ナオの涙
「……。」眩しさと鳥の声で目が覚めた。
ナオは寝ぼけながらも、レベルをチェックした。
「……レベル100。ジョブは格闘家【蒼炎】」
寝返りを打って、ナオは二度寝した。
「昨日ダンジョンに行ってレベル上がりました……」
「なんかテンション低いな?レベルいくつになった?」
ナオは無言でステータスを見せる。
「おわっ!?100!早すぎるけどおめでとう……って二つ名ついてる!!ちょっと、アラン!マハトー!リシェル!ナオがやばい!」
全員でのぞきこむ。「【蒼炎】のナオかぁ~。かっこいいなぁ。」「ジョブが格闘家に決まって良かったわね。前は色々変わってたし。あれ?ナオのネックレス可愛いね!ティアドロップのアクアマリンかな?キラキラしてる〜!綺麗~!」
「……マハトさんに買ってもらいました。ダンジョンもマハトさんに連れて行ってもらいましたし。」ナオはムスッとしている。
「マハトが!?」「お詫び」「お詫びの品ちょっとおかしくないか!?」
「ナオが不機嫌」
「ちょっと色々追いついていなくて!頭がこんがらがっているだけです!……えっと、私はトライデントフォースのパーティメンバーになれました?」「え?今更?」「あのローブを一度でも着たら、キミはどんな過酷な依頼からも逃げられないのだよ……ふっふっふ。」アランさんがニヤニヤしてる。
「死ぬほど大変な時もあるけど頑張ろう!」
「……ドンマイ。」ジュードさんに肩をポンと叩かれる。
「……という訳で、頭も色々混乱してるんです~!」
「確かに、前回とは比べ物にならんのぅ。」
「予期せぬ事態に弱いんです!混乱するしパニックになるし……。」「その割には冷静に見えるんじゃが」「開き直って半ばヤケなんです!」ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ!
双方、攻撃を出しているし受けているし、パリしているのだが、速すぎて当人同士にしか見えていない。
「そういえば月謝が高すぎじゃぞ!18スベインはどこから出てきた?」「お月謝8スベインくらいに、入会金の10スベインで……」「入会金ってなんじゃ。聞いたことないぞ」「入会金が無いんですか?じゃあ、お月謝に回してください。はあ~キックボクシングがこんなにストレス解消になるとは思わなくて」「これキックボクシングなのか!?」ぺぺぺぺぺぺぺぺぺぺ!
「そもそもわしは何を教えればいいんじゃ?二つ名持ちに教える事など無さそうなんじゃが!」「まぁ、そんな冷たいこと言わずに。こうやってスパーリングしてもらえるだけでもかなりありがたいんです!」ぺぺぺぺぺぺぺぺぺン!
「全く、体が持たん。じじいをこき使いおって。あとはせがれとやれ!」先生を見ると、そっと目を逸らされた。
冒険者ギルドに行くと、「お、お嬢ちゃん、トライデントフォースの……」「あ!おじさん。こんにちは!」
「あの、【蒼炎】のナオっていう格闘家ジョブの女の子がトライデントフォースにいるって聞いたんだけど、あれ、まさか嬢ちゃん?」
「そうです!あ、私、この教室に通っている生徒なのですが、格闘技に興味があればぜひ!」
渡された格闘技教室のチラシを言葉もなく見つめていると、「ちょっと見せろ!」「おいやめろ、破れる!」「俺にも見せろよ!」とあっという間に無くなった。
「本物だった……。」というトライデントフォースのファンのおじさんはぼーっとしている。
「ミレーさん、こんにちは!」
「ナオちゃん!なんだか久しぶりに会ったような気がするわ。元気にしてた?」
「ここ最近、色々あって……」
ナオは近況を話した。パーティメンバーとダンジョンに行ったこと、もう一度連れて行ってもらい、レベルが100になったこと。二つ名がついたこと。格闘技を習い始めたこと。
初めは明るく聞いていたミレーだが、ナオの表情を見て不安になった。
悩み事でもあるのかしら……。深く聞いてもいいものかしら。
「ナオちゃん、本当に頑張ったわね。おめでとう。でもあまり無理はしないでね。いつでもギルドに顔を出しておしゃべりしに来て。じゃないと、お姉さんが寂しいから。」
ナオは「ありがとうございます!」と言うと、元気そうに帰って行った。
ミレーは「……これで良かったのかしら。」と頬に手を当て、しばらく悩んだ。
家に帰ると、「おかえり〜!」と言われて、ナオはホッとした。言われる度にホッとする言葉だと思う。
来て来て!とリシェルさんがナオを引っ張ってキッチンのテーブルに案内すると「……びっくりした?」とナオの顔を覗き込む。ご馳走の山だ。真ん中にある大きな長方形のケーキには、ナオ レベル100 おめでとう、とチョコの上にアイシングで書かれている。縁はフルーツで飾られていて、すごく可愛い。
