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レベル100ダンジョン

……吹き付ける吹雪で何も見えない。

「ナーオー!」

リシェルさんの方にゆっくりゆっくり歩く。

「すいません、前が見えなくて」

「ここがアストロモ山です!そしてダンジョン入口がこちら。」早くもストレッチを始めている一同。

慌ててナオもストレッチをするけど、寒くないし、冷たくもないことに気づいた。この装備、すごく高そう。


いつかマハトさんにお返しできたらいいんだけど、毎回逃げられるんだよなぁ。


「リシェルさん、あんなにたくさん荷物があったのに、どこですか?」リシェルは「マジックバッグ~。すなわち魔法のバッグ!」「そのままじゃねぇか。」「これ、人も入れたりします?」「わー!やめろナオ!やめろ!」……取り返された。

「危ないやつだ……。」「無知って怖い」



「ダンジョン内は最初から強い敵ばかりなんですか?」

「まぁ、そうね。基本的にはレベル100になった人用のダンジョンだし。強いと思うよ。罠とかもすごい数だけど、皆こぞって行くのよ。ドロップ品目当てで。」

「ここではモンスターにも人間にも気をつけないといけないからな。ドロップ品目当てで襲われたことや絡まれたこと、結構あるぞ。」


「怖いです……。」「攻撃役のナオちゃんが凄く重要になってくるんだ。がんばれ!」「うぅ……プレッシャーが……。」


「そうは言っても、やることは他のダンジョンと変わらないから安心して。」珍しくマハトさんが励ましてくれる。これはいよいよまずい場所に来てしまったのでは……。



「準備はいいか、行くぞ!」「おー。」

ダンジョン内に入ると、初っ端から殺気がすごい。最初に入った人間からも色々盗もうとしてるのかな。

守らなくちゃ。皆を守らなくちゃ。

無意識に拳だけ青い炎を纏う。

ジュードさんが罠の位置を指し示し、皆で壊していく。私も臭いで罠を探し、パーティから離れないようにして破壊していく。


ジュードさんのサインで敵がいることが分かる。

……手にじっとりと汗をかく。軽くジャンプして脱力し、構える。同じ攻撃係のマハトさんの近くに立つ。リシェルさんの強化魔法と防御魔法が飛んでくる。



っ来る!

ドシュッ!!

カウンターで敵の頭を打ち抜いていた。敵が速い。カマキリみたいな形をしている。……気持ち悪い。

技を飛ばす間もなく一気に間合に入られたのは怖かったけど、そもそも元はインファイターなので近接戦には強い。……そう思いたい。


マハトさんも攻撃を繰り出し、一匹ずつ確実に減らしている。

1番怖いのは囲まれることだと直感的に思う。リシェルさんやアランさんの近くにも目を配る。



見つけたら躊躇わずに打ち抜く。繰り返しているうちに、殺気が消えた。罠の臭いがしない木箱を見つけ、ジュードさんが開けると、もうアイテムが出てくる。まだ1階なのに。こんなに敵が強いのか。不動心不動心と言い聞かせる。


地下に潜ると、また罠と敵のサイン。

とにかくマハトさんのそばを離れないようにして、一匹ずつ、1個ずつ、確実に潰していく。パンチに魔力を乗せると遠距離攻撃もできるようになった私は、味方近くの敵から打ち抜いていく。


