第2話 急性突発型性転換症候群
ボクの名前は立花 湊。
この4月に高2なった16才だ。
10/2生まれのてんびん座のB型。
昨日までの身長は161㎝ 体重は52キロ 比較的小柄な男子だったと思う。
何故『《《だった》》』と過去形なのかと言えば、今はもう男子ではないからだ。
結局、今朝洗面台の前で引っ繰り返ったボクを、弟が大慌てで母さんに知らせ、そのまま母さんの車に乗せられ病院に連れて来られた。
イキナリ倒れてしまったのだから、本来なら救急車を呼ぶべきだと言う人も居るかもしれない。だが母さんとしては、ボクの状態が状態だっただけに、余り人の目に晒す様な事はしたく無かったと言っていた。
連れて行かれたのは市の大学の医療センターで、色んな専門の研究をする先生たちが揃っている病院だ。
そこで、ボクの症例が特殊な物である事を理解してくれると、直ぐに対応をしてくれた。
病院の先生の話では、ボクは『急性突発型性転換症候群』と言う名の病気らしい。
100万人に1人位の割合で発症する病気で、主に思春期の子供が半年から1年程の時間をかけて、ゆっくりと身体が変化して行くモノだと説明を受けた。
ボクの様に、一晩で変化する症例はとても珍しいと云う話だ。
なのでボクの病名の頭には、『急性』とか『突発型』とか付くのだそうだ。
本来は只の『性転換症候群』と呼ぶらしい。
昔からある病気らしいんだけど、何が原因なのか詳しい事は全く分っていないそうだ。
ただ間違いないのは、変わってしまった性別は100%元に戻る事は無いのだと教わった。
遺伝子の変質が原因では無かろうか? とか染色体の変位だとか、特殊性徴期だとか、色々難しい事を先生は言っていたけれど……。
正直、良く覚えていない。
ハッキリ言って、ボクにはそんな事はどうでも良い。
ボクにとって最も重要で、どうし様も無く確かな事は……、男にはもう戻れず、今日から女の子として生きて行かなくてはイケナイと云う事なのだから。
◇
結局、病院には朝から昼過ぎまで居た。
何本も点滴を打たれたり、色々検査を受けたりと、ほぼ半日病院で拘束されていたのだ。
昼過ぎにボクを家へ連れて帰ると、母さんはそのまま仕事場へ向かった。
取敢えず、暫く安静にしていれば問題無いとの事なので、学校へも10日ほど休むと連絡を入れてくれた。
そして、明日以降の何日か休みを取ってボクの面倒を見る為に、今日中に仕事の引き継ぎをして来るそうだ。
ボクの為に、仕事に支障を出して申し訳ないなと思ってそう言うと、「子供はそんな事気にするな!」と笑われてしまった。
結局ボクの身体は今、急速な体型、体質の変化の為にかなり消耗しているそうだ。
4~5日は安静にしている様にと、医者に言われた。
1週間後、体力が回復した頃にまた病院へ行って、再検査をする予定だ。
体重も今は40キロを切っているので、栄養をしっかり取らないとイケナイと言われている。
朝一で出たモノに体重の殆どを持って行かれたのかな?
的な事を呟いたら、医者達が『検体は無いのか?!』とメッチャ色めき立った。
そんな物とっくに流れて消えてますよ!!
と言ったらがっくりと肩を落として『病気究明のヒントとなったかもしれない……』とかのたまった。
まあ、確かに未解明の究明に、一役買えるのかもしれないけどさ!
人の排泄物を目の色変えて欲しがるお医者達に、かなり引いてしまったよ?!
