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キメラ



 我は悪魔と昆虫の魔獣との混合獣(キメラ)だ。

 我はある実験場から脱走した。


いや、具体的に言うと、


『空腹感で理性を失った我が暴れ、手当たり次第喰らっていたが、獲物がいなくなり、他の獲物を求めてその場から去った。』


 である。


 ちなみにその実験場は、混合獣を人工的に大量生産するためのところだった。







混合獣(キメラ)



 コレは他の生物の体を繋ぎ合わせたり、融合させたりすることで生まれるものだ。


 我ーー悪魔を呼び出したのは、その混合獣の生産の実験に使うためだった。

 悪魔は冥界という精神だけで存在するところにいる強力な精神生命体であり、そこに目をつけたのだろう。


 過程は長くなるため、結果だけを言おう。

 結果は成功とも失敗とも言えないものだった。


 我は召喚に応えた理由である体を手に入れることを成功したが、その身体は不安定な混合獣。

 受肉した途端、激しい空腹感に襲われ、周りにいる生物を手当たり次第食べ続け、実験場は壊滅となった。

 もしも、召喚されたのが下級悪魔だったら、キメラの体を使いこなす事で精一杯となり、研究員の言いなりとなっていたのであろう。


 実験場の研究員の不幸は、召喚した悪魔が我だったということだ。


 そのような事情で、研究場(跡地)から離れた。

 そして今も獲物がないかと彷徨っていた。

それが何日、何週間、何年間、経ったのかは分からないが、我はいつの間にか、森の中に入っていた。

 それでも彷徨うのは止めなかった。


 ふと、何故か混濁している意識がある方向へ向けた。何かの気配がしたのだ。その方向に、引きつられるかのように足を進めたら、人間が1人いた。


(・・・・アレでよいか。)


