冒険の準備の準備の準備!
☆-☆-☆
うーん。
なんという寝心地のよいソファー。
夢も見ずにぐっすり眠ってしまった。
いつの間にかふかふかの毛布がかけられていて、誰だろう?と思うけど...。
寝起きでぼんやりしていたら、リシェルさんがやってきた。
「リシェルさん、おはようございます」
リシェルさんは回復術士と強化魔法士というジョブなのだそうだ。そう、ジョブ!かっこいい言い回し。
「おはよう、えーと、クマ!」
「クマ?」
「あ、違うな、えーと、ナエ!」
「あっ、なんか惜しいです」
「あっ!ナオだ!おはようおはよう。毛布はしばらく使っててね。じゃ。」
「リシェルさんちょっとお待ちを!これ、ギルドからもらった物なんですが使い方が分からなくて」
ゴソゴソとネックレス状態のものを取り出す。
「...それネックレスだったかしら」
「...首から下げとけば無くさないかと思って...」
「これ、使い方が分からないんです。」
「手をかざすだけだけど」
言われた通りにしてみたら、空中にステータスアイコンが出た。なんだか昨日の苦労をしみじみと思い出した。こんなに簡単なことだったとは。
「スギモトナオ...ね。ジョブは...拳と蹴?どう読むのかしら。」
「分からないんです。もう少しレベルが上がればはっきりするらしいんですが。」
「レベル上げは大変ねー。どこで3レベルになったの?」
「ダンジョン入口にいるスライムを倒しまくりました」
.........なんでだろう、すっごく笑われた。
「スライム...グフッ...たまにコアが出なかった?」
「キラキラした石みたいなのですか?」
「そーそー。あれ、冒険者ギルドで売れるから、今日も頑張ってね。」
手をヒラヒラさせて去る後ろ姿がかっこいい。
コーヒーを飲んでいるだけでも様になるリシェルさん。
この家...は、みんなそれぞれ好きに過ごしているみたいで、パーティを組んだりする時だけ一緒に行動するみたい。
私が家と呼ぶのは寂しいけど違和感あるかな。おこがましいというか...。
まぁ、今日もスライムと戦ってレベル上げてこよう。
☆-☆-☆
なんとなく土地勘もついてきて、家は、ギルドとダンジョンの中間辺りに建っていることも分かってきた。...マップも欲しいな。昨日みたいに「マップ!」と叫んでも出ないことはなんとなく分かる。
ダンジョン入口に着くと、私はストレッチを始めた。妙に視線を感じるけど無視。アキレス腱を伸ばしたり、軽めに全身を動かす。
それから、シャドーをする。これは習っていたキックボクシングの練習兼、アップなので、身体を温めて動きやすくするための練習だ。
汗が流れるくらいやって、振り向いたらサッと目を逸らされた気がする……。
今日は試してみたいことがあり、今までは空手の手刀でスライムチョップして倒してみたんだけど、今日はキックボクシングスタイルで倒してみようと思う。
拳と蹴が進化しますように!
ダンジョンに入ると、一瞬で空気が変わる。気を抜いたらまずい、と肌で感じる。
今日はあまりスライムが入口のほうに居なくて、仕方なく、上や足元までしっかり見て、一歩ずつ進んだ。罠とかありそう...。
やっとスライムを見つけたので、軽くジャンプして力を抜いてみる。小さいので地面スレスレを蹴る感じになってしまうかも。
モンスターから出るキラキラした石はギルドで売れるらしいので、集める。
水を一口ずつ飲んで、じりじりと進んでいたら、ガイコツが歩いている。
...こんなこともありますよね。
武器はないモンスターなのを確認して、考えた。罠も見当たらないけどあまり奥に進みたくもない。
落ちてる石を投げてこっちに誘導しようとしたところで、まずい、と思った。バンテージも巻いていなければ、もちろんグローブなんてものも無い...。
仕方がないので蹴りで仕留める覚悟を決める。
でも、怖い。なにせガイコツ。どのくらい強いかも分からないし...。とりあえずコアを狙って......と思ったら胸の辺りにある。距離を取るための前蹴りをしてみよう、ダメだったらハイキックでコアを蹴り抜く。
再び覚悟を決めて、石を投げると、数体いるうちの一体が私に気づいた。怖っ!来る!
気持ちで負けちゃダメ……。前蹴り...前蹴り...。
間合いに入った瞬間、強く押すように蹴り、反動でバックステップを踏むつもりだったが……。
骨が崩れ去り、光る石が残った。拍子抜けしてしまった。生前は骨粗鬆症のガイコツだったのかもしれない。
次の一体も、次の一体も、なんというか、「グシャア!」みたいに潰れていく。なかなか良い蹴り心地...。
せっかくなので、イン・ローとか色々試していたらいつの間にか夕方になっていた。
また気をつけながらソロソロと歩き、ダンジョンを出た。
☆-☆-☆
「ぷはー!」
あ、そうだ。すぐにストレッチせねば。
最初のストレッチの3倍くらい時間をかけて入念に身体を伸ばした。そうしないと筋肉痛が辛いと思うから。
思えば、こっちの世界に来てからキックをしたことが無い。
全部スライムチョップで倒していた。
下半身を念入りに伸ばしていく。
ストレッチを終わらせて、冒険者ギルドへ向かった。
...途中にあるんだよなぁ、串焼き屋さん。でも3ラスしかないので、たんぱく質を摂りたい気持ちを抑えて足早にギルドに向かった。
「ミレーさん、こんばんは~」
「あら、ナオちゃん!」
「今日ダンジョンに行ったのですが、モンスターのコアが取れまして。売れると聞いたので持ってきました。」
「レベル上げしてきたの?」
「はい!上がっているといいのですが...」
ミレーさんの手元を見ていると、大きさで分けている気もするけど、キラキラ度が強い石も別に置いていて、どういう基準か分からない。
「全部で...ちょっとおまけして1スベインよ。」
人生初のスベインは嬉しい。ニヤニヤしながら帰った。