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グランスティン狂想曲【番外編】

「この国で新たな二つ名の持ち主が現れた……それが余にとって……どれほどの事か、分かるまいな……。」


コツ……コツ……コツ……


「余は待っておったのだ……普通ならば顔を輝かせて一番に拝謁を願い出に来るものを……ケーキで祝い……レベル100ダンジョンにピクニックに行き……酔漢から乙女を救い……今日も格闘技教室に行く心づもりであったな。」


コツ……コツ……コツ……


「顔を上げて名を名乗るが良い。新たな星よ。」



恐る恐る顔を上げて、傍にいる衛兵っぽい人に視線で助けを求めると、口パクで、二つ名、と言われた。


「【蒼炎】のナオと申します……」


また恐る恐る下を向こうとすると、衛兵っぽい人の足先が不自然に動くので目線だけで見上げると顔は上げていろのジェスチャー。


「余の名は【叡智】ロズアルド・ミレストリア・グランスティン。」


ふう……と息をつき、「せめて【叡智】のロズアルドくらいには覚えて置いて欲しいものだが……。」



このネチネチとお説教をしてくる人は、この国、グランスティンの王様で、今、Trident forceのメンバーは全員、ひざまずいている。

家で寛いでいるところを半ば拉致されるようにして、二台の馬車で連れてこられたのだ。……王宮すぐそこなのに。



「今夜は新しい星を皆に紹介しよう……何も構えることは無い。全て準備は整っておる。……少し仲間との時間をやろう。夜にまた会おう。」


言いたいだけ言うと、王様が立ち去り、偉そうな人が続き、バサァッとカーテンが降りる様は演劇でも見ているみたいだった。


どうしたらいいのか分からず、ポカーンとしていると、

「こちらの部屋をお使いください。」と案内される。

「何かありましたらお声掛け下さい。」


しばらくしーんと黙り込む。ダンジョン内で隠れている時よりも静か。

「あ、あの……何がどうなって……」と聞こうとすると、

「すまん!」アランさんに謝られた。

「二つ名が現れたら、今いる国の王に挨拶に行かなきゃいけないしきたりだった!全員二つ名だったから忘れてた!」



「ナオちゃんごめんなさい。二つ名が当たり前だったから本当に忘れてたの。」

「ナオがあまりにも凡……普通すぎて忘れてた」

「俺としたことが……。」呟くジュードさんに至ってはエプロン姿。「ジュードさん、手にお玉持ってない?」「えっ?……」



アランさんが難しい顔をして言う。「この後、ドレスアップさせられて、パーティーに出させられるからな。黙って微笑んでおけば何とかなるから。」 魔王でも倒しに行くような形相に、ナオは恐れ慄いた。

「俺も黙って微笑んでおけばいいの?」「お前の微笑みは期待されていないから大丈夫だ。」「私、ドレス着るの久しぶり!ナオの仕上がりを楽しみにしてるからね。」リシェルさんだけが楽しそう。


「どうせ、粗野な冒険者の集まり程度にしか見られないわ。ナオ、楽しみましょうね~!」


「そろそろ宜しいでしょうか。」


私たちは個々に連れ出された。

無表情のメイドさんにテキパキと装備を脱がせられる。

映画のようなバスタブで全身ゴシゴシされる。

全身にいい香りのオイルを塗りたくられる。

メイクをされ、コルセット責めに遭い、ドレスを着させられながら靴を履かされ、レースの手袋に謎の扇子まで持たされる。



しかしどうしてもアランさんの形相が気になった私は、ダンジョンドロップ品のバングルなど、見えないところに着けられる装備は付けていくことにした。

眉をひそめられただけで終わって良かった。


それにしても星ってなんだろう。

めんどくさいことになりませんように~!


準備が整うと、アランさんが迎えに来た。

「おお!ナオが!ナオが!美人!さすが新しい星!」と言うのでふざけて「行きますよ、アラン王子」と言ったら、「なんだか結構楽しいな!」とはしゃいでいた。


アランさんにエスコートされて広間に足を踏み入れると、会場内がざわつき、お姫様になった気分。



アランさんの手を離れ、王様の前でカーテシーをする。

見よ!この体幹とカーテシーができるほどの脚力!

「お、おお、見違えたぞ。」と言うと私の手を取り、



「この度、グランスティンに生まれた新しい星だ。名を【蒼炎】のナオという。我が国に祝福あれ!」復唱されて、グラスに口をつけるフリをして、微笑んでみせた。


それから、人波を縫って、なんとかトライデントフォースに合流する。

「リシェルってやっぱり女神様だったのね。新しい星に女神の加護を……。」

「……ナオ?ナオだよね?お姫様にしか見えないよ……!」

「あら、ジュード王子にマハト王子。」

「ナオすげぇ。変身魔法?」「うるさいな、おたま男。」「あれは美味しいスープのために上澄みを取ってて」

「ナオ綺麗。」「マハトも素敵!」「アランさんは?」みんなアランを見て、瞬時に冒険者の顔に戻る。「ジュード、マハト、リシェル、演技は得意?」「合わせる」「むり」「任せて」


すれ違う人に会釈をしつつ、扇子で目線を隠し、殺気に集中する。複数人、でも人数がはっきりしない。ジュードのハンドサインを見逃さないように、あまり距離を開けないようにする。


「そんなに熱く見つめるなよ。」「何人?」「4。手練、2階バルコニー」「パーティーの余興よ」「分かってる。お姫様」


「リシェル。」扇子を開いて顔を寄せる。「4、手練、2階、解毒」


「マハト。」扇子が思ったより使える。「4、手練、2階」


「アランさん。楽しんでる?」「楽しいのは今からかな。」「4、手練、2階」「脚を折れ」

アランがわざとらしく手を上げ、「ジュード!マハト!楽しんでるか?」と声を掛けるが、ハンドサインは「脚を折れ」


音楽が奏でられ、優雅に踊り始める。流れに乗って、さりげなく王様の前に位置取る。


パリーン!!

女官がグラスを落とす陽動で、一斉に動き始める。

周りの目が女官を見ている間に、ハイキックを顎に当て、脚に手刀を2発。リシェルが「飲みすぎよ?」と解毒し自害を防ぐ。マハトがお姫様抱っこでカーテンの裏側に隠す。この時点で3人が行動不能。


「鮮やかなものだ。」「パーティーの余興です。」

青い炎がドレスの色と混ざりあって輝く姿で、ダンスの列を回転するように踊る、踊る、踊る。

会場中の視線を集め終え、ハンドサインを確認し、再び優雅にカーテシーを披露する。

万雷の拍手の中、ゆっくり立ち上がり、全てが終わった。


「アラン、終わった?」「完璧。リシェルのお陰で生け捕りだ。」「私、ステーキ食べたくなっちゃったな。」「俺もだ。」王様に順番に挨拶をして、ドレス姿で馬車に乗り込む。「装備ある?お玉は?服は?」「ある!全部ある!」


ナオが、魔法が解けちゃうみたいと嘆くと、ずっとあの場所にいたいか?とアランに聞かれる。

「ニヤニヤするの、やめて!私だって恥ずかしかったんだからね!忘れてよ!全部!じゃないとずっと王子呼びするから!」


~fin~

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