第5話 キレイなおねえさんでも良いですか?
結局、三日間ベッドから出られ無かった。
始めは部屋から出てトイレに行くのが精一杯で、少しの時間立っているのも厳しかったんだ。
食事はベッドまで母さんが運んでくれて、そのまま食べていた。
まるで、本当に重病人になってしまった様な気分だ。
実際最初の二日の間は、ホントに殆ど寝てばかりだったんだよね……。
身体が、とにかく休む事を求めてるって感じだ。
こんなベッド生活は、中一の時にインフルで一週間休んで以来だ。
熱こそ出ていないけど、あの時もやっぱりこんな感じだったかな?
その間、ミコトは毎日部屋まで来てくれた。
そして来るたびに学校での話をしてくれた。
ボクの特殊な状況も「クラスの皆に上手く伝えてあるから、安心して学校に来て良いよ」と言ってくれている。
ボクの為に、ミコトは色々と骨を折ってくれているらしい。
ミコトが居てくれて、ホントに良かった。ありがたくって嬉しくて、涙が出そうになる。
眠気が来るとミコトは手を握ってくれて、寝入るまでそのままで居てくれる。
そうして貰うと、すごく安心して眠れるんだ。
それでベッドから出られない間は、お風呂に入れなかったので、身体を拭いて貰っていたんだけど……。
これも、毎日ミコトがやってくれた。
最初はとてもじゃないけど恥ずかしくって遠慮したんだけど、半ば強引に「もう女の子なんだからキレイにしないとダメなんだからね!」と、どういうワケか逆切れ気味に説得? されて、ミコトの手でされるがままに扱われた。
優しく丁寧に拭いてくれるから、気持ち良いんだけど……。
うなじや、耳の後ろなんか凄くくすぐったいし、脇の下や脇腹なんか、もう恥ずかしくってくすぐたくってジッとナンかしてられない。
足指の間なんか、それこそ悶絶しそうになって、抑え付けられながら拭かれてた。
勘弁して欲しいのは、いつも胸元を拭くときに、必ずソレをワシワシと揉みまくって来る事だ。
ソコは自分で出来るって言っても、聞いてはくれない。
何でこんなに大きいの? どういう事よ? とか言いながら毎回だ!
ボクは、そんなミコトの言葉に恥ずかしくなりながらも、その手の動きに耐えるのに精一杯になってしまう。
最初の日からやって貰ってたんだけど、三日目なんてもう揉み方にも遠慮が無くなってた!
ミコトに抗える力などある訳も無く、ただ身を捩って出そうになる声を必死で堪えてるボクを、ミコトは面白そうに見てるのだ。
ひょっとしてミコトはボクのこの胸を、新しいオモチャか何かと思ってるんじゃないだろか?!
……まあ、それでもミコトが楽しいんなら良いんだけどね……。い、いや! やっぱり程々にはして欲しい! ……かな?
流石に身体を密着されて、こんな事されるのはかなり恥ずかしいんだ。
なんだか、ミコトのスキンシップが激しくなってる気がする。やっぱり最初の日に、思い切り泣いて甘えてしまった事が影響してるのかもしれない? 今思い出すと恥ずかしくてしょうがない。確実に黒歴史だ。
ミコトにタオルで身体を拭いて貰った後は、やっぱり恥ずかしくって火照った顔を見られたく無くて俯いてしまう。でもそっと見上げると、ミコトは嬉しそうに笑ってボクの目線に答えてくれる。
そしてそのままボクをギュッと抱きしめて来るんだ。
ミコトの柔らかい胸元に顔を埋めてると、やっぱり安心して嬉しくなって、そのままミコトの背中に手を回してしがみ付いてしまう。
そうするとまたミコトの腕に力が籠って、更にギュッとされて優しく髪を撫でてくれる。
こうされるともう、甘やかされるのが安心で心地良くってされるがままだ。まあ、良いかな? このままで……うん。
髪も、二階の洗面台でミコトが洗ってくれてた。
結構長く伸びていたから、中々洗うのは大変だ。シャワー付きの洗面台なんだけど、それなりに苦労していたと思う。
髪を乾かした後は、ミコトが持って来たヘアピンで前髪を止めてくれた。
何もしていないと完全に目が隠れて、有名ホラー映画のアレに見えてもおかしくなかったからね。
ヘアピンで目元が出ると、視界がすっきりとする。
