょ?! ボクの胸揉んで遊んで楽しんでたよね?!!」
「そんな変態みたいな言い方は誤解を生むから止めて欲しいな。純粋に好奇心から計測を続けていたに過ぎないのだよ? ワタシは」
「物言いが胡散臭いぃぃ~」
「もうイイじゃない。せっかくミナトが可愛くなったんだから、ね? カワイイは正義よ?」
「ぅぅううーーー、なんか煙に巻こうとしてるーー」
「いいから、そんな顔しないの……ネっ♪」
そう言うとミコトはイキナリ、ボクの股間に手を当てそのまま指先でペロリンっと撫で上げた!
「はにゃっ! やにゃ!! ひにゃぁぁあぁーーぁぁぁ……!!」
最重要な場所への突然のダイレクトな攻撃に、ボクは思わず変な声を上げて後ろへ跳び退き、その場で蹲ってしまった。
「……うーん、やっぱり……女の子」
「にゃ、にゃにしゅんのぉぉ?!!」
「えーと。確認と……挨拶?」
「どこにさ?!!」
「そんな事より、ほら、そろそろユウジが帰って来る時間じゃない?」
「そ、そんな事?! そんなアッサリした問題?!! ……でも、あぅ、確かにもう帰って来る時間だ……」
「そうでしょ? ホラ! これはあたしが洗濯物の所に持って行ってあげるから、アンタは支度して降りて来なさい」
そう言うとミコトはボクが脱いだトランクスを持って、トットと部屋から出て行ってしまった!
そ、それはボクの大変な事になっているパンツでーー!! と、ボクは膝を付き虚しく手を伸ばして見たモノの、既にミコトの姿は無く……。
ま、まあ、洗濯籠に放り込んでくれれば良い訳で……。
まさか広げて見やしないだろうし…………見ないよね?!
と、とにかく、ボクも下に降りよう。
ユウジにお昼を作ってあげないとね、きっとお腹減らせて帰って来るから。
どうせミコトも一緒に食べて行く気なんだろうし……。ま、簡単にミコトの好きなカルボナーラでも作ってあげようかな。
そんな事を考えながら、ドレッサーに仕舞っておいたボクのエプロンを取り出した。
これは去年、誕生日に料理が得意なボクにとミコトがプレゼントしてくれたモノなんだけど……。
男のボクにこのヒラヒラとレースの付いたエプロンをチョイスするとか、どういうつもりだったんだろね?! まあボクもシッカリ使ってたけどさ!!
そんなヒラヒラエプロンで下に降りて、キッチンで料理を始めようとしていたら、そこにやって来たミコトに「何やってんの!」と思い切り後ろ頭をひっぱたかれた!
「下着にエプロンとか……それなにプレイ?! ユウジが帰って来る前にナンカ着て来なさい!」
真っ赤な顔してミコトに怒られた。
ハシタナイ言われた。
散々セクハラしてくるミコトに言われるとか、とってもすンごく解せないんだけど!
お読み頂き、ありがとうございます。
おもしろいと感じられましたら、ブクマ、ご評価頂けますと、作者のモチベーションが駄々上がりします!!よろしくお願い致します!