私とマハトさんが敵を倒し、アランさんやジュードさんが罠を破壊する、という感じで自然に役割が分かれてきた。


殺気が消えて、木箱を開けるジュードさんの近くでリシェルさんが待機する。木箱も罠である可能性があるのかな。その背後を私とマハトさんが警戒している。



次の階へ移動する。

罠と敵。だいぶ慣れてきてようやくリラックスして戦えるようになってきた。

キックよりパンチの方が早く対応できるので、今の所はパンチがメインだ。特にジャブが使いやすい。連打できるのがいい所で、素早く2体、仕留めた。


脱力して、スタミナを使わないようにする。

インパクトの瞬間だけ、強く打ち抜く。

ジュードさんのサインをよく見て、次々に進む。



下層に行くと、敵が強くなったとは感じないけど、防御力の高いモンスターが増えた。

コンビネーションを叩き込む。心が静かで、妙に感覚が鋭い。

見なくても仲間の立ち位置が分かる。



効果が切れる前にリシェルさんの魔法が飛んでくる。

ボス部屋を見つけ、ジュードさんに耳打ちされる。終わって部屋を出た瞬間も気を抜くな。



ボスは大きいカマキリ。

コアが見えるので楽で、遠距離から攻撃した。キックも混ぜたコンビネーションと、マハトさんの攻撃魔法がコアに当たり、呆気なくボスが崩れ落ちる。

ドロップ品を回収し、水分補給をして、気合を入れて外に出る。ジュードさんのサインは、敵発見。



ザッザッと数人の足音が聞こえる。

こちらに向かってくるけど、明らかにおかしい。

遠くまで見ると、数人、岩の影に隠れている。遠距離系の攻撃をしてくると思う。どうしてアランさんは攻撃しないんだろう。


ハラハラしながら様子を伺っていると、鋭い殺気を感じた。

その方向目掛けて全力の右ストレートを放つ。岩ごと砕け散るが、生きている。

全身に気を行き渡らせ、青い炎に包まれながら、「引いてください」と言う。こちらに向かってきた人間が注意を引き付け、遠くの敵が攻撃するつもりだったようだ。


慌てて走り去る敵を見ていると、アランさんがニヤニヤしている。……私を試したんだなと思った。ダンジョン内で近づいてくる人間はモンスターと変わらない、そう思った。



結構人間も多い。レベル100も思ったよりたくさんいるみたい。

目が合うと武器を下ろし会釈していくパーティもいて、人間不信にならずに済みそう。



後はやるべきことに集中する。

木箱を見てジュードさんが下がれとジェスチャーして、その場を離れる。

罠みたいだ。



次のボスはコアが見えない。小さなドラゴンのようなトカゲのような。

ゴワァッ!!

アランさんに向かって火を吐くが、リシェルさんが付与していた防御壁のおかげで当たらない。


私は目を、マハトさんは口の中を目掛けて攻撃魔法を放つ。

両目を潰してパニックになられても困るので、片目だけ潰す。次に手足。動きが鈍くなってきた所で、マハトさんの魔法がとどめを刺す。無数の槍がピンポイントで胴体に刺さり、ボスは倒れた。何今の!凄い技!