「……ナオ?どうしたの?……泣いてるの?」「あ、ありがとうございます、すみません、なんだろう、涙が止まらなくて……。」リシェルさんが抱きしめてくれて、ずっと背中をトントンと優しく叩いてくれたけど、
私の涙はなかなか止まらなかった。
「ど、どーすんだよ!アラン!ナオが泣いちまったじゃねぇか!」
「いやちょっと俺にも心当たりがなくて……」
「泣かせた」
「マハト!賢人マハト!知恵を出せ!泣き止ますんだよ!」
「涙は無理に止めない方がいい。泣かないと話せない人もいる」
「マハトお前、なにかしただろ……」
「僕は何もしてない」
「ウソつけ!この間のネックレス、お揃いのイヤリングまであったじゃねぇか!」「お詫びだって。高くもなかったし、会計の時にお揃いの商品を見せられたからついでに買っただけ。」「念の為に聞くが、値段は?」「金貨一枚。2つで」
安いだろ?という顔をしたマハトを見て、アランとジュードが額に手を当ててため息をつく。
「ナオはこの間までラス生活だったんだぞ。ダンジョンの報酬のたったの8000スベインを前に呆然としていた。俺たちの感覚で接するとナオには負担かもしれない。」
「……思い至らなかった。だから不機嫌だったのかな」
「それに、ナオは異世界から来たのに、全く帰りたがってる様子が見えない。ちょっと変じゃないか?家族に会いたいとか、友達に会いたいとか、少しはあるだろ。」ジュードは腕を組む。「それに、突然レベルが上がって、色々ステータスが変わっただろう。急に視力が上がったり……慣れるには時間がかかるんじゃないか。」「レベル3と100じゃ全然見える世界も違うもんな 」「急激に上げすぎ」「お前が言うな!マハト!」
「今はできることは無いよ。ナオが話し出すまで待とう。それまでは普通に接しよう。……僕はそれが1番だと思う。」
「しかしやっちまったなー。俺たち、ナオの部屋をさ……」
3人で一斉にため息をついた。
「可愛い家具でいっぱいにしちまった……。」
リシェルが「おーい、みんなケーキ食べるよー!」と呼んだので、「今行くー!」アランが答えて、言う。「いつも通りに接するぞ。いいな。」
アランさん、ジュードさん、マハトさんが来て、席に着いた。「おー美味そー!!」「まだ食うなよ?」「ケーキ大きい」
リシェルが「ナオ、レベル100おめでとう!頑張ったわね!」と言うと「ナオおめでとう。俺らは結構こういうお祝いするから、慣れてね。」「ステーキじゃない日だわ。幸せ……。」「……リシェルは今後、ステーキ無しな。サラダだけ。」「ごめんなさいごめんなさい、ステーキ要ります!ジュード様!」
リシェルがあからさまに媚びたのでみんな大笑いして、からかった。
「ケーキどう切るの?」「縦に5等分か?」「これ大きくない?」「ちょっと待て、集中してる。」「お腹減った」
ナオが泣き笑いしながら「こういうお祝いしてもらうの、初めてで。」と言ったので、「よし、3日くらいやるか!」「家でなら酒飲んでもいいぞ!」「3日は飽きる」
「ナオ、これからもたくさん、いいことがある度にお祝いしましょ!」グラスを上げて、「ナオに乾杯!」と言うと、みんな復唱して、一斉に飲み干した。
「ナーオ!酔って気持ちよく寝てるとこ悪いんだけど、これ、私たちからのプレゼントなの。気に入ってくれるといいんだけど……」
男性陣に緊張が走る。
ナオはリシェルに手を引かれて、自室のドア前に連れていかれた。
「開けてみて!あ!勝手に部屋に入ってごめんね!ナオの部屋、ソファーしかないから……」
ナオがドアを開けると、ソファー1つしか置いていなかった部屋に、小花柄の可愛いベッド、お揃いのサイドテーブル、テーブルランプ、デスク、クロゼット、ベッドには大きなクマのぬいぐるみ……
明るい色のカーテンがかけられていた。
「ナオにピッタリだと思って……あ、泣いちゃった……」
「ナ、ナオ!泣くな!酒飲むか?俺の秘蔵の……」
「ぼ、僕今度ナオの服選ぶよ」
「気に入らなかった!?すまん!可愛いのが似合うかなと思ってだな!」
ナオはまだ泣きながら、「すっごく可愛い、ありがとう。お姫様みたい。」と今日1番の笑顔を見せてくれた。
……その後ナオは全員に代わるがわるお姫様抱っこをされて、リシェルにまで持ち上げられ、たくさん笑った。
「……寝たわね」
「良かったな、とりあえず」
「僕は寿命が縮んだかも」
「……俺も」
「これからもたくさん、こういう楽しいことはして行きましょ!」
みんな頷いた。