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ボクが『たわわ』になったので、彼女のヨメになりました。  作者: TA☆KA


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第21話 ただひた向きに

 この日もミコトは先に帰ってしまった。

 流石に結構つらい。胸に感じる苦しさが日に日に増している。


 ミコトが今日も帰ったと聞いて、暫く自分の机に座って呆けていた。


 けれども少し時間が経ち、自分も帰らなきゃと教室を出たのは覚えている。

 でも、どうやって外に出たのかまでは記憶が曖昧だ。

 そしていつの間にか校庭で、陸上部の練習風景に呆っと目を向けている自分が居た。


「おやミナトくん? どうした?」

多岐川(たきがわ)さん……」


 気付けば、やはり校庭を眺めている多岐川さんに声をかけられた。


「陸上部の見学かい? 珍しいね」

「……そういうワケでも……無いんだけど」

「そうなのかい?」


 そう言うと、多岐川さんは再び校庭の方へと顔を向けた。


 なんとなく、多岐川さんが見ている方に目を向けてみると、走り高跳びをしている生徒が目に入る。

 あれは……(かすみ)さんかな?


 霞さんは、跳んではバーを落とし、それを直してはまた走り、そして跳んでバーを落とし、そして直す。

 それを1人で何度も繰り返していた。


「…… キョウカはさ、諦めが悪いんだよ」


 多岐川さんが、ポツリとそう口にした。


「あれは、この前あった県の大会で1位が跳んだバーなんだってさ」


 多岐川さんが話を続けていく。

 でもその瞳はずっと霞さんを追ったままだ。


「……霞さんて、その大会で3位だったんだよね」

「そうだよ」

「凄いね」

「凄いよ」


 そう言って霞さんを見る多岐川さんは、何故か誇らしげだ。


「でも本人は全く納得していないんだ」


 霞さんの跳んだバーが落ちた。

 少しの間、マットから起き上がってこなかったが、おもむろに上半身を起こした霞さんは、バーを戻すとまたスタート位置へと戻って行く。


「キョウカは自分の記録に満足していないんだ。悔しいんだよ」


 ああやって届かなかった相手のバーを飛び続ける事で、その悔しさを身体に刻みつけているのだと多岐川さんは言う。

 その霞さんは、ボクたちが話をしている間も黙々と飛び続けていた。

 繰り返し繰り返し。淀み無く、ただひた向きに。


 一度だけ、跳んだ後もバーが残りクリアしたかと思ったんだけど……、直ぐにバーは落ちてしまった。

 あぁ、悔しそうにマットを叩いている。


 それを見つめる多岐川さんの目は、……なんと言うか、とても優しげだ。


 多岐川さんはボクが横顔を見ていた事に気付き、少しはにかんだ様な笑顔を溢した。


「きっと、高みを目指そうとする人は、皆同じなのかもしれないけどね」


 笑顔のまま話す多岐川さんは、なにか慈愛に満ちた表情をしていると思う。


「わたしみたいな人間からすると、それがすごく眩しいんだよ」

「ボクからしたら、多岐川さんも十分凄いと思うけどな」

「キョウカと比べられたら恥じ入るしかないよ。でも、気を使ってくれたんだね。ありがとう」


 多岐川さんは、ボクが気を使ってると思った様だ。

 でも、本当に多岐川さんも凄いと思う。


 成績は常に上位だし、周りへの気遣いもよく出来る人なのでミコト達からの信頼は厚い。

 その上料理も得意だそうで、時々振る舞ってくれる料理は絶品だ! とミコトは言っていた。

 文芸部副部長で面倒見も良く、後輩女子達からバレンタインには競い合う様にチョコを送られるほど人気が高いとか。「実は女子の皮を被ったスパダリなんじゃね?」とは島岡(しまおか)さんの弁。


 うん、やっぱり多岐川さんも十分凄い。

 多岐川さんは自己肯定が低い人なのかな? 少し謙虚が過ぎる気がする。


「わたしはただ、目の前にある事をこなしているだけだよ。努力しているとは到底言えない」


 そう言いながら多岐川さんは、おもむろに自分の髪をかき上げた。サラリとした黒い髪が、白い額を撫でる様に落ちていく。


「キョウカみたいに、……あんな風に見えない先へと挑み続けるなんて事。……わたしには無理だ」


 そんな何気ない所作が実に様になっている。

 イケメン女子と言われるのも納得してしまう。


「だからさ、わたしは競技の結果なんかより、あのひた向きなキョウカの姿が何よりも眩しいんだよ」


 そう言いながら霞さんへと向ける目は、とても眩しげだ。


「こんな風に、頑張っている人を間近で見ていると……、なんか勇気を貰えないかい?」


「え? ……そうだね。応援するのと一緒に、自分も頑張らなきゃって思う……かな」


 突然問いかけられ、答えるのに少し間が開いてしまった。けど、バーを跳ぶ霞さんの姿に、何故かミコトが重なってしまう。

 

「うん……そうだよね。だからさ、わたしは応援してるんだよ」

「えっと、霞さんを……だよね?」


 なんだか、今の多岐川さんの「応援してる」と言う言葉が、別の誰かに対して言っている様な気がした。

 霞さんでは無い他の誰かに……。

 何となくそう思い聞いてみたけど、多岐川さんは小さな笑みを浮かべただけだ。


「格好つけてるだけなんだよアレは。可愛いとは思わないかい?」

「……え? 霞さんが? え? 違うの?」


 一体誰の話をしてるんだ?

 多岐川さんの言ってる意味が分からない……。


「ミナトくんはさ、もう姫なんだから。もっと自覚すべきだよね」

「ひ、姫って……何さソレ?」

「もっと甘えちゃえって事だよ」

「は? なにそれ? どういう……事?」


 そう言って、多岐川さんはとても柔らかく微笑んだ。

 でも、やっぱり言っている事が分からない。

 意味を聞こうとしても、多岐川さんはまた霞さんを無言で見つめ始めてしまった。


 残暑のしつこい暑さはまだ続いているけど、もう秋なのだと言いたげに陽が傾くのは早い。

 3時を回ると、太陽には夕方の様な色合いが混じり始めて来る。

 夕暮れの訪れを仄かに感じ始める陽に照らされ、多岐川さんの頬が僅かに赤みを帯びて見えるのは気のせいだろうか。


 ボクは何故かそれ以上、そんな多岐川さんに言葉をかけることが出来なかった。

お読み頂き、ありがとうございます。


おもしろいと感じられましたら、ブクマ、ご評価頂けますと、作者のモチベーションが駄々上がりします!!よろしくお願い致します!

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