ギルド
「じゃあ、行こうか!」
「はい。ん?何処に?」
「ん?隣国のギルドに行くよ!」
「説明が抜けてますよ。」
――――――
冒険者登録をするために隣国へ向かうその道中、大社とアインは質疑応答をしていた。
「何故、隣国に行こうと思ったのですか?」
「んー?世界中を巡って、いろんなものを見たいのと、“あの子達”を見守りたいのもあるからだねぇ。でも、私達は身分を証明するようなものがないでしょ?なら、冒険者登録しとこかなって。だから、今、隣国を目指している。」
そう説明したら、アインが再度質問してきた。
「冒険者登録、とは?
冒険者は聞いたことはありますが、野蛮な者の集まりとしか認識していませんでした。」
「わお。辛辣ぅ。酷い言い草だね。」
アインが無自覚で言い放った言葉に大社は苦笑しつつ、ゆったりとした口調で説明した。
「まずね。“冒険者”というのは、何らかの目的のために、名誉・利益のために、又はそれがもたらすものがなくても未知のものを知るために危険を冒してもなお、冒険をする人たちのことだね。」
その人達の主な仕事はダンジョンや遺跡の攻略、未知の領地の踏破、未整備地域や危険地帯での探索や物品の回収、護衛、用心棒、害虫や害獣の駆除、郵便配達、人探し、などと様々。
一言で言うと、何でも屋といった感じだ。
ギルドは冒険者になるための所でもあり、拠点でもある。
「冒険者登録というのは、その冒険者の一員として、活動記録を残したり、情報入手がスムーズになったり、依頼を受けられたりすることができるね。」
「なるほど。」
「登録は簡単だからね。コレで出稼ぎをしている人がいるよ。強い奴と戦いたいって人もいるけど。」
「ほう。」
道中、暇なため、大社とアインはそうやって話しながら森の中を散策した。
と、視界が開けてきた。
平原の中に広がる王国がある。
純白の城を中心に広がる街、周りに純白の城壁が美しい。
「おお。見えるか?あの王国。」
「はい。白城を中心とした街ですね。」
その王国を遠目に眺めていたら、大声が聞こえた。
「おーーい!そこの人ー!」
「ん?」
大社たちに声をかけていたのは旅人らしきの集団の1人だった。
こちらに手を振って、叫んでいた。
「そこで手ぶらで何をしているんだい!?此処、魔物が出るから危ないぞー!」
「大丈夫ー!問題ないよー!」
心配しなくとも、大社たちは強い。
しかも、片方はやんごとない身分の神様で、もう片方は自称そこそこな身分の悪魔。
どこにも心配する要素はなかった。
「そうかー!お前達、あの国を目指してんのかー?なんなら、乗せて行っても良いぜー!!」
「本当かー!!アイン。乗せてもらうよ。」
「はい。」
せっかくの好意を、大社たちは受け取ることにした。
王国に着くまで、馬車に揺られることに20分。その間は旅人の人たちと話していた。
リーダーはハンクと名乗っていた。
立派な髭を持った小太りのオジサンで、商人兼旅人で、商売で金を稼ぎながら、世界中を旅しているらしい。
「そうなのか!実は私達、世界中を旅をしようとするところだったんだ。でも、商人には向いてないから、コレから、冒険者登録をしようとあの王国に行くところだったんだ。
もし、別れても、私達はまた会えるかもな。」
「そりゃあり得るな!
