九話 決戦
九話 決戦
一階から地下への階段を降りた一行は、そこで地下のフロアを見渡す。このフロアは駐車場に使用されていたようで、今は広い空間が広がっていた。そして、フロアを横断するように深い亀裂がはしっている。
「ここで間違いないな 拳勝、お前たちはここにいろ 」
銃鬼がそう言い、裂姫と駐車場の奥へ向かおうとした時、その奥から大きな断末魔と思える絶叫が聞こえてきた。銃鬼と裂姫が身構える。
「おやおや もう来てしまいましたか 早過ぎですね まだ準備が整っていないというのに…… 」
駐車場の奥から聞いた事のある声が響いてきた。
「仕方ありません 少し強引ですが、始めましょうかね 」
一同が声のする方へ向かってみると、そこには巨大な禍獣が首を刎ねられて横たわっていた。
「これは禍獣ペルケレ…… こんな大物が 一体誰に? 」
「ペルケレ? なんなの? 」
裂姫の疑問に拳勝が答える。
「ペルケレは古代の悪魔の一人です 雷神トールと並ぶ実力の禍獣で、僕ではおそらく傷をつける事も出来ないと思う その強力な禍獣をいったい誰が…… 」
「ふうん そうなの 」
のんびりと答えた裂姫が、突然”白菊”を抜き紅葉の前に立っていた。
「えっ なにっ 」
紅葉も拳勝も何が起きたのかまるで解らなかった。それまで列の先頭にいた裂姫が、紅葉の前で戦闘態勢をとっている。
「まったく 首を刎ねるつもりでしたが、防がれるとはね 」
暗闇から姿を現したのはフールフールだった。
「モミジを狙ったの 許さないの 」
「その気のなってくれたのなら 結果オーライですかね しかし、もっと強い憎悪が必要かと推察します 」
フールフールは冷たい笑みを浮かべると、また紅葉に向かって刺すような視線を向ける。
「私、狙われてるの? 」
紅葉がナイフを持って身構え、拳勝も紅葉を守るため拳を上げて構えた。そして、裂姫が先手をとるようにフールフールに斬りかかっていったが、そのフールフールの姿が忽然と消える。次の瞬間、銃鬼がデザートホークの銃爪を引いていた。
銃鬼が何もない空間に銃を撃ったように、拳勝と紅葉には見えたが、フールフールは憎々しげに言葉を吐く。
「今度はそちらの男ですか まったく、この二人と離れていればわけなく首を刎ねられたものを 」
紅葉はゾッとした。もしあの時残ると言わず一人で帰っていたら殺されていた。
「さすがに私も二人相手ではしんどいですね ペルケレ、来なさい 」
フールフールは悪魔の名を呼んだ。すると、首を斬られて倒れていた悪魔が起き上がり歩いてくる。斬られた首も元通りに戻っていた。
「私は自分で倒した禍獣を使役することができます あなたたちの相手は彼に頼むとしましょう 」
ペルケレが拳勝たちに迫ってくる。拳勝は紅葉を庇い前に立つが、銃鬼がさらにその前に立ち、ペルケレの前に立ち塞がった。そして、ペルケレに向かってデザートホークの銃爪を引く。
拳勝には銃声は一回しか聞こえなかったが、ペルケレは五十口径のマグナム弾を何発も浴び手足は吹っ飛び、頭も首だけ残し消滅していた。ペルケレを瞬殺した銃鬼に拳勝は今更ながら畏怖の念を抱く。一瞬のうちに一体何発撃ったのか……。
「拳勝、紅葉 俺から離れるな 奴は時間を止める 」
「時間を止める? 」
そんな奴を相手にどうするんだ。拳勝も紅葉も心底恐怖を感じた。
「あの程度の悪魔では何の役にも立ちませんか それに私の超技能も見抜いていたとは恐ろしいお方だ 」
ペルケレが瞬殺されてもフールフールは余裕の態度だった。
「なんで、モミジを狙うの? 」
フールフールはニヤリと笑う。
「あの娘を殺せば、お嬢ちゃんは本気になってくれるでしょう お嬢ちゃんの為ですよ 」
「そんな事でモミジを殺すと云うの 許さないの 」
裂姫はフールフールに斬りかかる。が、またフールフールの姿が消え少し離れた場所に姿を現す。しかし、裂姫はすぐに反応し現れたフールフールに斬りかかったが、その裂姫が吹き飛ばされコンクリートの床を転がった。
「裂姫ちゃんっ 」
紅葉が悲鳴を上げるが、裂姫は数回床を転がった後すっと立ち上がる。
「拳勝 わかるか 」
銃鬼の問いに拳勝は首を振る。
「フールフールは裂姫の攻撃を受ける前に時間を止めて移動した それで消えたように見えたわけだ だが裂姫は素早く反応して攻撃した そこでフールフールは今度は時間を止めて移動せずに裂姫に攻撃を加えた それで裂姫が吹き飛ばされたわけだ 」
「そんな奴にどうやって勝つと云うんですか 」
「いいか、拳勝 時間を止めると云ってもそれは一瞬だ 永遠に止められるわけではない それに相手は人間だ これだけの超技能を使うとなれば自分の体にかかるリスクも大きいだろう 」
でも時間を止められた一瞬で、あのゴブリンみたいに首を刎ねられたら……。拳勝は銃鬼がそれに気付かないわけがないのに何故あんなに冷静でいられるんだろうと疑問に思ったが口には出さなかった。それは、もしかすると二人の素性にも関係があるのではと思った。