第23話 ひびけ恋の歌
「ミナ! カラオケ行くぞ!」
「え?!」
「そぉ〜れミナちゃんキリキリ歩け〜」
「ぇ? え?」
突然、鈴谷さん、嶋岡さんに拉致られた。
なんか前にもこんな事されたよねっ?!
金曜日の今日。週末のこの日もミコトとは話す事ができなかった。
気分が落ち込んだまま、帰り支度をしていた時の暴挙だ。
突然両側から肘を絡ませられ、「捕獲した!」とか言われてる。
「え?! 聞いてないんだけどボク!」
「そりゃさっき決まったからねぇ〜」
「ミナは強制参加だぁ! 拒否権は無いっ!」
「そ、そんな横暴なぁーー!」
抗議の声を上げるボクを、2人はズルズルと引きずって行く。
自分では抵抗しているつもりなんだけど、2人には全く意に介されていない。
ボクってホントに非力!
「心配しなくても大丈夫だよ〜。ちゃんとミコっちゃんもいるからね〜」
「……え?」
嶋岡さんの言葉に一瞬固まり、抵抗していた力が抜けた。
「キョウちゃん達が、先に連れて行ってるンだよ〜。ミナちゃんも大人しく言う事聞きゃ、悪い様にはしないぜぇ〜?」
思わず嶋岡さんを見返すと、彼女はパチリとウィンクをして来た。
オマケに舌を口の端からペロリと出して、まるでペ〇ちゃんみたいな顔。
なんだろ? そのドヤ顔にちょっとだけイラッとした。
「オイ、ヤロウ共! お前らもだ!」
「は?」
「い、いいのか?」
そんなボクらをよそに、鈴谷さんがコータ達に声をかけてる。
え? コイツらも一緒なの?
コチラに聞き耳を立ててたらしいアンドが、嬉しそうに聞き返してる。
「でも、夕方から天気崩れるって話だけど……平気か?」
コータがスマホのお天気アプリ見ながら、ボクに大丈夫かと聞いて来た。
あれ? コータの奴、ボクらを心配してるのか?
ウェザーなニュースのアプリでは、18時頃に雨が降り始め、20時過ぎにはその雨が激しくなると言っているらしい。
「5時には撤収するからねぇ~! 短時間でパッパとハジケるよぉ~!」
「お前らはその為の賑やかし要員だけどな!」
「まーかせてっ! メッチャ盛り上げちゃるからさっ!!」
すンごい笑顔のアンドが、物凄く嬉しそうに小踊りしてる。
なんだろなー、コイツには不安しか感じ無いんだけど?
やかましくなるだけな気がするのはボクだけだろうか?
◇
そしてやっぱりアンドはうるさかった。
合いの手と、タンバリン叩くタイミングがおかしい。
その合いの手の声が大き過ぎて、これがマジ煩い。
曲に合わせ、ゾンビダンスみたいな動きでタンバリン振り過ぎだと思う。
光るから余計にウザイ。
鈴谷さんが歌っているのは、顔出ししない女性ボーカルの『ショウタイム!』的な歌だ。
熟語を連続でぶち込む宴みたいなこの曲は、ノリが良いんだけど……。鈴谷さん、歌いながら余程イラついたのだろう。
最初はおしぼりを幾つも投げ付けてたけど、アンドが全然おさまらなかったので、ついにはマスカラを投げ付け見事に額にヒットさせた。
やっと静かになったアンドを、コータとヤナギさんが片付ける。
悪は滅びたと言いたげに満足した顔の鈴谷さんの歌声は、気持ち大らかになった気がした。
次に歌った霞さんの声は、スポーツマンだけあってやっぱり肺活量があるからだろうか。
――花束を受け取って――と歌い上げる声はとても澄んでいて、凄く力強かった。
目の前で聞いていた多岐川さんも感動したのかな? 気持ち眼が潤んでいる様に見えたよ。
嶋岡さんは、歌いながらノリノリで鈴谷さんと踊ってる。
ボクも踊れと鈴谷さんに引っ張り出されたけど、振付なんか全然分かんないよ?!