でも、世界中を旅するというのはシビアなんだ。」
ハンクの雰囲気が変わった。
数々の修羅場を潜り抜け、生き残った猛者の気配そのものである。
ハンクは“本物”だ。
「世界を旅するのは簡単じゃない。俺は大勢の人々の手を借りて、ようやっと世界を一周したんだ。
でもな。全部じゃない。
まだ見てねぇ所はたくさんある。例えば、人類未踏の地、入ったら死ぬっていう大陸、S級ダンジョンが存在する森や海、などなど。
世界は広いんだ。人生一回だけじゃあ周りきれねぇ。」
「それに、疫病、厄介な宗教、魔物、策略、戦争などの厄災がこの世界中にたくさんある。それらを掻い潜り、命を守りながら、旅をするのは、難易度が高え。」
世界を旅するってのは、相当な覚悟や実力が必要だと、ハンクは目を眇め、そう警告をしてきた。さすが、世界中を旅している商人は伊達ではない。
ちゃんと実力があり、その警告の言葉は重いものが乗っていた。
ただ、問題ない。
「大丈夫だ。私達は強い。
だから、心配はない。」
真正面から笑って、そう答えた。
ハンクは目を見開き、此方を凝視した。
と、突然笑い出した。
「それはすげえ自信だ!その実力ってのが本物ってなら、旅の途中でまた会えるかもな!」
「かもなぁ!」
「ボス!着きました!」
と、馬車を引いている馬を引っ張っている人が知らせてきた。
「おう!そうかよ!
では、お前達とは此処でお別れだな!」
「ああ。良い話が出来たよ。」
「また会えると良いな!」
やはり誰かといると、時間の流れが早く感じる。
彼らは旅人であり、商人だ。商人用の出入り口は別口にある。
ハンク達とは此処で別れた。
「次の人!止まれ。そこから動かないように。」
城門を潜る前に一度止められた。
止められた所には、アーチ状の何かの機械が設置されていた。
それが、ポーン、と緑色の光を出し、軽やかな音を鳴らしたら、通してくれた。
召喚されてきた学生たちがコレを見れば、空港にある機械を思い出していたのだろうの魔導具である。
「次の人。何人だ?」
「2人だ。」
大社はあらかじめ、狩って来た魔物を森の中にあった宿場、SAみたいな所に売り飛ばし、硬貨数十枚ゲットしていた。売り飛ばした魔物の数は職員の腰を抜かした程だったとだけ言っておこう。
その硬貨の中から2枚出す。
「2人でか。ん?お前は何歳だ?」
「15だよ。」
大社の中身はさらに歳を食っているが、“身体は15歳のまま”なので、嘘は言ってない。
「なら、銀貨一枚と銅貨10枚だ。」
「ん?安いな?」
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この世界の硬貨の値段はこうだ。
鉄貨(日本円で十円)
↓
銅貨(鉄貨100枚、日本円千円)
↓
銀貨(銅貨100枚、日本円十万円)
(村などの田舎では見たことがないって人が多い。)
↓
金貨(銀貨100枚、日本円千万円)
(コレ以降は貴族、商人の間くらいしか、出回ってない。)
↓
白金貨(金貨100枚、日本円で十億円)
(大国の金庫でしか見られない。)
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
この世界の入国料は大体銀貨一枚だ。
「あー、確か、
十歳までが銅貨一枚。
二十歳までが銅貨十枚。
二十歳以降が銀貨一枚。
と言った感じだ。
口減らしを防ぐためとか、何やらでこのように安くしてんだとよ。
子沢山の奴からしたら、ありがたい話だぜ。」
「ほー。」
「この制度を発表したのは国王様だが、発案したのは王太子だって話なんだぜ。
確か、入国する時のあの魔道具、アレを発案したのも王太子だってよ。
まだ18だと言うのに、凄えな!」
「なるほど。」
飛行機の検査機と似た物と言い、この制度と言い、王太子、“転生者”だろうなと大社はあたりをつけた。
転生者
召喚とは別の方法で異世界に来れる方法はある。その一つが“転生”だ。
一つの宇宙には、一つずつ輪廻の輪がある。
輪廻の輪から何かの拍子で外れた魂、または、その輪廻にはもう適さない魂は、もう一度輪廻へ組み直すことは難しい。
うっかり、ログアウトして、同じアカウントで入ろうにも、なぜかエラーが出て、なかなか入れないという出来事と似ている感じである。
そのため、他の輪廻に組み替えた方が良い。そのような宇宙間での魂の移動のことを転生と呼ぶ。
たまに、記憶を持っていることがあるため、それで転生を発覚するが、本当は一部を除く全員、転生している。
王太子が転生者かどうかは会ってから視ると分かるから、良いか、と思ったが、王族にはそう簡単には会えないため、大社は忘れることにした。
「取り敢えず、銀貨一枚と銅貨十枚。」
「お。丁度か。よし、入国していいぞ!ようこそ!楽しんでこいよー!」
硬貨を払い、門をくぐる。
茶色の屋根に白い壁の建物。その前に並ぶ屋台達と新緑の街路樹。外見は高い白の城壁だったが、中の街並みはとても色とりどりで美しかった。
この国の治安が良く、生活水準が高いということが一目でわかる、素晴らしいものだ。
大社は街並みを満喫していると、アインが口を挟んだ。
「ギルドというのは、何処ですか?」
アインよ。少しくらいこの街並みを楽しむとかはないのか?悪魔だから、感性が離れてしまっているのかな?
