第3話 ミコト襲来
ボク達の住む町は、私鉄の駅を中心に広がる作りで、市内では標準的な住宅地だと思う。
南北に走る大きな街道と並走する私鉄の駅は、地下鉄も止まり駅ビルもちょっとした大きさだ。なので大体の物はこの近辺で事足りるらしい。
その大きな街道から西に一本入ると、その街道と並行して川が流れている。
決して大きな川ではないけれど、これを5キロほど下れば、もう港にまで出てしまう。
そしてその川沿いには、3キロ以上に渡り数多くの桜が植えられている。
季節ともれば、県内でも有数の桜の名所であるこの川沿いは、多くの人が集まって来るのだ。
川の沿道は川面からは3メートル程の高さがあり、そこに植えられた桜は、その枝を川面へと長く垂れ伸ばして所々アーチを作っている。
満開時に風が吹けば、桜吹雪となった花びらは、やがて川面に落ちて壮大な花筏を作る事になるのだ。
この時期、桜が立つ沿道には数多くの露店も出て、一週間ほど桜祭りの賑わいを見せる。
この時期が、ボク達が子供の頃から一番楽しい季節だ。
沿道から階段で下に降りると川縁にもちょっとした遊歩道があるのだが、普段はお年寄りのお散歩や、時折子供達が走り回るのを見かける程度だ。
だがこのお花見の季節では、多くの人が川の水に触れ、満開の桜を見上げて、川沿いの道を楽しんでいる。
桜が満開なら、場所によっては桜のアーチを潜る様でとても幻想的だ。
なのでこの時ばかりは、人がやっとすれ違う程度の幅しかないこの遊歩道が、大変な渋滞に見舞われるのだ。
そして普段はあまり人通りの無いこの遊歩道は、商店街に繋がる小さな橋の下にも通っている。
橋の下にいると、上からでは完全に見えなくなってしまう。
そこは小さな頃のボクのお気に入りの場所でもあった。
小さな頃は、何かあると直ぐそこに隠れて泣いていた思い出がある。
でも、そんな時は大抵あの子が迎えに来てくれた。
笑顔でボクに手を差し出し、もう大丈夫だとボクをそこから連れ出してくれるのだ。
ボクは、そんなその子の事が本当に…………。
◇
「ミナト! 生きてるの?!」
「……ミコト」
なにか懐かしい夢を見ていた気がする。
覚醒し始める意識の中で、ボクは相手の名前を呼び返した。
檜榎 美古都
ボクの幼馴染だ。
それこそ幼稚園に入るどころか、物心付く前からズ――ッと一緒にいるクサレ縁だ。
さっきから何度もL〇NEを飛ばして来た相手だ。
……そして、今一番現状を知られたくない相手でもある。
「ねえ! 何の病気? 大丈夫なの? 家で寝てて平気なの?」
いつもの様に、勝手知ったる我が家の如くボクの部屋に入り込んで来た。
そして矢継ぎ早に質問を投げかけながらベッドに膝を付き、そのままボクの身体の脇に上がり込む。
肩に届くストレートのボブが、ミコトが動く度に良く動く。
その動揺しているような髪の揺れ具合だけで、ミコトが心配してくれているのは分かるんだけど……。
「……熱は……、無い……よね。……ン?」
横になっているボクの額に手を当てて、熱を測りながら、何かに気が付いた様に改めてボクの顔を覗きこんで来た。
「髪長っ! なんでイキナリ髪伸びてんの? ってか……アンタ、ミナト? ……ミナトよね?」
ボクの顔を両手で挟んで、改めてしげしげと食い入る様に覗き込む。
「ミ、ミナトだよぉ……ボクだよぉぉ」
ボクの頬をグニグニと、何度も確かめる様に動かして来る。
「……ウン、ミナトね。確かにミナトだ。アンタ少し顔つき変わった? ……病気のせいか……。うわっ睫毛も長っ! どうしたの? コッチもいきなり伸びた?」
ミコトが次々と、ボクの顔の微妙な変化に気が付いて行く。
「……唇も、気持ち……、ふっくらと……なんか……」
あ! 今! 口の動きが『エロい』って言ったよ?! 『エロい』って!!
イキナリ、ミコトがハッとした様な顔になり、ボクが顎の所まで引き上げていた布団を掴み、強引に引か剥がした。
「わ! ナ、な……!」
「……アンタ、病気だっていうのに、こんなトコに何入れてんの?」
真面目に寝てる気あるの? と言いながら、Tシャツの上からボクの胸を鷲掴みして来た。
「は! ひゃぁあ!!」
さっき弄っていた事で、かなり敏感になっていた胸の先に、突然強い刺激が与えられ勝手におかしな声が漏れてしまった。
「え?」
ミコトが目を丸くして一瞬固まった。
でも直ぐに、掴んでいる物を確かめる様に何度もニギニギと手を動かす。
「……ぁ! や、やめンん!! ゥんン!!」
更に与えられた刺激で、恥ずかしい声がどんどん出てる。
そのミコトの手を払い除けようとするけど、体力ゲージがほぼゼロの今のボクには、そんな力が出る筈も無い。
そして今、ミコトはボクの身体の上でマウントを取り、完全に組み伏せている状態だ。
「……うそォ」
ミコトがそう呟いた次の瞬間、今度はボクのTシャツの裾を掴み、一気に捲り上げて来た!
「ぅひ?! ひゃうぅ!!」
「うわ! でっか!!」
それまでTシャツに抑え込まれていたモノが、弾ける様に零れ落ちたのが分った。
顔がドンドン熱を持って来るのが分る。
ボクの羞恥ゲージが物凄い勢いで上がって行く。
そんなボクの気持ちなど関係ナシに、ミコトが見たままの感想を口にする。
「ウェストほっそっ! どうなってんの?」
「……ぅひゃんン!!」
ミコトがボクの身体の線を確かめる様に、その手を胸元からウエストへと這わせた。その感覚に、ボクの身体は勝手にビクリと反応する。
「……まさか」
そう呟いたミコトの視線が、更に下方に向けられた事に気が付いた!
ちょっと待って! まさか……!
「……ちょっ! ま、待っ……」
ボクが言葉を発するより早く、ミコトの手が今度はボクのトランクスにかけられた。
そしてそのまま、ソレを一気に引きずり降ろされ――――。
「…………無い? ……ウソぉ」
「hゃにゅおひfhsdkっじぃk-------っゅ!??!!?!!!!」
その瞬間、ボクの意味不明で甲高い叫びが部屋の中に思い切り響き渡ってしまったのは、全く持って至極当然であたり前の反応だったと思うんだ!
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