え? 「Chu!」の時はこうやれ?
えっと……「ゴ・メ・ン」は……こう?
は? 「ざまあ」? だから分かんないってばっ!
あれ? なんかミコトが顔を抑えて蹲ってる?
げっ! ヤロウ共がしゃがみ込んでコッチ見てる!
あ、鈴谷さんに次々蹴り飛ばされた。
次はボクの番だとマイクを手渡された。
入れた曲は、これも古いけど定番の恋を歌った曲。
この身体になってから唄うのは初めてだから、ちゃんと声が出るか心配だったけど普通に歌えた。
でも、変じゃないかな? 大丈夫かな?
――大事な人ほどそばに居る――って言葉にする時、ついミコトの方を見てしまう。
でも、ミコトが今どんな顔をしているのか、そこだけ影になっていて良く分らない。
――届いて欲しい――って気持ちを籠めると何かが込み上げて来る。
「立花さん……声、可愛い」
霞さんがの零した言葉に多岐川さん達が頷いてる。
ちょっと恥ずかしい。
「天使……か?」
コータが更に恥ずかしい事を言ってる!
でも、概ねみんなの反応は悪くないのかな?
だけど肝心のミコトはどう思ってくれたんだろう?
そう思ってミコトを見たけど、ガッツリ顔の前を選曲タブレットで覆っていて、表情が全然見えない……。
「感極まったかと思えばドヤ顔なったりで、ホント落ち着かねェヤツだなオイ!」
そのミコトに鈴谷さんが肘で突きながら変な事を言ってるけど、やっぱり無反応だ。
ボクの方を見てもくれない。
この一週間、ミコトは近くに居なかったから殆ど顔を見る事無かったんだけど……。
今はこんな近くに居るのに、顔を合わせてくれないのは余計に辛さを感じてしまう。
なんだかまた胸が詰まって来た。
「ちょっとゴメン、……トイレ」
居た堪れないものを感じ、マイクを置いて直ぐ部屋を出た。視界がジワリと歪んでる。
急いでトイレに駆け込んだ。
鏡の前で鼻をかんで、そのまま目元を拭う。
なんで泣いてるんだボクは?
これは泣くほどの事なんだろうか?
こんな事で一々涙が出るとかどうかしてる。きっとミコトだって呆れてしまうに違いない。
でも、この一週間のミコトの振る舞いに、ボクは不安しか感じない。
まるで、ミコトに突き放されている様で……。要らないと言われている様で……。
もし、なんでこんな事を続けるのか聞いたら、「もうお前とは付き合っていられない」とか言われてしまうのかも……。そんな考えが頭よ過る。だからミコトに、どうして無視するのかなんて聞けない。
……でも、ミコトがそんな事言うはずない。
きっとボクが何かして、機嫌が悪くなっているだけなんだ。何に怒っているか分からないけど、きっとその内またいつもみたいに近くに来てくれる……。
そうに違いない!
きっとそうだ、そんなんだ。
間違っても、ミコトが要らないなんて言う筈がない。
でも、そんな事を言われたらと思うと、……身体が自然と硬くなる。怖さで、身体の芯が氷になって行くような気さえする。
思わず、小さく震え始めた自分の身体を抱きしめていた。
……いや、いや! 少なくとも今は一緒にカラオケに来てくれている。
ミコトなら、一緒に居る事がイヤだったら絶対来る事すらしない!
そうだ! きっと時間が経てば、少しずつ落ち着いてくれる。
今は家も忙しいそうだから、色々落ち着いたら元に戻るハズなんだ!
ボクは気を引き締めようと、鏡に向かって顔をパンパンと2回叩いた。
そして顔を洗って鏡で自分の顔を確認する。
うん、ちょっと目は赤いけど大丈夫。
これなら泣いたとは思われないだろう。
もう少し呼吸を整え落ち着こうと思い、ドリンクバーに寄り道した。
お水を一杯、一気飲みして部屋に戻ろうと足を踏み出した時……。
「キミ! この前の子だよね?!」
突然腕を掴まれた。
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