いや、そもそも、例外を除くほとんどの悪魔はそういうもんだったわ。
大社は呆れ混じりの苦笑をしつつ、ギルドの方向へ歩き始めた。
「あぁ、うん。ギルドは門から歩いて5分くらいのところだね。」
「分かりました。」
と、ギルドの登録方法の内容を思い出して、アインに質問する。
「そういえば、名前はどうするの?登録する時、必要なんだけど。アインのままでいい?」
「問題ありません。貴方は?」
大社はその問いに名前を考えた。
『大社翠』という名はあの国の人達に勘付かれるから、ナシ。
神としての名前は神話の中でよく知られているし、長命種に勘付かれる。また、あの精霊達が面倒なことになるので、ナシ。
それより、名前から捩ることにした。
オオコソの“ソ”、スイの“ス”で、“ソイ”。
「ソイにするよ。ソレでよろしく頼む。」
「分かりました。ソイ様と。」
「ソレ、坊ちゃんと間違えられそうなんだけど。」
――――――
ギルド員side
喧騒、酒気、そして、吟味するような視線。
帰りたい。
ギルド員の新人である俺は切実に帰りたいと思っていた。
出稼ぎで街に来たもの、軟弱な俺を受け入れてくれるところはなかった。
ギルドに入れたのは単に人手不足だったからだ。
頑張って稼ごうとしたが、これは帰りたい。
冒険者同士や冒険者とギルド員の喧嘩に巻き込まれることは日常茶飯事。
そして、今、隣では狩ってきた魔獣の換金について揉めていた。これはもうほんとによくあることだ。もっと値を上げろとか、本物だとか、言い争ってる。
帰りたい。
何度目かの感想を心の中で吐き落とす。
「すみません。」
「はい。なんですか?」
いかんいかん。思考放棄していた。集中しないと。
ちなみに俺は冒険者の登録の受付をしている。
「私とコイツで登録したいけど良いかな?」
後ろの人は大柄な人だった。180センチよりは超えてるだろうか?
それに対して、今手続きをしている人は俺と同じ165くらいだった。マントを着ていて分かりづらいけど、華奢な体つきをしているだろう。
顔も深く被っているフードで見えないが、チラリと見えた口の形からすると、相当な美形だということが分かる。その見た目で周りにいる人から視線を集めていた。
その視線の中にはカモにしようという視線、そっちの趣味な奴の視線が混ざっていた。
ただ、俺からしたら、やめとけ。と言いたい。
何故なら、明らかに連れの大柄な人よりも小柄な人の方が明らかにヤバい。
素人の俺からしても、本能が告げる。
この人、絶対強者だ。
何言ってんだって思うでしょ?
