八話 地下へ
八話 地下へ
「あれは冗談のつもりなのか? 」
「多分ね…… 試しに泣き叫んでみたら 」
拳勝と紅葉は話しながらも、手は休まず動かしお宝をバックに詰めていた。お宝を詰める紅葉の顔は嬉しそうで、それを見ていると拳勝も嬉しくなる。銃鬼と裂姫は先にこのフロアの禍獣を倒していった為、二人は安心してお宝を手にする事が出来たのだった。
「なあ、あの二人って何者なんだ? 僕たちを守ってくれているように感じるけど全く素性が分からない 」
「そんなのどうでもいいじゃない 私にとって害が無くて利益に成ればいいわよ 」
拳勝の疑問に、紅葉は興味ないと答える。もちろん紅葉も気にならない訳ではなかったが今は自分の事だけで精一杯だった。
三階のお宝をほぼ詰め終わった頃、銃鬼と裂姫が戻ってきた。ここから上のフロアにはそれほど多くの禍獣はいなかったそうだ。どうやら、ここから下の階にかたまっているようだ。
* * *
三階から二階に降りた一行は紅葉の希望で時計店へ向かう。ゆっくりと周りに注意を払いながら進んで行くと禍獣の集団に出会った。ゴブリンが五体にガーゴイルが三体。それにファーヴニルが一体だ。拳勝が紅葉を自分の後ろに庇い拳を握る。その姿を横目で見た銃鬼は微笑んだ。
「裂姫 行け 」
銃鬼に言われる前に裂姫は一人で禍獣の集団の中に歩いて行く。そして、集団の中を普通に歩いて通り抜けたように見えた。そして、裂姫はそのまま歩いて帰ってきた。
「???…… 」
拳勝が裂姫は何をしてるのか疑問に思った時、禍獣の集団が血飛沫を上げ、首が腕が足が胴がばらばらと転がった。
何が起こったのか、またも拳勝は分からなかった。裂姫が禍獣を倒したという事は理解できるが、カタナも抜いていない状態でどうやって……。
「どうだ 見えたか、拳勝 さっきのフールフールという老人と云い まったく神業といえるな 俺には無理だ 」
「でも 見えたんですよね 僕には見る事も出来なかった 」
銃鬼は、まあ落ち込むなと拳勝の肩を叩く。紅葉はそんな事よりも、お宝とばかりに高級腕時計を手当たり次第にバックパックに詰めていた。
「拳勝 機械式の腕時計を優先的に詰めてね この精密な仕組みが人気あるのよ 」
そして、拳勝も早く詰めなさいと急かしてきた。その横で、銃鬼と裂姫がまた二人で小声で話していた。
「どうなの 」
「これなら このままでも行けるかもな 」
「そうなの 」
裂姫が嬉しそうに答えた。その様子を、柱の陰から先程の老紳士フールフールが見つめていた。
・・・ふむ あの二人 利用する価値はありそうですな それにしても、あのお穣ちゃん素晴らしい動きだ しかもまだ全力ではないようです・・・
フールフールは銃鬼と裂姫、二人を見つめながら思案する。そして、また同じように唇の端を上げゆがんだ笑みを浮かべた。
・・・一度、その底を確認しておいた方がいいですね その為には、一人に死んでもらいましょうか ・・・
お宝を詰め込んでいる拳勝と紅葉に目を向けフールフールは、人差し指で二人を指す。そして、ふふっと小さく笑うと交互に指を動かした。
「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り 」
指は、紅葉を指したまま止まった。
・・・それでは、地下で準備を整えておきますので お待ちしていますよ ・・・
フールフールは柱を離れると、ステッキを振りながらひょこひょこと歩き出し闇の中に消えていった。
「これから、地下へ向う 拳勝、紅葉、お前たちの用事はもう済んだんだろう、もう帰れ 」
銃鬼が、二人に向って言う。裂姫も、一階の入って来た入り口をピッと指差すと、帰るのと言った。
「そんな 僕は行きますよ 紅葉、君は帰れ この辺にはもう禍獣はいないだろうから、バイクで禍対委に行って待っててくれ 」
お宝を確保したら逃げ出す考えだった紅葉には、願ってもない提案だったが、何故か心に引っかかるものがあった。
「いや…… 」
「えっ 」
「いやって言ってるの 一人で心配して待つのは嫌なの 」
「どんな危険があるのか、分からないんだぞ 」
拳勝の言葉に紅葉は、両手に軍用ナイフを持つ。
「自分の身は自分で守る 」
こうなると紅葉は頑固できかない事を拳勝は分かっていた。出来るだけ自分、いや、銃鬼と裂姫から紅葉が離れないよう気を付けなければいけないと拳勝は思った。
「モミジ かっこいいの 」
裂姫が、紅葉を見て手を叩く。銃鬼は、やれやれという顔をしていた。紅葉のこの決断がこの後どんな結果をもたらすのか、この時の拳勝たちには知る由もなかった。