第三章「縁側」
目が覚めると外はまだ夕暮れで赤く焼けた空が少し明るく照らしています。近くの山から食いしん坊な雲が伸びて遠い街まで続いている空を食べていく。独りでいた時の心の寂しさを癒やすように暖かい布団が抱き締めた。風に乗ったいい匂いが運ばれて鼻が無意識に匂いを辿る。
永遠と続くかのようなこの廊下は「あいこ」を心細くした。痣だらけ瘡蓋だらけの足で歩く廊下。この心の行き場所を知らない。厠で出すのか、口から吐くのか、川に流すのか。彷徨う心と足は小さい、こんなにも世界は広いのに。
流れるまま、食堂に着いた。住職が食事の準備をしている。
「食事の準備にはまだ掛かるから先にお風呂を入って来なさい」
そう言われお風呂に入る。綺麗になった「あいこ」は穴が空いていない服を着る。食事が出来上がり、住職が呼びに来た。滑らかな木の机の上に食器が並べられている。あいこが普段、食べている物よりも色鮮やかで艶々のご飯が特に一番、美味しく感じられた。噛めば噛むほど甘みが出て、白い雲のような見た目で想像がつかないほど美味しかった。
食べ終えて、腹がぽっこりと膨らんで小さい山が出来ている。すっかり夜になり、空が黒く闇に覆われてる。縁側に座り、外を眺める。草木が天に向かい、うねりとうねりと撫でる夜風に当たり、心地良くまたうねりとうねりと声を出す。
このなんとも言えない感情が育つのが不思議で何に例えるのが正解かと考えるが別に考えなくても良いと結論に至った。
時間というのは残酷であっという間に過ぎていく。寺に来たのは|火曜日、気づいたら一週間経っていた。「あいこ」は住職と共に過ごし、学び、寺に来る子供達と良く遊んだ。言葉は少し話せるようになったのは住職のお陰である。幸せというのはこの事を言うのだろう。毎日、ご飯を食べお風呂に入って暖かい布団で一日を終える。そんな日が続くと思っていた。
寺に来て七日目、月曜日の朝。目覚めると住職が急いだ様子で「あいこ」に駆け寄る。
「隠れていなさい」
そう言われてから「あいこ」は押し入れに隠れる。「鬼の子はどこだ」と言う群れの声。
住職は鬼の子はここには居ませんと言った。しかし、住職を押し退け、寺に入る。たくさんの足音が寺の中を走り、戸が次々に開けられていく。
住職は願う、見つかるな、見つかるなと。
彼ほど優しくて信心深い者を知らない。
得体の知れない「あいこ」に食べ物を与えてくれたこと。優しくて肩を摩ってくれたこと。学ぶことの楽しさを教えてくれたこと。今でも覚えている。
「あいこ」は目を瞑り、居なくなれ、居なくなれと願う。けれども絶えない足音、心音と呼応する。ガラッと「あいこ」がいる部屋に入って、右往左往をする足。一度止まり外へ戻って行った。声が漏れ、安堵するこの心。
だがしかし、その刹那。襖が開けられ「あいこ」は見つかってしまう。
「居たぞ!」耳を突くをほど大きい声に身体が震える。腕を引っ張られ、髪を引っ張られ、身動きが出来ない。巨大な牛の様な男に外に引き摺られる。その男が群れの中に向かい、目を離した瞬間、手からすり抜け「あいこ」は風のように駆ける。
怒声が後ろについて煽り、長い階段を下っていく。蛇遣寺の左、お地蔵様の方へ走る。土を踏み、石を踏み血に染まる足裏。
橋を渡ると朱色の足がベッタリとついた。
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小説や物語を書くことが人生であまり無い為、下手な文章が目立つかもしれません。何度か繰り返し推敲したので思い出が詰まった作品です。
第四章で完結しますので、次も見てください!
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