手早くドロップ品を回収し、扉の脇に隠れるようにして出口を開ける。


矢がトトトトッと地面に突き刺さる。

なるべく手加減して軽めにパンチを打って倒す。

遠くの敵はマハトさんの炎に焼かれて慌てて逃げ出す。

人間相手だと手加減が難しいけど、レベル100なら大丈夫でしょ、と冷たい自分が心の中にいる。


殺気が消えたので進む。


ジュードさんの索敵、敵の撃破、アイテムの入った木箱をジュードさんが鑑定、背中を守るように立つ私とマハトさん。

スカウトのするべき役割が多いと感じた。



安全地帯へと向かうが、入口に人間が立ち塞がっている。

敵意がダダ漏れなので、初めから思いっきり右ストレートを地面に叩き込む。瞬時に構え直すと、慌てて走って逃げていく。



安全地帯に入るが、まだ神経がピリピリする……と思っていたら「ナオ、強い!凄かったよ!」とリシェルさんが抱きついてきた。ようやく少し力が抜けた気がした。



ジュードさんがもそもそと寝袋に入り、ちょっと寝る、と寝始める。いくらリシェルさんが魔力回復をかけても、集中力は回復しないので、本当に大変だなーと思う。



「安全地帯には他の人は来ないんですか?」

「基本的には1パーティしか入らない」とマハトさん。

「他のダンジョンならともかく、レベル100ダンジョンで別のパーティと一緒に休むことはないな。」



携帯食を食べながらリシェルさんと小声で話す。

「ナオは人間に攻撃することに躊躇いがないね。」

「キックボクシングはそういう格闘技なので……」

「一瞬の躊躇いが命取りになるから、頼もしいよ」

私が頼もしい……

なんか嬉しい。


リシェルさんが皆に防御魔法をかけて、寝袋でお昼寝した。お、落ち着かない。でも寝ないと持たない気がして、気合で寝た。


結構ぐっすり眠ってしまい、伸びをしていると、ジュードさんはまだ寝ている。マハトさんとアランさんがジェスチャーで呼ぶので見てみると、戦利品を並べている。全く価値が分からないのが残念。



鑑定スキルが使えるマハトさんがバングルを手渡してくる。緩くないかな、パンチの邪魔にならないかな、と思っていると、手首に合わせてピタリとサイズが変わった。

よく分からないけど凄い。……外せるかなと思ったらちゃんと外せた。せっかくなので利き手の右手につける。


ジョブに合わせてアイテムを振り分けているみたい。

起きてきたジュードさんにもアイテムが手渡される。

全員が身につけたところで、そろそろ出発することになった。


ダンジョンボスが近いらしい。



待ち伏せを警戒しながら安全地帯を出る。罠もない。

ジュードさんが木箱を開けてアイテムを回収する。


数階下まで降りた時、空気が変わった。

レベル100のダンジョンボスは強いだろうけど、段々と人の気配が減っていることに気付く。

モンスターも強くなって来ているので、ここからは本当に強い人しか居なくなると思った。


ジュードさんが索敵して、私とマハトさんがモンスターを殲滅する。アランさんは罠破壊、リシェルさんは継続して防御魔法をかけ続ける。


「あとはボスだけだ。」アランさんが言う。みんな無言で頷いた。


ボス部屋を開けると、大きな蛇がいる。

うわあー……と思うけど、人間よりはマシかもと思ってしまった。

このダンジョン、心が荒む!


蛇の攻撃は速い。とりあえず避けて、避けて、避けているうちに動きが鈍くなった。多分、ジュードさんの麻痺毒の効果だと思う。効果が切れる前に目を潰す。マハトさんはひたすら頭部を狙う。アランさんは……うへぇ。蛇を切断している。なかなかグロテスク。


試しに手刀で切りつけると、蛇の体がスパッと切断できた。

アランさんが驚いた顔でこちらを見る。

頭部だけ切り離して、二手に分かれて攻撃する。


アランさんが突然、大きく後退したのと同時にリシェルさんの防御魔法がアランさんを包む。鋭い牙に噛みつかれそうな所を目潰しして、マハトさんは口内目掛けて攻撃する。


全員、無言で後退すると、大きな蛇だと思っていたのは、ライオンみたいな見た目の、モンスターの尻尾らしかった。夢中で尻尾を攻撃している最中に、隙を見て襲いかかってくるなんて……知能が高いんだな、なんか気に入らない。


気に入らない勢いのまま、右ストレートを放つ。防御力が高いのか、攻撃が通らない。しつこく同じ場所を攻撃すると、そこだけ傷ついてきたので、畳み掛ける。


傷口目掛けてひたすら攻撃を続けると、モンスターが大きく吠えた。耳が聞こえなくなり、少しずつ音が戻ってくる。スタンだ。私には関係ない。猛ラッシュをかける。ここで絶対に倒しておきたい。回復させる時間を与えたくない。


