ある日の出来事
今日は冒険者ギルドに行って、初の依頼を受けてみるつもり!
なんだかんだ言いながら、一度も引き受けていないし。
マハトさんに買ってもらった可愛い装備を付けて、マジックバッグも持って歩いていると、なにやら騒ぎが起きている。
男3人に女の子ひとりが絡まれている。
男達は、どこからどう見ても酔っ払い。
とっさに「お待たせー!あれ?どうしたの?」と女の子に近づくと……顔が真っ青だ。「行こう行こう~。」と手を掴んで立ち去ろうとすると、酒くさい男が「おい!この子はおれたちと一緒に飲むんだよお!」と言う。
「本当に?」と女の子に聞くと「違います!急に絡んできて……迷惑です!」と言ってしまった。
あら……。
「今からお友達と買い物に行くので失礼しますね!」と言って足早に去ろうとした時、空いた腕を掴まれた。
あっ、どうしようどうしよう、多分無理に振りほどいたら腕がちぎれそう。そんな気がする。「ちょっと離してください、あの、危ないんです!あなたがの腕が!」
「何言ってんだこいつ……」
騒ぎが大きくなる前に去らねば!
しかたなく、腕を掴まれたまま、かなーり小さく、エアでこぴんをした。おでこに向かって、ピッ。
ドサッと男が倒れた。
「あれって生きてます!?」
「分からないですう!!」
と言いながら、2人で逃げた。
女の子にはお礼を言われたが、足早に去る。まずい。こんなはずでは。こんなはずでは……。
実は、前居た世界では、空手は段持ちは人に暴力をふるってはいけないことになっているし、キックボクシングに至っては……ケンカで示談金を支払ったという先輩を見た。
どうしよう……。
とりあえず冒険者ギルドに着いてしまったので、冷や汗ダラダラでミレーさんに話しかける。
「み、ミレーさん、こんにちは……」
「あらナオちゃん!こんにちは!今日は可愛い服ね。ステキよ。」
「あ、あ、ありがとうございます、あの、実は私さっき、酔っ払いから女の子を助けてしまって、その、デコピンしちゃって、あの!誰か喧嘩でケガしたとか言う人、いませんか?」
「あらあら!大変だったのね!ちょっと待っててね……えーと、場所はこの辺で、男性3人に女の子が絡まれていた?」
地図を指さしているのを見ながら、
「そっ、そうですそうです!」と頷く。
「男性3人は酔いが冷めるまでは牢屋で大人しくしてもらってるみたい!女の子も無事よ。」
「はぁ、良かったぁ……あの、男性の怪我の具合は……?」
「大きなタンコブがおでこに出来たみたい!」ミレーさんはニコッと笑った。
「私も牢屋に行った方がいいですか?怪我させちゃったし……」「まさか!人助けをして捕まるわけないじゃない。大丈夫よ!」
「あ、は、はい……。」
「ギルドはこういうトラブルにすぐ対応できるように、連絡網があるのよ。ありがとう!助かったわ。」
ギルドから出て、コソコソと、森の方角に向かう。いやまさか、いやいや落ち着いて……ふ、ふ、不動心!
周りに人がいないのを確認して、地面に向かってピッと軽くデコピンした。ちょっと当たった場所だけへこむ。
もう一度、思いっきりデコピンすると、ボッ!!という音を立てて、地面がえぐれた。
真上からだと真ん丸に、前方にデコピンすると、円錐型みたいに抉れる。
「わー、すごーい……。」
パニック気味で家に帰った。
ジュードさんの作ってくれた晩御飯を無言で食べ続ける私に、リシェルさんが話しかけてくれるが、内容が頭に入らない。「今日、面白い映像をシェアしてもらったんだけど……。」
「ちょっと離してください、あの、危ないんです!あなたの腕が!」自分の声がして青ざめる。
リシェルさんが手をかざして映像を映している。
デコピンして女の子と逃げるシーンも写っている。まずい。パーティ追放かもしれない、と思い神妙にしていると、アランさんもジュードさんも、大笑いしているし、マハトさんまで口元を押さえてこっちを見ないようにしている。
「傑作でしょー!ナーオー、やるわねぇ。」ニヤニヤしているリシェルさんから必死で目をそらすが、「こんなのもあるわよ」と。
道場で師匠に愚痴を言いながらひたすらスパーリングしている映像が流れる。ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ!
「ぐはっ!もう……腹筋痛い!」「もう、むり、やめて!」
冷や汗から一転して、茹で上がったように真っ赤になってしまった。そ、そんなに笑わなくても……。私は自分が人間離れしたみたいで怖かったのに!
でも、なんだろう、叱られたり、パーティ追放とかにならなくて良かった……。ホッとした……かも……。
「今、【蒼炎】のナオってすごい人気なのよ!」
「そうなんですね……。」
明日、あの謎の動画の撮り方、教えてもらおう。