マハトとナオ
「ナオ、ちょっときて」
珍しくマハトさんに呼び止められた。
上から下まで、じっと見られる。なんだか診察でも受けてるみたい。
「魔力が使えるようになってる。いつから」
……いつからと言われても。
「今日初めて使いました。」と言うと怖い顔で外に連れ出された。
郊外にある森にて。
「やってみて」
そんないきなり……。
集中して、空手の呼吸をする。
心が静かになり、感覚はより鋭敏に、頭はすっきり冴えて……。師匠の纏う闘気を思い出す。
自分のイメージする闘気は……
激しさを静けさが包む炎。
静かに構えをとると、手だけじゃなく、身体中から青い炎が揺らめく。
「こんな感じなんですが……」
「……強化と防御、他の全ステータスが上がってる」
「え!?」
「魔素も取り入れることが出来てる。いつから」
「よく分からないのですが、レベルが57になったくらいから何もかも変わった感じがして……」
「解いて」と言われ、大人しく解いた。
「街中で使わないで」と言われて少し落ち込んだ。
次の日。
「ナオ。これ着て。」装備を渡される。
「ダンジョン行く。僕がキャリーする」
「今からですか?」
「はやくして」
「凄い可愛いデザインで……」
「行くよ」
ストレッチだけはさせてくれたのでありがたかった。
「雑魚は無視」
と言ってズンズン進んでいく。
最初のボス部屋の扉前で
「倒して」
と言われた。
はあ??
大きなオークが現われる。
マハトさんを見るけど、だるそうに柱に寄りかかっている。
オークは私の方に向かってくる!
やるしかない、自分で……
静かな炎……
闘気を練るということ……
闘う事……
闘う……
ス……と構えて、いつも通りの技を出した。
普通の、右ストレート。
ボッ!!という音と共に、オークの胸に穴が空いて、そのまま後ろに倒れた。
「一撃か。凄まじいな。」
私をまた上から下まで見て「問題ない。行くぞ」
ボスだけを私1人で倒していく。
なんだか訳が分からなくてモヤモヤする。
「今は何も考えるな。やれ」
考えまで読まれているような気になってくる。
モヤモヤと、突然連れ出された驚きと、状況が分からない苛立ちが募る。
「不安定になるな。呼吸を整えろ。……そうだ。お前は分かっているはずだ。心に乱れがあれば、技も乱れる。気も乱れる。行けるな。お前は、Trident forceの、ナオだ。」
最後のボスの部屋を開く。
大きなヤギのような角。「ダンジョンボスは初めて見ました。」
「良かったな。」「前回は瞬殺されていて見えませんでした。」「ははっ。」マハトさんが笑った……!
「ナオ、やれ」
右手に全ての気を集めて……打ち抜いた。
「ナオ、ドロップ品みて」
「服?」
「それ装備」
「帰るよ。」
マハトさんの後について、地上への階段を上る。
「罠の臭いを嗅いで」
「鉄臭さを感じたら止まって」
無言で歩く。
嗅ぐ。
「なんか臭いです。」「居るな。」
フロアごと焼き尽くす。
「本当に骨も残らなそうですね」
「当たり前だ」
しばらく歩くと、鉄と嫌な臭いがした。
「鉄と嫌な臭いがします」「同じ場所からか」「そうです」
「どこか分かるか」「こっちです……これです」「壊せ」
ボッ!!
ガシャンッ
「それでいい」
無言で歩く。
マハトがポツリと言う。
「ダンジョンを出たら話がある」
「分かりました」
その後も罠の臭いを嗅いで、モンスターの臭いを嗅いで、
全て壊し、マハトさんの炎でフロアごと焼いた。
「怖いか」「怖くないです」「恐怖心は捨てるな。恐怖心がお前を慎重に、鋭敏にさせる。」
「行きに手を抜いたせいで多いな。やってみろ。」
脳内で全てのモンスターが破裂するイメージを強く持つ。
ゴッ!!
「……まだいます?」
「居ない。殺気があるか」
「……ないです」
「行くぞ」
「罠です」「壊せ」
ボッ!!
ガシャン……。
「敵です」「やれ」
ゴッ!!!
「……いません。」
「だろうな。」
無言でダンジョンの外に出た。
いつの間にか夕闇に包まれていた。
「あー疲れた」
マハトさんがいつものような口調に戻っているのに気がついた。マハトさんも1人で気を張り巡らせてくれてたのかな。
「ごはん奢って」
「え!?」
…………気まずい。
マハトさんはハンバーグ定食を綺麗に食べている。
私は喉に詰まりそうだ。
「あの、そのピアスって何か効果があるんですか?」
「ない」
意外……オシャレなのかなと思って見ていたら
「魔力がないだろ」と渡してきた。
「マハトさんの魔力しかないですね。…えっ」
手の中のグリーンのピアスが光った。
「光らすな」
「なにもしてないです!」
「……石とナオの相性がいいのかも」
「まだなんだかキラキラしてますね、少し」
「話があるんだけど」
そういえばそんな事言ってたような。
「この間、熱を出した時、ナオは死にかけた。」
「え?そうなんですか?」
「ナオは魔素を身体に取り込めなくて、魔力が足りなくなった。」
「意味がよく分からないんですけど……」
「この世界では魔素を身体に取り込んで魔力として循環させる。ナオはこの世界の人間じゃなかったから、それが出来なかった。」
「気付けなくて悪かった。」
私がこの世界の人間じゃないって知ってたんだ……。
「これからは少しでも身体に変調を来たしたら僕に言って。特に魔力を使った後」
夜の街を歩いて帰る。
「その装備、もうレベルが合ってないから捨てていい」
「いやです!可愛い服が少ないんです!」
「買えば」
「どれが似合うのかよく分からないので諦めました……」
「アクセサリーとかいいんじゃない。まだ店開いてる」
「……高級感溢れ出てるんですが」
「似合うアクセサリー見せて」
「彼女さんにプレゼントですか?」
「見せて」
「は、はい。かしこまりました……。」
「どれ」
「どれって何……」
「欲しいやつ」
「値札見えてる!?手が震えそう!!足も震えそう!!」
「触って光ったやつにすれば」
「無理!!!無理でしょ!意味が分からん!!」
「コレいいかも」
「……光った。」
「連れがうるさいから裏で会計してもらえる?」
「つけないの」
「無理。イヤリング落としたら死ぬ。冗談はダンジョンだけにして」
「こっちなら落ちない」
「いつネックレス買ったの!?」
「会計の時」
「……手が震えて無理」
マハトが器用にネックレスをつける。
「まだ足がガクガクする。マハトのバカ。やな奴。」
「ははっ」