プロローグ
形あるものはいずれ滅ぶ。
それがどんなものであれ、『形』があるならば、それは絶対の原則だ。
壊れないものなんてない。
例えどれだけ大きかろうと、どれだけ栄えようと。
滅びから逃れることはできない。
それは絶対的で、自然的なもの。
だから受け入れることはできる……だが。
もしそれが、人の手によってもたらされたものだとすれば。
果たして、受け入れることができるのだろうか。
「はぁ……はぁ……」
頭から血を垂れ流し、今にも崩れ落ちそうな足をなんとか踏ん張らせて歩く。
呼吸は荒いが炎で起こった煙を吸わないように最低限。
そして決して右手に握る剣を離さないように。
ふと横目で窓を見れば、下に広がる街並みは完全に燃え上がり、逃げ惑う人々の姿が小さく見える。
今俺のいる城よりも酷いことになっているのは間違いないようだ。
「……くそっ、たれがっ……!」
暴言を吐き捨て、必死になって歩みを進める。
向かう先は玉座……この阿鼻叫喚の地獄の中心点だ。
そのことの発端は……今までこの国に仕えていた一人の男の反逆。
突然奴が王妃を……母を殺したことが全ての発端だった。
当然、捕縛されるはずだったんだ。
なのに、だと言うのに。
奴は襲いかかってくる兵士たちを、一瞬で消し炭へと変えた。
あっという間だった。
反応をする間も無く、一瞬で。
近くで見ていた俺も、止めるべく剣を取ったのだが、光が周囲を包んだ……かと思った途端にこれだ。
俺は城の端っこで壁にもたれかかって倒れてて、町は炎に包まれて、城では絶叫が響き渡る。
まさに地獄。
「おや。これは第三皇子のジーク殿」
俺が部屋に立ち入るなり、すぐさま声が聞こえて玉座を見る。
するとそこに、奴はいた。
傲慢そうな顔つきで父を、王を、足に置き。
「お、まえぇッ……!!」
「よくぞまぁ、生きてましたな。遺産の力を受けて、あの場にいた人間は全員死んだものと」
「ころ、すッ……! ころしてやるッ……!!」
剣を手に、震える足で走り出す。
そしてその足で玉座に向かって飛び上がると、握っていた剣を全力で振り上げた。
文字通り、全身全霊を叩き込んでやった。
だが振り上げられた剣が届くことはない。
奴は素手で、俺の全身全霊を受け止めていたからだ。
「なっ……!!」
「ふむ、この程度か……ふ、はははッ!!!」
笑い出した奴が腕を振るって、俺ごと剣を吹き飛ばす。
壁に叩きつけられた俺の意識は遂に絶え絶えに。
「実に素晴らしい力だ!! この力があればこの大陸を……いや、この世界を!! 私は!! 支配できる!!」
そう言って父を踏み立ち上がる。
右手を上に掲げ、何かを叫び始めるが、俺の耳には届かない。
既に意識が途絶えかけていたからだ。
(あ……これ死ぬ。マジ死ぬ。間違いなく死ぬ……)
そんな意識の中でも、そんなことを考える余裕はあったわけで。
俺は落ち行く意識の中、憎き仇へと視線を移す。
奴は手から光を放ち、ただ空へと掲げていた。
と、同時に建物が崩れ始める。
俺は意識が落ちそうな中でも、奴を止めるべく手を伸ばした。
だが、その瞬間に上から落ちてきた瓦礫によって、あっけなく潰されてしまったのだった。
そうして俺はあっけなく死んでしまった。
……ここで、一番最初の質問の話に戻るが。
なにもかも他人の手によって壊される?
俺は受け入れられないね。
国も、人生も、なにもかも破壊されて。
それで許せ、などと。
馬鹿げているじゃないか。
だが死人に口なし。
死んでしまった人間にはもう、それ以上、なにもすることはないし、できることはない。
……まぁ、普通ならば、の話だが
「……マジかよ」
どうやら俺は普通じゃなかったようで。
あの惨劇から、何年経ったかわからないが。
俺は城の跡地で、花が咲く瓦礫の下で、ただ一人、アンデットとして生き返ったのだった。