着けてくれたヘアピンは、ビーズが沢山着いた綺麗な物で、鏡を見せて貰ったらホントに女の子みたいだと思った。
……いや、今はホントに女の子なんだけどね、……実際。
そんなボク等を、ドアの所から覗き込んでいるユウジの視線に気が付いた。
おかえり、と声をかけると。
「……にいちゃん…………なんか、変だ!!」
そう言って、走って部屋から離れてしまった。
バタバタと足音を響かせるユウジに、「コラッ!」とミコトが声を上げる。
その後で、「ちゃんと言い聞かせておくから!」「全然変じゃないから!」とミコトは慰めてくれたけど……。ボクは、その時のユウジの態度に少なからずショックを受けてしまった。
昔から、父さん母さんが仕事で家に居ない事が多かったウチでは、ユウジの面倒は小さい頃からボクの役目だった。
晩御飯だって、平日は大抵ボクが用意していた。
ユウジの、取れたボタン付けなんかもやっていたし、お風呂も一緒に入れていた。
そんな事もあり、ユウジは随分『お兄ちゃん子』になっていたんだと思う。
ユウジからしたら、懐いていた『にいちゃん』がイキナリ『ねえちゃん』に変わってしまったんだ。
ショックを受けない訳がない。
ユウジの気持ちを考えると、申し訳ない気持ちで一杯になって落ち込んでしまう。
「ユウジめぇ……、テレまくってやがる」
「は? なに?」
「あれはテレちゃって、ひねくれちゃってるってヤツだって言ってんの! うん!」
「はいぃ?」
ミコトが思っても居ない事を言いだしたので、思わず変な声で問い直してしまった。
「まあ、ユウジの気持ちも分からなくはないけどねぇ」
「え? そうなの?」
「ミナトも分かるでしょ? 想像してごらんよ。イキナリ家の中に綺麗なお姉さん現れたんだよ? まずドキドキしちゃうでしょ? 男の子ならさ!」
「う、うん、そうかもしれない……ね?」
「男の子の気持ちなら分かるでしょ? ミナトだって、ちょっと前まで男子だったんだから!」
「……う、うん、そうなんだけどね」
確かにボクは男の子の気持ちは分かるけどぉ……。ミコトも男子の気持ちが分かるの? なんか男子目線で話してないか?
まぁ、そんな事を口に出したら、大変な地雷を踏み抜く気がするので、絶対に言わないけどさ!
「て、ていうか……き、キレイなおねえさん?」
「うん?」
「……だ、誰が?」
「ミナトの事よ。他に誰が居るの?」
「ぅうぇええっ?!!」
「すっごい美人! ビックリするくらいの美少女だよ!」
「ななななななななな」
「こんなの、ドキドキしない方がおかしいからね?!」
そう言いながらミコトは、ボクの両肩をガッチリ掴んで顔を近付けて来る。
ちょ、ちょっと待ってよ! そんなに顔が近くに来たら、ドキドキするのはこっちだよ!
「まままま、まって、待って! え? ぇ? え?」
美少女と言う辺りもツッコミたいけど、それ以上に鼻先まで来ているミコトの顔に、頭が茹だってしまう!
顔が猛烈に熱いのが分かるけど、どうしようもないよコレ!!
あ、は、鼻先が、触れた……。
「…………ヤバい」
「え? ぇ?」
「何でもない!!」
ミコトはそう言うとプイっと顔を背け、グイっと腕を伸ばしてボクから離れた。
全く……、ヤバいのはこっちだよ! 茹だった顔に気付かれなかったかな?
……っていうか、ミコトは何に対してヤバかったんだろ?
「よし! ちょっとユウジに言い聞かせて来る!」
「え?」
「ちょっと待ってなさいよ! 今、素直なユウジを連れて来て上げるからね!」
ミコトはそう言ってニヤリと男前な笑顔をボクに向けて、ドタドタバターと慌ただしくユウジを追いかけて、ボクの部屋を出て行ってしまった。
向かったのはユウジの部屋か……。ユウジの部屋の方からギャーギャー騒ぐ二人の声が聞こえて来る。
ふぅ、今のちょっとしたやり取りで、何だかいきなり疲れてしまったよ。
思わずそのままボクはベッドに倒れ込んだ。
とにかく顔の火照りを何とかしようと、ボクはパタパタと手のひらを動かして、顔に風を送っていた。
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