第1話 朝の緊急事態
新作はじめました!
TSユリラブコメでございます。
夏休みも終わり、落ち着いた日常が戻った9月。
その最初の週が過ぎたある日の事。
とにかくその日は、ひどく寝苦しい夜だった。
やたらに寝汗をかきながら、何度も寝返りをうっていたと思う。
いつもの目覚ましの音で目が覚めた時は、十分な睡眠は取っていた筈なのに、身体のダルさが酷かった。
布団は寝汗で酷く濡れていた筈だけど、ボクにはそんな事を確かめる余裕など与えて貰えなかった。
ボクは大慌てでベッドから離れ、切羽詰った様に襲って来た生理現象に急き立てられて、トイレへと向け部屋を飛び出したのだ。
その刺し込むような下腹の痛みは、全く以って予断を許さない物だったからだ。
部屋からトイレへ向かう途中、廊下ですれ違った7つ年下の弟が、驚いた様に目を見開きボクを見ていた。
目を大きくしたまま何かを言って来たけど、正直今は構っている場合では無い。
可愛そうだけどその場はスルーして通り抜けた。
個室に籠って直ぐ、堰き止められていた物を開放する事で身体から力も抜けた。
大きな溜息と共に緩んだ涙腺から溢れたモノが、ボクの視界を歪めて行く。
そんな風に緊張感が解けると、やっと「あれ? 昨日大食いしたっけ?」とか「お腹に来るもの食べたかなぁ?」といった疑問が浮かんで来たけど、取敢えずは何も思い浮かばない。
まあ、そんな事を考えても思い至らない物はしょうがない。
する事は済ませたので、とっととこの閉鎖空間から撤退しなくては。なんといっても、朝の時間は限られているのだからね。
そこで、ウォシュレットのスイッチを押した時、ボクはその日初めて自分の身体におかしな違和感を覚えた。
水流が局部に当った時、身体がビクリと反応して妙な声が漏れてしまったのだ。
こんな事は初めてだった。
いつも毎日の様に使っているのに、こんな風に自分が反応した事にボクは驚いていた。
な、なんか身体の反応が、変に過敏になってる? ……のか?
変な声が出た事に若干恥ずかしさを感じながら、あわてて自分の下半身を見ようと下を向いたけど……見えない。
いや、別に目が見えなくなった訳じゃ無いんだ。何かが邪魔をして下が見えないのだ。
具体的に言えば、パジャマとして着ているTシャツが前方に大きく突き出ていて、それより下が見えない。
あれ? なんでだ?
見下ろす自分の身体に、大きく突き出る物があったとしたら、君なら一体何を考えるだろうか?
ボクはその時、クラスメイトの武井君の事を思い出していた。
彼は、それはそれは見事な体型をしておられるのだ。
要するに『恰幅が良い』と言うヤツだ。
有体に言ってしまえば『太ってる』って事なんだけどね!
実に相撲取りの様に、大きく突き出たお腹を持っているわけだ。実際に相撲部なんだけどさ。
彼は「自分のお腹で息子が見えない」と言っていた。
ボクはこの時、彼のそんな言葉を思い出していたのだ。
つまり朝起きたら突然お腹が突き出ていたって事? イキナリ太った?
あれ? でもコレってボクの……お腹? え?
ボクは直ぐに自分の息子君を確かめようとして、またそこでも妙な違和感に思い至った。
あれ? 今一緒に小用も足した時、何の抵抗も無く出たよな?
いつもは毎朝の事、充血してはち切れそうなのを抑え込みながらしているのに、今、何の抵抗も無く無意識に出してた?
あれ? ンん?
なんで存在を感じない? え? ……え? え? ……え?
何だか精神がワタワタしてる。軽いパニックに陥りながらもウォシュレットで洗浄した後を拭き取る為、千切ったトイレットペーパーを纏めながら更に違和感に気付く。
爪が異常に伸びてる? うそ? 確か一昨日に切ったばかりの筈。なんか1ヶ月位放置したみたいに長いよ?
あれ? ひょっとして髪も?
なんかさっきから視界に入ると思ったら、髪も伸びて無いか? ぇ? え?
おそるおそる濡れている部分の水気を取る為、トイレットペーパーを纏めた手を身体の後ろから回し、その場所に当てる。
その、いつも通りのおちょぼ口。
だけど、指がその前の方に触れた時、またまた身体がビクリと反応してしまった!
こんな感触は知らない! なんか柔らかい物ががが?!!
何故か異様な危機感を感じながら、あるべきものを確かめようと慌てて前に手を伸ばした……。だが!
「なんでさっ?!!」
思わず大声を上げてしまった。
そしてそのまま大慌てでトイレを出た。
なにをどうして良いのか分らなかったけど、とにかく確かめなければと! と思った。
トイレのドアを出て直ぐ、洗面台の鏡に映った自分が横目に入った。
その時、なんだか鏡の中の自分の体のシルエットが、おかしい様な気がしたんだ。
そう言えば、さっきから腕を前へ動かすたびに何かに当り、微妙に腕の動きを阻害していた様な気もする。
おそるおそる洗面台に向かい、鏡に視線を向ける。
……はぇ?
全身から力が抜ける様な気がした。
そのままユラリとよろける様に、洗面台へ手を付いた。
身体の動きに合わせて身体の前側が……、胸元がタプンと揺れる。
鏡に映っていたのは、髪が目元を隠すほど伸びている自分の顔と、Tシャツの上からでもハッキリと分る、たわわに育った大きな……乳房?
「な、なんで……だ?」
鏡に映る自分を見て絶句していると。
「え? に、にいちゃん……? え? ね、ねえちゃん?? ……え? え?」
やはり鏡の中で、自分の後ろで目を丸くした弟が呟いているのが目に入った。
トイレから聞こえる流れる水の音が、妙にその場で響いていた様な気がする。
そして視界が歪み、ボクはそのまま意識を手放したのだ。
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