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ダンジョンの改造



 ダンジョンの最下層


 そこで、大社はアインと共にダンジョンの改造をしていた。



 結果から言おう。



「うーん。やりすぎた!!」


 大社はそんな焦りを感じさせるような言葉とは反対に、愉快気に笑い転がった。

 アインは後悔じみた顔をしながら、笑い転げる大社をドン引いた目で見た。




 此処は初心者向け“だった”ダンジョン。


 私達が改良を重ね、アインと共にヒートアップしていった結果、そのダンジョンはこの世界の中で上位の強者でしか攻略できないようなダンジョンになった。


 なってしまった。


 そもそも、この世界の中で上位に当たる強者であるアイン。


 そして、“全て”において、No.1である大社。


 コイツらがダックを組んで、ダンジョンを改良したら、どうなるのかは火の元を見るよりも明らかだった。


 ダンジョンは今、一体どうなったのか、それを紹介していくとしよう。





 まず、ダンジョンについて解説する。


 ダンジョンというのは、世界の均衡を保つために生まれたものである。


 この世界には3つの世界が重なっている。まあ、重なっているという表現、正確には正しくないが、イメージするにはこれが分かりやすいだろう。


 魔界、魔族や悪魔が住まうところであり、アインがいたところである。


 天界、精霊や神の棲家。地球で言う天国と似たようなものである。


 そして、冥界、こちらは地獄みたいなもので、ここから瘴気が漏れ出ている。その瘴気は冥界だけでなく、こちら側の世界にも漏れ出ているのだ。


 その瘴気を地上に影響を与えないために、漏れ出ることを防止し、制御してガス抜きをする役割を担うのがダンジョンという存在である。


 こう見えて、かなり重要な役割があるのだ。


 そのダンジョンの中では、もちろんのこと。瘴気が空気中にあるため、長期間滞在したら発狂する。大社が前にダンジョンで籠城という案を出したが、それは『やれるものならやってみろ』という話である。

 結界を貼れば良いと言っても、瘴気はそれほど甘くない。

 なんせ、結界を溶かすのだ。

 精神汚染という影響に加え、空気中にある魔力--魔素を乱したり、壊死させたりする。


 これに耐えうるのは、魔界の生物の中でも上位の輩やある存在たち、そして、瘴気を浴び続けたことで進化をした生物--魔物に限る。


 魔物はダンジョンの外にもいるが、それはダンジョンの中から出られた魔物か、その子孫である。



 さて、そんなリスクがあるダンジョンに踏み入る人類にはなんのメリットがあるのか?


 それは魔物から取れる素材やダンジョン内で形成される鉱物--魔石。

 魔石は世界中の貿易の品物の中で重要なものに指定されている。それだけでなく、魔石は生活や魔法を使う際に重要な役割を果たす。


 魔物は一般の動物と同じく皮や骨などが使える。その身体の中やダンジョンの中の瘴気や魔素が長い間かけて凝固されたのが“魔石”である。瘴気が魔力の質と似ているということを、地上の知性を持つ生物は議論を重ねているようだが、それは置いとく。


 発掘される方の魔石はシンプルに鉱物と同じような流れで形成される。

 しかし、魔物の体内で形成される魔石は複雑な成り立ちである。


 魔物はダンジョンの中に閉じ込められた生物が生き残るためにも体に毒である瘴気を受け入れることで変容する。瘴気は濃度、流れなどが変動しやすい。その中で生き残るために、進化をし続ける生物なのだ。

 つまり、魔物は瘴気を体内にもこもっている。それが人類で言う尿結石のように、瘴気が固まったのが魔石となる。

 外にいる魔物も魔石はあるが、ダンジョンの方が魔石のサイズが大きいため、利益を求める者たちはダンジョンに踏み入れるのだ。




 ここまで、ダンジョンについて話したが、そのダンジョンの一つがこの迷宮である。

 ここは比較的に瘴気が薄く、地下10階層あったが、出現する魔物も初心者でも対応できるほどの比較的初心者に優しいダンジョンだった。


 しかし、大社はダンジョンの核、言い換えれば、瘴気の放出制御器へ干渉し、擬似的に火山を噴火させるように、このダンジョンの瘴気の濃度を意図的に上げた。

 それより、内部にいた魔物達がさらに瘴気を浴び、適応した個体だけ生き残る。生き残った魔物たち同士が喰らい合い、より強者だけが残り、一体だけとなったその個体は新たなボスモンスターとなる。


『さて、ここでクイズ。』

『今ですか。明らかに不味いでしょうこれは。』

『この唯一の生き残りはこの後何をするのでしょうか?

①群れを作る

②ダンジョンの主になる

③群れを作って外に出る“魔物暴徒化(ライオッタ)”の勃発

どれでしょ〜か?』

『二番で。』

『ザンネーン。全部です!』


 アインは無言で大社の頭を叩いた。微力で。


 大社の言う通り、この事態の後、『ダンジョンの主になる』か、『群れを成して外へ出て“ 魔物暴徒化(ライオッタ)”』という人類にとっての悪夢が始まる。その2つの可能性がある。この中で言えば、前者の方がマシである。


 しかし、大社はそのどちらもしなかった。したのは、3つ目の選択。



『汝はミーノー・タウロス。迷宮の守護者を任ずる。』



 魔物への名付けは儀式と同様。そして、滅多にないことである。


 魔族や魔物たちは瘴気を身に宿し、高い潜在能力を持ち合わせる。どれだけ暴れようとも壊れない世界--魔界とは違い、この世界は魔族達が本来の力を出してしまえば、あっという間に世界が亡びる。