ちらっと見た顔からして、15歳ほどの男で、華奢な感じがした。どこぞの坊ちゃんか?ってくらい綺麗な人だった。
でも、外したことのない勘では今まであった人の中では1番強いんじゃないか?って言ってた。
ガンガンと警鐘を鳴らす勘に顔が引き攣りそうになるが、鍛えられたポーカーフェイスで覆い隠す。
「はい。これでいいかな?ごめんね。出身地や生年月日は書けなかった。
それから、私は本名じゃなくて偽名だけど。」
「あ、いえ、大丈夫です。事情があって書けない人がいますので、名前は偽名でも大丈夫です。」
手続きの書類には“ソイ”と“アイン”と書いてあった。
「助かるよ。」
「試験は2ヶ月に一回で、1番近いのは明日ですけど。如何しますか?」
「どうする?」
「私は大丈夫です。ソイ様が決めてください。」
ソイ様って、やんごとなきお方だろうな。
強いし、仕草がすごい綺麗だし、アインっていう人も側近って感じがする。
「んーじゃあ、明日でお願い。」
「分かりました。こちらは受験票で、受験番号や試験の説明が書かれております。」
「わかった。」
ソイは木でできた受験票を2枚受け取り、1枚はアインに渡された。
良かった、ガラの悪い人が増えなくって。と、見送っていたら、ソイたちの前に数人の男たちが立ち塞がった。
(何してんのーーー!!!!????)
心の中でそう絶叫した。
「冒険者希望かい?ここは坊ちゃんが来るところじゃないよ。それでもなりたいっていうなら、手取り足取り教えてやろうか?」
(坊ちゃんかもって俺も思ったけど、その人たちはヤバいよ!!??瞬殺されるよ!!!??)
顔面蒼白の表現がふさわしいくらい顔色を悪くし、ガタガタと震えて動けないまま、その状況を見守った。
と、ソイたちとの間に割り込む人がいた。
「あ"?なんだ?」
「新人を恫喝をするのは見過ごせないな?」
「はぁ?恫喝なんかしてねぇよ?やさしーく教えてやっているだけだぜ?」
「その優しくは本来の意味とは異なるように聞こえたんだけど、気のせいなのかな?」
「チッ。」
ああ言ってるけど、たくさんの人を見てきた俺なら分かる。
あれはダメだ!グルだ!
多分だけど、味方のふりをして助けて、後で手の組んだやつに喰いものにさせる奴だ!んで、ふりをしたやつは邪魔者が減るっていう感じのやつ!
今まで見かけたことがないのは、多分、人の目がつかない所でやっていたのか、他の国でやらかしていたのかもしれない。
先輩も気づいたのか、止めに行こうとした。
だが、杞憂に終わる。
「なあ。」
「なんだい?」
「前の人とはグルだよな?さっきの嫌な視線の一つがお前だろ?」
「そんなことな、ッッツ!!??」
シラを切ろうとしていたが、その後、絶句する。
ソイが消えたと思いっきゃ、木が思いっきり折れる音が聞こえた。そちらを見ると、立ち塞がっていた人たちが床を突き破って沈む。頭から胸まで埋まった。よく見れば、ピクリとも動いてない。
いつの間に、と戦慄していたら、ソイが口を開いた。
「一つ教えとく。見た目だけで判断するな。これみたいに痛い目あんぞ。」
ソイは凍え死ぬと錯覚してしまうくらい冷たい声でそう言い放ち、床に沈んでいる人を指す。
「さっさと失せろ。」
ソイは目を細め、絶対零度の視線を向ける。
それを向けられた人はそれに耐えられず、逃げ出した。動けただけでマシなのかもしれない。俺は全く動けない。動いたら死ぬかもしれないという恐怖に支配されていたからだ。
ソイはマントを正した。
「行くよ。」
「はい。」
ソイたちの前にいた人たちはササッと道を開ける。
ソイたちは出口から出ようとしたが足を止め、こちらに振り返った。
「ごめんね。迷惑かけた。」
ソイはこちらに一礼をして、出て行った。アインもそれに続き、一礼をして出た。
あの人がいるのなら、もう少しこの仕事を続けようかなって思ったギルド員の話でした。