そんなワケで、帰宅した今は自分のベッドの上で休んでいる。
病院でして貰った点滴のおかげか、少しは自分で歩くくらいは出来る様になったけど、まだ身体を起こしているのが辛い。
1~2日は真面に起きられそうにないな~と、自分でも何となくワカル。
大人しく、ベッド生活をしているしかない様だ。
ベッドの上で落ち着いたら、スマホにメチャクチャ連絡が入ってる事に気が付いた。
病院へ行く時は意識が無かったから、机の上に置きっぱなしだったんだ。
横になったままスマホを確認すると、やっぱり殆どがクラスメイトからだ。
倒れたって話が広がったんだろうな……、いつも以上に件数が多い。
父さんからもあった。
父さんは、地方へ出張で一週間は帰って来られないと言っていた。
一言『大丈夫か?』とあったので『大丈夫』とレスした。
詳しい事は帰ってから聞くとも、一週間後の病院へは一緒に行くとも言ってくれた。
ホント、両親は二人とも忙しいのに、迷惑かけてしまったなぁと思ってしまう。
クラスメイト達からのモノは、心配半分、興味本位半分と言った所だった。
まあ、そりゃ『倒れた』なんて、そんなに日常には無い出来事だもんね。盛り上がるのは分るけどさ。どうしてくれようかコイツ等! って感じだ。
大体が心配してくれてのモノなので嬉しいんだけどね……。
でも、中には『巨乳の看護師さんいたか?!』とか『女医さんはどうだ?!』なんて聞いて来た奴がいた!
やっぱコイツは正真正銘のバカだ!! もう口きかない!
……そしてもう一人、メチャクチャ大量に送って来てるヤツがいる。
「うえ? 100件超え? この時間で?! ……あ、また来た! これ既読スルーしたら絶対後がコワイやつだ……『大丈夫』と、うわレス早っ! 授業中だろ今! 『心配ないから』と、わ! だから早いって!」
心配してくれてるのは分るんだけど、さすがに幾つもレスしていると疲れてしまうので、『今は寝るね』と返してアプリを閉じた。
……ふう、なんか一気に疲れた……。
心配してくれるのはホントに嬉しいんだけど、病気の説明がなぁ……。どう言って良いのか分んないよ。
……特に、一番説明しにくい相手だし……、ホントどうしよう……。
……でも! とりあえず!
今のボクの仕事は身体を休める事なんだ。
だから、余計な事は考えず、ユックリ横になっていれば良いだけなのだ!
面倒な事は後から考えれば良い!
ウン、そうだ! ゆっくり休もうーそうしようー。
しこうほうき――!
……と思い至って、スマホを投げ出し、改めてベッドの上で身体を伸ばしたワケなんだけど……。ホントに何なのでしょうか? この胸元は?!
寝返りを打つ度に、タプンッタプン! と揺れて、体が一緒に持って行かれそうになる。
随分体重は減った筈なのに、何故かココだけ質量が増えていると言う不思議……。実に不可解な現象である。
大体にして、Tシャツ一枚しか着て無いんだけどチビティーでも着てる様な突っ張り感が凄い。主に胸周りだけね!
変に動いて擦れると……こしょばくて、変な声が漏れるし……。
手で抑えても、そこから溢れる大きさでスゲェー柔らかいし……。マシュマロかな? 思わずこの手触り感触に感動して、暫く時間を忘れて手を動かしてしまっても、致し方無いと思うんだ!
なんか、ニャンコの気持ちが分かったような気になるよ……。
先端部分も、男の時と違って随分大きくなってて……。さ、触ると、か、感じ方が全然違ってて、もうなんて言うか……。
でも、体力はほゞゼロ状態なので、直ぐに疲れちゃって眠くなって来た……。
いつの間にかすっかり眠っていた様だ。心地よい微睡の中から、何かが意識を現実に引き戻す。
引き戻したのはバタバタとした足音だ。
聞き覚えのある、勢いよく階段を上がって来る音だ。
そのままボクの部屋の前まで、一気に足早に近づいて来る。
この慌ただしさも、何時もの事だ。
そして、いつもの様に何の躊躇いも無く勢いよく部屋のドアが開かれた。
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