冒険者登録試験
「ソイ様。」
「ん?」
「ワイバーンの群れがこちらに近づいています。」
「マージ?」
大社たちは今、冒険者登録をするために、試験官に案内され、冒険者手配の馬車で試験会場に向かっているところである。そこでアインはワイバーンの群れがこちらに近づいていると!
実を言うと大社は、アインが言い出す前から気づいていた。
「まあじ?」
「本当か?って意味でマジ?」
「そうですか。」
アインの鸚鵡返しで片仮名が平仮名になってることに、面白くて笑えてしまう。
しかし、それは日本語として聞いた場合である。アインの使っている言語で聞いた場合、そこまでの区別はつかない。
此処は異世界であり、言語はもちろんのこと、故郷の日本語ではない。
召喚された時は他の生徒達が違う言語でも意思疎通ができたのは、白フードの人達が魔法で言葉が通じるようにしていたからだ。
今頃、言語の習得に苦戦している頃だろう。
「総員!戦闘体勢!!ワイバーンの群れがこちらに近づいている!」
「あ、気付いた。」
試験官の冒険者が声を張り上げて、その場にいる者にそう知らせた。
彼はどうやら感知系のスキル、しかも、範囲がそれなりに広いものを持っている。そのため、アインの後すぐに気づいた。感知した後の行動が迅速で手短に状況を伝えるその流れは手慣れたそのもの。
ベテランそのものだった。
「及第点と言うべきですか。彼の感知範囲に入ってすぐ警戒を強めましたから、それなりに実力が伴っているのでしょう。」
「お前、辛口だな。まあ、あの人間はそこそこな強者の範疇に入るよ。試験官にはちょうど良いんじゃない?強さを見せすぎたら、新人達が自信を無くすしな。」
「人間というのは面倒臭いですね。差を見せただけで挫けるとは。前代の勇者の集団の奴らは気概があって良かったですよ。」
「勇者の集団は試練を複数乗り越える運命にあるからな。前代は魔王のところまで行ったんだろ?」
「つまり、『神や運命が用意した試練を全て超えた』ということだ。気概があるのは当然だよ。」
私がサラリとそう言うと、アインが引いたように顔を顰めた。
「・・・・不意に世界の理をなんてことない様に話すのは、やめてほしいですね。」
そういや、コレを知ってるの神のほんの一部だけだったな。
「そこのフードの2人!!いつまでダラダラと話してんだ!?!?死にてぇのかぁ!?!?!?」
ワイバーンの群れを全員が視認するまで、話していると、試験官から怒声が飛んできた。普通ならば、警戒を強める所なのに、大社たちは話をしていたため、気が抜けていると見られたのだろう。
試験官も危機感がなさすぎると私たちを咎めたのだろう。
「すみませーん!!もう準備は終わってますので大丈夫でーす!!」
「そうかよ!!作戦会議に夢中になりすぎるなよ!!」
大社の返事に自己完結で納得してくれた。
「作戦会議ではないがな。」
「アイン、そこは言わないものだよ。」
と、ワイバーンたちの鳴き声が冒険者達も聞こえたらしく、ワイバーンがいる方向へ注目し出した。
「あ、来た。希望者達の自信を無くさないために目立たないように。」
「分かりました。」
ワイバーンと戦おうと突撃する人達の中へ混ざっていく。
――――――
試験管side
違和感を持ったのは、ワイバーンとの戦闘を開始してしばらくからだ。
(?思ったよりも怪我人が少ない。)
攻撃の手を緩めず、ザッと辺りを見回すと、離れたところに怪我人がいた。
少ないのではなく、いつの間にか移動されていたのだ。
(いつの間に?そういえば、ワイバーンの減りが早い。)
違和感に気づくと、芋蔓式で他のことにも気づいた。よく見ると、ワイバーンの傷跡、うち2種類の傷跡が圧倒的に多かった。
格別なのが2人。
(その2人には期待できそうだな。)