第20話 おかしな意識
「なぁミナ…………何があった?」
その日の朝、唐突に鈴谷さんに問い詰められた。
それは「何かあったのか?」と云う曖昧な問いかけでは無く、何かあった事を確信し、「とっとと吐け!」と自白を迫るような強い問い詰めだ。
「え? ……い、いや特に……は?」
「トボケてもダメだよミナちゃ~ん? あのミコっちゃん見れば明らかなんだからさ~~」
今日は水曜日だ。
今週になってからは、ミコトと登下校を一緒にしていない。
学校で話もしていないし、殆ど顔を合わせていない。
話しかけようと近付いても、スイっとどこかに行ってしまい、真面に目も合わせてくれないのだ。
どうなっているのか聞きたいのはボクの方だ。
「ミコっちゃん、日に日に目付きが危なくなってるよね……」
「ああ、ありゃぁヤバい薬が切れて、禁断症状出てるヤツの目だ!」
鈴谷さんは、そう云う危ない人を見た事があるのだろうか?
そんな事はともかく、本当にボクもワケが分からないのだ。
あの日曜日。あの時目が合ったと思ったら、ミコトは直ぐにどこかに行ってしまった。
その後、一切連絡に応えてくれない。L〇NEを送っても既読すら付かない。
一体どういう事さ?!
誰よりも理由を知りたいのはボクだと思うんだ。
思わず頭を抱えそうになり、視線を教室の中に泳がせたらコータと目が合ってしまった。
コータともあれから口をきいていない。
月曜日の朝にコータが声をかけようとして来たけど、ボクは視線を合わせずその場から離れてしまった。
それ以降も何度かコータが声をかけようとしていた様だけど、その度にボクはコータから距離を取っている。
大体にしてあんな事があったのに、どんな顔して会話しようって言うのさっ?! ズケズケ来るコータの神経が信じられない!
ボクなんか思い出しただけで恥ずかしくなって来るんですけどっ!
まあそれでも、あれから3日も経っているし、少しは落ち着いて来てはいるけどさ……。
あ、やっぱダメだ。思い出したらまた顔が熱を持って来た! 顔が上げらんない!
「うぉっ! ミコの目がスゲェ血走って来てる?! これヤバくね?!!」
「ミナちゃ~~ん?」
「ぅひゃうッ?!」
唐突に嶋岡さんが後ろからボクに抱き着いて来た!
しかもその手はボクの前部にある、二つの隆起をガッチリとホールドしている!
「とっとと白状しちゃった方が身のためだゾ~♪」
「だ、だからボクにも良く分からないんだっ……ひゃっ!」
「だぁ~かぁ~らぁ~。正直になってごらんよぉ~。そぉ~れッ」
「ぅひはッ! ちょッ! ちょっと待っ……ひゃヒゃン!!」
「ン~~? こういうのはど~かな? こうしてぇ~……クニャっ!」
「も、持ち上げるのは……ぅひゃひゃひゃにゅぅッ! ンみゅ!」
滅茶苦茶に胸を弄ばれ捲ってる!
右に左に上に下に、どれだけ動くのか? どんだけ弾むか? それを確かめでもするように遠慮の全くない暴挙だコレは!
ボクは只身を捩り、おかしな声が出てしまうのを耐える事しか出来ない!
爽やかな朝の教室でする事じゃないよねぇ?!
男共の視線も揃ってこっちに集まっているのも分かる!
コッチ見んなバカ共! 邪なヤロウの視線など、悍ましさしか感じないんだよっ!
「ふぅ、ふぅ……中々にしぶとくて堪能できるクッションだねぇ~」
「はぁ! はぁ! い、生きている人ですからね?! クッションでは無いからお間違い無くっ?!」
「しょうがないなぁ~……。さあ、ミナち~ゃん。覚悟キメてもらおうかぁ~?」
「な、ななななんの覚悟ですか?!」
「ミナちゃぁ~~ん。正直になれば、もっと良い事して上げるって言ってるんだよ~。天国にだって昇れちゃうかもよ~?」
「し、昇天しちゃうのは、人生もっと過ごしてからが……イイかなぁ? ま、まだ若いワケだし?」
「ハァ、ハァ、ハァ、わかってんだろぉ〜。ハァ、ハァ、イイからウチに任せときなぁ〜、ハァ、ハァ」
「ひぅ! み、耳元で……息は……」
嶋岡さんが耳に怪しく息を吹きかけながら、熱っぽい口調で語りかけて来る! コ、コレはちょっとヤバいんですけど?!
動かしている手も、妙に艶かしい動きをして来る!
な、なんかクラスの男共がみんな、メッチャコッチを見てる気がするんですけど?!
しかもなんでか前屈み!! このヤロウ共!!
「ぅげェ!! アヤ! ミコが……ミコがいい加減ヤベェッ!!」
「ハァ、ハァ、ハァ、……へ? っ!! ぅひぃいぃぃぃぃぃ――ッ!!!!」
「ありゃヤベぇぞ……。ホンキで人を殺すヤツの目だ」
「ほ、本気じゃ無いんですぅ〜! ほんの出来心なんですぅうぅぅ〜〜ッ!」
「あひゅ……ふぁ、はぁ、はぁ」
嶋岡さんの魔手から解放され、ボクはそのまま机に突っ伏した。あ、危なかった! あのままではどうなっていたか分からない!
とりあえず胸に手を置き、荒れた呼吸を落ち着かせる。
あれ? そう言えば鈴谷さんがミコトがどうとか言っていたな。何かしたのかな?
そう思ってミコトの方に視線を向けると、その瞬間ミコトはブイッと顔を背けてしまう。
何日もマトモに顔を合わせていないけど、こう露骨に顔を背けられると結構ショックだ。
気分がズブズブと沈んで行く。
「やはりこれは、美古都に直接聞くのが一番なんじゃないかな?」
怯える嶋岡さんを庇う様に、その背に手を回す霞さんがそんな事を口にした。
「聞くまでも無く、モロ分かりじゃん……」
霞さんに答えたのか、それとも只の呟きだったのか、多岐川さんの小さな声がボクの耳に届いた。
目を上げると、その多岐川さんと目が合った。
「ね? ミナトくん……」
多岐川さんは、何か含むように口元を小さく上げ、ボクに同意を求める様にそう言った。
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