Trident forceというパーティ
突然手に入った莫大なお金とダンジョンで気疲れし、今日はブラブラと冒険者ギルドに来てみた。
依頼が貼ってある大きなボードも、離れて見れば文字まではっきり見える。
……視力向上だとか、足が速くなったとか、こういう人間離れした能力が突然ついたことも、ナオの気疲れの一因だ。脳が処理できていない。気持ちがついていかない。
依頼を見ている振りをしながらボーッと無心になっていたら、「嬢ちゃん、あんた、トライデントフォースのパーティにいた子だよな?」と見知らぬ冒険者に声を掛けられた。
冒険者ギルドにはテーブルと椅子が並んでいて、よくそこで他のパーティが作戦会議をしていたりする。
とりあえず呼ばれたので丸テーブルに座る。
「単刀直入に聞くけど、どうやって加入できたんだ?……え!?宿代が無くて居候!?ガハハハ!!」
なんだかリアクションを返す元気がないナオである。
「嬢ちゃんレベルはいくつなんだ?」
なんとなくステータスを見せたくない気分なので、57ですと答える。
「ごじゅうななぁ!?」
周りに丸聞こえなんだけど突っ込む気力が起きない。
「こんな小さな嬢ちゃんが……さすが伝説級のパーティだぜ。」
ん?今なんか言ったなこの人。
「トライデントフォースは伝説級のパーティなんですか?」
今度は逆に、ハア?みたいな、信じられないものを見るような目で見られる。
「トライデントフォースのメンバーは、ヒーローみたいなもんよ。」
「【天秤】のアラン、【慈愛】のリシェル、【絶影】のジュード、【獄炎】と【賢人】のマハト……くぅ~!二つ名がつくなんてかっこいいじゃねぇか!二つ名はな…誰かが付けるんじゃねぇ。勝手に付くんだ。神様が付けたに違いねぇ。…嬢ちゃん聞いてる!?この大陸でもかなり稀な4人が揃うべくして揃ったのが、トライデントフォースな訳よ!」
トライデントフォースのファンのおじさんは、この調子で延々と熱く語り続けたので、ナオはぐったり疲れた。
「あのお揃いのローブを着る時、奴らは本気だってことだ。ダンジョンには骨さえ残りゃしねぇ。」
ナオは素朴な疑問が浮かんで、つい口を挟んでしまった。
「あの……でも、言うほど華麗な戦闘にも見えなかった気がしたのですが」
「……そこに気付くとは流石だな嬢ちゃん……。」おじさんは顎をさすりながらナオにニヤリとしてみせる。
「トライデントフォースは超一流のパーティなのさ。俺も1度だけ合同でパーティを組んで参加したことがある。ジュードの索敵は、トラップの有無、敵の人数の把握……俺もスカウトには詳しくねえが、集中力と結構な量の魔力が必要なはずだ。」
「それなのに、全フロアやるんだ、1階1階、しかも帰りもな!」
いちいち自慢げな顔をしてくるおじさん……
「ダンジョンボスを倒したら、大抵のやつは気が抜ける。
魔力も尽きてるし、疲れてる。談笑しながら帰る途中に、来る時には無かったトラップにはまって大ケガしたりするもんだ。冒険者にはケガがつきものだろ。」
「嬢ちゃんはダンジョンでケガしたか?してねえだろ。くぅ~!かっこいい~!!どんなに弱い奴がいても、かすり傷ひとつなく帰ってくるんだぜ。」
それは言われてみると確かに……。
「強い奴らもたくさんいるし、華麗な戦闘とやらをするパーティもあるな。でも、そんなのは見せかけだ。
トライデントフォースは常に冷静に戦況を見て、無駄なくコンパクトに動くから、派手なパフォーマンスはない。ただ、怪我人もいなけりゃモンスターも全滅。そこで皆気づく訳だ。」
おじさんは鼻息荒く言い放った。
「普通の一流じゃない、超一流のクールな連中だってことに!」
やっと解放してもらえたナオは、ギルドの受付でこの間買えなかった世界地図を5ラスで買い、再びぼんやりした。少しおじさん疲れした。
そうなのかぁ。みんな凄いんだな。トライデントフォースのトライデントが、歯磨き粉みたいとか思って申し訳なかった……。そしてポセイドンと三又の槍?のデザインが暴走族の特攻服みたいとか思って申し訳なかった……。
依頼ボードの横に、小さなボードがあり、ちらっと見たらナオは一気に元気が出た。
「格闘技教室、生徒募集中」
明らかに貼る場所を間違えているチラシが、ナオを呼んでいるような気がした。