全員で1箇所を狙って攻撃していると、マハトさんが初めて何か唱えた、と思ったら、手を振り下ろす。


巨大な槍が、モンスターを貫いていた。赤黒い雷のようなものがバチバチと槍の周りにまとわりついている。


殺気を感じて、まさかと思い構えると、モンスターが起き上がろうとしてこちらに向かって大きく口を開け、眩しい光を吐いた。

全員にかかっている防御魔法が見える。私は光の範囲から外れ、口の中に右ストレートを叩き込む。


ダンジョンボスはゆっくり倒れ込んで、消えた。


みんなで割と淡々と、ドロップ品をマジックバッグに入れていく。慣れすぎていて感動が薄いみたい。リシェルさんとマハトさんは魔力回復ポーションを飲んでいる。2、3本飲んで立ち上がり、ダンジョンの出口横に二手に分かれて隠れ、アランさんがドアを開けた。ここからがきっと、本当の戦いになる。



思った以上の数の人間がいた。躊躇なく右ストレートで倒していく。100人くらいいるかもしれない。1番遠くの回復術士から順番に殴り倒す。余裕が無い。

回復術士が全員倒れたので強化魔法士を倒す。


殴って、殴って、殴った。遠距離攻撃を仕掛けてくる敵にはミドルキックを放つと、数人が倒れる。アランさんは近い敵を、マハトさんはアランさんの援護、私は、もう覚えていないくらい、奥から順に遠距離攻撃で倒す。数がかなり減って、逃げようとした所をマハトさんが範囲攻撃でねじ伏せる。全員動かなくなり、殺気が消えた。


妙な虚しさを感じる。これだけ居たら、ダンジョンボスも倒せそうなのに。

複雑な気分のまま、1階ずつ、ジュードさんのチェックが入り、罠を破壊し、やっとのことで、ダンジョンを出た。


リシェルさんが素早く転移の魔法陣を描き、全員が乗ったところで、雪山から、ダンジョンから、人の欲から、敵意から、脱出した。



家に着いたのに、なんとなくみんな黙っている。思わず、死んでないよね、と呟いたら、レベル100だし、あっちが悪いし!とリシェルさんが言う。

「ナオ~。あれだけ殴り飛ばしておいて、落ち込んでんのか?」ジュードさんがニヤニヤしている。

「そ!そういう訳じゃないけど、人間怖いってなっただけ!」

リシェルさんがよちよちと言いながらナデナデしてくれる。

「戦利品を見たら元気が出るよ。」アランさんが床に次々と並べていく。


マハトさんが鑑定して、これリシェル、これアラン、と分けていく。

「ナオはマジックバッグ持ってないよね?」と手渡された。

これは!魔法のバッグ……嬉しい。邪魔にならないように、腰に巻けるようにもなっていて、しかも軽い。嬉々としてもらった装備を入れていく。

レベル100ダンジョンで出た戦利品は、かなり価値が高いらしい。効果が桁違いだと聞いた。私は素早さと、防御力と体力が上がるものが多かった。手首のバングルは攻撃力らしい。やっぱり……。なんかパンチとか強くなってたような感じがしたもんね。


残りはお金だけど「いらない。」「結構です」「いらない」「俺もパス」「じゃあナオね。」


「今日はお疲れ様!解散!」

アランさんの号令で、それぞれ立ち上がる。

5万スベインをマジックバッグに入れて、部屋に戻り、着替えてクマのぬいぐるみを抱きしめていると、ふえーん、と変な声が出てしまった。

後味が悪い!!!!


「死んでませんように。」本当に、本当に、嫌な気分が抜けなくて、とりあえず寝逃げした。



コッソリとドアを開ける面々。

「……あんなに躊躇いなく殴ってたのにな。後からショック受けたのかな」

「クマ抱いてるわ。次ウサギ買ってこようかしら。」

「5万スベインの衝撃もあったんじゃないか。強いのか弱いのか……。」


ナオが寝返りを打ったので、そっとドアを閉めた。

「ナオが元気じゃないと調子が出ないわぁ。」「分かる。」

「ご飯作り今日無理。」「おつかれおつかれ。」


それぞれ自室に戻って行った。こんな日もあるのだった。

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