 それ故に、創造神などの神々を筆頭に、精霊たちは魔界以外の世界や宇宙中、魔族へ制限がかかるように魔界や世界の“理”を定めた。それで、世界を守ってきた。

 “理”はそれだけ強制力がある。“理”は神々までも平等に扱い、作用する。世界を守るために定められた“理”は魔族や魔物たちを世界が壊れない程度に弱体化させられた。


 しかし、その魔族や魔物たちに対する制限を解放する方法がある。

 それが魔物や魔族の存在をハッキリと“世界の理”に認識させること。その手段の1つが、名付けである。


 名前はその対象の個体を識別、認識するための要素であり、“世界の理”の要素として、組み込まれる。言い換えると、制限がかかっているはずの魔族や魔物が世界への干渉がしやすくなる。

 そうなれば、世界を滅び得る強大な存在の出現を許してしまう。


 そのため、名付けは魔物を使役する者のみ、名付けをする。




 そんな名付けを大社はした。アインは信じられないものを見る目で名付けの現場に居合わせていた。


 “迷宮の守護者を任ずる”


 名付けと同時に“魂の本質”にその“義務”を刻みつけた。それより、“ 魔物暴徒化(ライオッタ)”の危機は無くなったが、それ以上に重大な事態が起こった。


 名付けは、名付け親から加護を付けられるようなものである。つまり、その名付け親の実力によって、名付けられた個体が強化される。


 もし、コレがそこら辺の者だったら、見逃していた。

 しかし、今回は訳が違う。


 大社が名付けたことが問題なのだ。

 おそらく、名付けられた個体は召喚された勇者と同等に強くなれる個体が誕生したのだ。



『ああ・・・!神よ!貴方が望むままに義務を果たそう!』


 アインにも加護をつけられてはいるが、それは身体の安定のための神気供給という限定的なものだ。しかし、名付けは強化の加護をつけられたようなものである。

 しかも、言葉を流暢に話し、物事を判断できるということは知性を持ったということだ。知性を持った個体はそこら辺の魔物よりも、はるかに厄介である。

 この2つの要素を揃えたら、下手すれば、魔族たちに並ぶ厄災に成り上がるという自体はもはや確定事項だろう。


『・・・ひとつお聞きしますが、あの個体は』

『ん?少なくとも、アインの足元には及ばんよ。魔界でだけど。』


 つまり、この世界では負ける可能性が濃厚だと。

 アインは、今すぐ大社の首を掻っ切りたい衝動に襲われた。それを耐えて大社の次の行動に備えた。


 迷宮の主、守護者になった魔物。ミーノーは迷宮の統帥をすべく、動き始めた。新たに生まれた魔物を元に配下を増やし、使役することで戦力増強を図る。

 そして、最終的にダンジョン丸々、ミーノーの支配領域(ナワバリ)になった。


 しかも、ミーノー使役したことで、その配下達にも知性が高くなり、それぞれの実力が小さくも厄介な厄災そのものになった。

 もう、この国丸々を潰せる輩は一部を除いて居ないだろう。


 しかも、彼らは瘴気の中、平然でいられる種である。ダンジョンの中で国を作った。

 そこに大社は神、ではなく、ただの冒険者としてそこに立ち入った。だが、そこは大社。これだけで終わらなかった。

 鍛錬、科学などの技術をダンジョンの魔物たちに与え、文明と言っても過言では無い文化や社会が出来上がった。


 大社はこの世界の全てを知り尽くしていた。それ故に、与えた知識はオーバーテクノロジーそのものだった。大社にとっては今の魔物たちに再現可能な範囲のものを提供しただけなのかもしれないが、他国に知られたら確実に狙われる高度な技術だった。特に、不老不死の秘薬とか。

 魔物たちが過ごしやすいよう、ダンジョンの構造を調節していた隙に、大社が魔物たちと交流していたため、それを知った時は、手遅れだった。


 そして、今、ダンジョンに踏み入ってから一週間。夜にダンジョンの外へ戻っているもの、長くダンジョンに滞在している間、魔物の国が出来上がっていた。



「いやぁ〜楽しかったな。」


 ついさっき、魔物たちにダンジョンの中で作られたものを贈られて、ダンジョンの核を通して見送られた。


 大社は満足気な様子でダンジョンから出た。その横にいるアインは仮面の下で頭痛を抑えるような顔、いや、実際、頭痛がしていた。


「どこが改造ですか。建国してどうするんですか。」

「え?魔物たちに友好的な人類や亜人たちがいるの知らない?」


 確かに魔物と共存する友好国はいる。さらに、知性を持った魔物達が村を作るってこともあるし、その村と交易する人間や亜人の村もある。

 しかし、今回の場合は訳が違う。ダンジョンという資源を得られる、瘴気が濃いところに目を瞑れば、極めて良好な環境なのだ。その国に暮らす魔物たちを人形、あるいは奴隷にしようとする輩入るだろう。少なくとも、それを可能とする国に心当たりがある。


「改造という言い方が違うのと、後、とんだ厄災が出来上がったじゃないですか。どうするんですか。もしも、他国が知れば攻め入る上、外へ勢力を広げることになればマズイですよ。」

「アハハ。安心して。そのあたりの対策をミーノーたちに叩き込んでる。あれは将来、優秀な外交官になるよ。」

「聞いているのはそこじゃないです!」


 ワッと嘆くアインに大社はケタケタと笑い声を上げていた。


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