 その生物はそのまま、我の餌食になるべく、凄まじいスピードで距離を詰め、その人間を手中に収めようとした。


「!!?」


 しかし、視界から獲物であるその生物が消え、伸ばした手は空振った。

 と思えば、上から衝撃を受けた。

 すぐに上に爬虫類の鋏に変わり果てた手を向けたが、蹴り飛ばされたのか、弾き飛ばされた。着地する音が聞こえ、そこを見ると、先ほどの獲物の人間がいた。


「なるほど、混合獣か。」


 男かも女かも分からない凛とした声が聞こえた時、僅かにだが、意識が明白になった。


 が、すぐに激しい空腹感で塗り潰される。


 その獲物を捕らえようと、スキルを発動した。そのスキルは、生まれ持ったスキルによって、得たものだ。



【影操作】



 自分の影から周りの影と繋げ、獲物を囲む。そして、獲物を影で覆うように操作する。

コレで逃げ場がなくなり、そのまま我に食われる。


 かのように思った。




「ハハッ!!コレは驚いた!!“不思議な縁”があるんだな。」









白銀







 次の瞬間には、既に白銀の光に包まれていた。



 その光は温かく、空腹感が満たされ、今までどうしようもなかった苦痛が癒される感覚がした。


 もう安心だと、自分を脅かす存在はないのだと、そんな庇護されるような多幸感に包まれた。






「私の名はスイ・オオコソ。お前の真名を教えよ。」



 そんな声が聞こえる。



 名を教える。


 それは使役の儀、又は奴隷の儀の一つだ。

 人間ならばともかく、真名を重要視する悪魔や魔族ならば、尚更重大だ。

 普通ならば、屈辱的なこと。


 教えぬべきのことだろう。



 ただ、我の勘が告げていた。

 この人間は我に害がある存在ではないと。

 そして、何より、この温かな気配に酷く安心させる。



 だから、我は告げる。




「我は、我の名は、ーーーーーだ。アインと呼んでくれ。」




 名を告げた途端、今まで朦朧としていた意識がクリアとなり、聴覚しか機能していなかったのが、他の感覚もきちんと機能し出した。


 初めに感じたのは痛みだった。

 つなぎ合わされた体の痛みだ。ただ、それらが収まっていき、同時に違和感や不快感も消えた。


 先ほどまで食らっていた物の味がはっきり感じた。


 森の中の木の匂いも感じられる。


 周りの音も聞こえるようになった。


 そして、視界が開けた。




 そこで初めて、相手ーー我が主の姿を見た。



 歳は十五に見えた。

 服装は、白の服に革のベルトで留める黒のズボンというシンプルな物だが、形は見慣れぬ物だった。


 声色や体格、骨格を見ても、男かも女かも分からないが、それらは中性的で美しいかんばせに釣り合うものだった。

 濡烏色の黒髪に色白の肌。

 白銀の光に映え、神々しい美しさを更に昇華させていた。



 しかし、それ以上に最も目を引くものがある。


 長い睫毛の下から現れる、黄金色の瞳。

 ツルリとした瞳だが、宝石如くの輝きを放っており、中に幾何学模様が見えたように錯覚する。見れば見るほど、深淵を覗くかのような気分になる。

 その眼はなんでも見通すかのように美しく、神秘的に妖しく煌めいている。

 美しい。いや、美しすぎるが故、更にその目を覗く事がますます恐ろしくなる。


 そんな感想を相手に抱かれている事を知らないかのような穏やかな声色で自分に声をかけられた。


「やあ、見えるかい?私がスイ・オオコソだよ。」


 我の目の前で手を振りながら、自己紹介してきた。


 それは我がさっきまで視覚が機能できていなかったことを理解していることからの行動だとすぐに察した。


「神気でお前の体が安定するようにしたけど、どうかな?」

「・・・良い気分だ。神気とはなんだ?」

「神が待つ魔力みたいなもんだね。」

「神が持つ力。つまり、貴様は神なのか?」

「そうだね。具体的には自分を鑑定すると分かるよ。」

「何?」


 そう言われ、自分を鑑定をした。



__________________


・・

・・・

加 護:******の冥護


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄



「加護は、お前の身体が自然と安定するまでの一時的なものだけどね。」


 その声を聞こえたが、それに反応する事ができなかった。何故なら、鑑定の結果に驚怖することがあった。


 我に主従の契約ーーではなく、加護をつけた者、つまり、目の前にいる我が主の正体のことだ。


 我以外には分からないよう御呪いをかけられているステータスにある我が主の正体。

 それを理解できたのは、思考停止から解かれた時だった。


「・・・・・・・・・・・・・貴方、やんごとないお方だったのですか。」


 我の喉から何とか振り絞って出た声は酷く渇いており、震えていた。それに相手はゲラゲラと大口を開けて笑い出した。


「いきなり、敬語を使い出したなぁ。」

「正体を知れば、間違いなく誰でも使いますよ。」

「ああ、確かに文字通りのナンバーワンなんだよな。でも、お前も魔界のところでは実質ナンバーワンだろ?なら、敬語を使わなくとも構わないと思うけど。」


 確かに我はそこそこな身分だが、この方に敬語を使わないと言う無礼を働いたら、間違いなく、彼らが出る。そして、死ぬ。流石の我でも、奴らを一対多数でやろうと思うほどの愚者ではない。


「そのような無礼を働いたら、精霊達が制裁をしに来ますよ。」

「ハハッ!確かに!」


 あいつら、案外怖えんだよなぁ、と懐かしむかのような声でそう言った。


「笑い事ではありません。」

「ンフフ、確かにねぇ。あ、ソレと、その格好、側から見れば、不審者だから、着替えて。」


 アインは身体がキメラであり、その上、服らしい服と言えば、原料にされた人間の箇所が纏っていた患者服くらいだ。しかし、その患者服は実験の過程やキメラの変形、意識朦朧で彷徨った時に汚れ、傷つき、ボロボロとなっていた。

 それを見たアインは無言で身体を冥界で過ごしている状態に変えた。


 色が漆黒で統一された商人の服に変わった。

黒以外の色は垣間見えるシャツの白と腰を巻いているベルトの真紅である。


「コレでよろしいでしょうか?」

「おー。良いね。ただ、これからのことを考えるとフードを被ったら良いか。こんな風に。」


 気品がある白銀の気が溢れ、白のフードを身に纏う。そのフードの丈は足首まであった。

 フードの中を見せられると、かつての服装と異なっていた。


 顎まである長い襟の長袖の白服の上に、膝上まである紺色の貫頭衣を纏い、腰に白の帯で固定していた。

 漆黒のズボンのゆったりとした裾は黒色の布で脛の部分ごと覆い、白の紐で固定していた。


「分かりました。」


 魔力でフードを生成する。魔力の性質で、大社とは異なる黒色のフードを纏った。


「目で人外だとすぐに分かってしまうな。仮面でもつけとけ。フードだけだと心許ないだろうし。」


 と、我が主が黒のアイマスクを作って我に下賜された。そのマスクを顔に付ける。

 これで、仮面をつけた商人の装いとなった。

 商人が仮面をつけて商売する事は稀にだが、実在するので、問題は無い。


「うん。コレで良いか。」

「そうですね。」

「じゃあ、行こうか。」

「はい。ん?何処に?」


「隣国のギルドに行くよ!」

「説明が抜けてますよ。」


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