第22話 遠い日の出来事
「あら! ひょっとして湊くん?!」
「……あ、はいミナトです」
家に帰るとお客さんが来ていた。
リビングのテーブルに座っていたその人は、ボクの顔を見るなり、驚いた様に目を見開いてそう言って来た。
「美古都だけじゃなく、優海奈さんや巧望からも聞いてたけど……。ホント、美人さんになっちゃったのねぇ!」
この人は檜榎 夏美さん。
ミコトのお母さんで、ウチの母さんのママ友だ。
小さい頃から良く知った相手だけど、ボクがこうなってから顔を合わせるのは初めてかな。
因みに、『優海奈さん』というのはウチの母さんの事である。
「それでも……。うん、なるほど湊くんだ! 面影はそのまんま!」
「……わかります、か?」
「わからいでか!!」
おばさんはそう言うと、大笑いしながらボクの肩をバンバンと何度も叩く。
相変わらず豪快な人である。
うん、ミコトがこの人に似たのは間違い無い。
「9月だって言うのに、ホント毎日暑くてやんなっちゃうわよね」
そう言いながらおばさんは、ここへ座れと言いたげに自分が座っている隣の椅子を引いた。
「でも明日から天気は崩れるみたいよ?」
「ゲリラっちゃうのかしらねー。やだわよねー」
母さんは急須を持って立ち上がり、ポットの元へとむかう。
「こうして見てると、何だか小ちゃい頃のコト、思い出しちゃうわね」
「そう?」
おばさんはその母さんに向け、そんな風に言葉をかけた。
お茶を淹れ直している母さんが、それに対して楽しそうな笑顔で返す。
ボクの分のお茶も淹れてくれた母さんは、座っているボクの前に新しい湯呑みをコトリと置いた。
「ホラぁ、2人して美古都の服を湊くんに散々着せてたじゃない!」
「そう言えば、そんな事もしてたかしらね?」
「暴れ回る美古都と違って、湊くん大人しいから色々飾り立てられたし」
「そう言えば、紅とか入れてたわね」
「そうそう! ホントお人形みたいで可愛かったわぁ」
「そ、そんな事を……」
全然全く覚えていない!
まあ、ボク達が三つ四つの頃だと言うのだから、覚えていないのは当たり前なんだろうけど。
「小さい頃から湊くんは、女の子みたいだったからね!」
「あ……。そ、そうですか」
女顔だったボクは、小さい子供の頃本当に女の子とよく間違われていた。
その事でよく男の子からは揶揄われたり、いじめられていたんだ。でも、それをいつも庇ってくれていたのがミコトなんだけど……。
だけどもしかして、ボクが男子にからかわれてた原因って、まさかこの人達にあったのでは?!
「アレは2人が幼稚園の頃? いや、まだ入る前か……」
「まだ何か……したんですか?」
何かやらかしたのか? ママさんズ!
ボクには全く、心当たりも記憶も無いのが恐ろしい!
「ドレス仕立ての白いロングワンピースを着せた時よね。そしたらそのまま2人してどっか行っちゃってね……」
おばさんの話では、その後、白いハンカチと花輪を頭に乗せたボクを、ミコトが嬉しそうに連れて来たんだそうだ。
花輪は蓮華で編んだ物で、手にも白い蓮華を幾つも持って花束みたいにしていたんだとか。
そのボクを自慢げに、ミコトは親達にお披露目したのだそうだ。
「それで美古都ってば、湊くんを『はなよめさんにする』って言い出したのよね」
「ああ、ああ! あったあった!」
母さんは「思い出した!」と手を叩き、おばさんはクスクスと楽しそうに思い出し笑いをしている。
「それであたし達が『2人は結婚するの?』って聞くと『そうだ!』って答えるのよ」
「へ、ヘェ〜。ミコトがそんな事を……」
「そうなのよー! それで『でも結婚するなら、花嫁は美古都じゃないの?』ってあたし達が言っても『はなよめさんはミナ!』って言ってきかないのよ!」
そう言いながら「あははは」と母さんとおばさんは笑い出してしまった。
「もうね『はなよめさんはミナなの! ミナなの!』って言ってきかなくて、最後には泣き出しちゃってね」
「美古都ちゃん、半ばムキになってたものね。アレは大変だったわよねぇ」
「……ぜ、全然覚えていない」
女の子みたいに飾り立てられてた事も、花嫁さんな話も全く記憶に無い。話を聞くだけで、かなり恥ずかしいんだけど!
ミコトは覚えているのかな?
ひょっとしてミコトにとっては黒歴史的な……?
「でも……そっかぁ。今なら本当に花嫁さんになれちゃうんだね」
「え? ……あ。そ、そうなんですかね……」
おばさんが目を細め、しみじみとボクを見て言ってきた。
「湊くん……もうミナちゃんか。……がウチに来てくれる分には大歓迎なんだけどね!」
「え……?」
「そう思って『巧望のお嫁さんに来てもらおうか?』って言ったら、美古都に『有り得ないから』って間髪入れずに言われちゃってさ!」
そう言うと、笑いが堪えられないとばかりにおばさんが吹き出す。
「こっちのセリフに被せるように言って来るし! その時の感情の無い顔付きと言ったら……もう!」
おばさんは、もうダメだと言わんばかりに「あっははは!」と大笑いをし始める。
一頻り笑い終えたおばさんは、お茶を一口飲むと肘を付いた。
「そう言えば……美古都ちゃん最近どうしたの? 今週は全然顔見てないわよね」
母さんの言葉に思わず胸が詰まる。
どうしてなのかは分からないけど、今ミコトはボクを避けている。
それを思い出すと、胸の奥が締め付けられる様に痛くなってしまう。
「なんか日曜から毎日道場に通ってるわよ」
「道場? 西条さんの?」
「そう西条道場。なんだか鍛え直すとか息巻いてたわよ」
「へぇー。なにか思う所でもあったのかしらね?」
「まぁ、若いうちは迷ってナンボだからねぇ」
そう言っておばさんと母さんは再び声を出して笑い合う。
やがて笑いを収めたおばさんは、頬杖をつきながら優しげな目をボクに向けてきた。
「でも、ま。……どっちにしても、ウチはミナちゃんなら歓迎するから。安心して?」
最後の一言は母さんに言ったのかな?
おばさんは、母さんの方に笑顔を向けていた。
「あたし達は湊が幸せなら、……それだけで良いのよ」
おばさんに応える母さんの声は、とても静かで穏やかだった。
それを聞き改めて、両親が今のボクを受け入れてくれているのだと感じてしまう。
ボクがこんな事になった今も、変わらずにいてくれる。
それが何より有り難いと思った。
いつの間にか、母さんの手が頭に乗っていた。
「泣く事無いでしょ」
「……ぅん、ありがと」
顔を上げられずに答えたけど、おばさんがボク達を優しげに眺めているのは分った。
それがなにか、とてもくすぐったく感じてしまう。
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