表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/35

七話 ゲーデ教団のフールフール


 七話 ゲーデ教団のフールフール



 カタナを構えた裂姫と銃を構えた銃鬼の後ろから、拳勝と紅葉は周囲に注意を向けながら慎重に進んでいた。

 地下の深淵に向かう前に三階まで行ってくれないかと云う拳勝たちの頼みを銃鬼と裂姫は二つ返事で了承する。自分たちは禍獣を殲滅するのが使命だ、当然このビル内に巣くう禍獣は全て始末するつもりなので問題ないという事だった。前にも銃鬼が言った”使命”という言葉が拳勝は気になった。一体誰に、あるいはどんな組織にその使命を与えられたのか……。しかし、それは彼らに聞かなければ、考えても分からない事だ、拳勝は今はこのビル内の敵に集中する事にした。


 三階までは禍獣と遭遇せずに来る事が出来たが、周囲の空気のざわめきが多くなる。禍獣が集まり集中攻撃を仕掛けてくる前兆なのではと拳勝と紅葉は緊張する。


「裂姫ちゃん あっちの貴金属売り場に行ってもらっていい 」


 紅葉が裂姫に手を合わせてお願いする。裂姫はニコッと笑うとカタナを構えたまま貴金属売り場に足を向ける。すると、売り場の前に立っている人影が見えた。拳勝と紅葉はドキッと息を飲む。こんなところに人間が……。銃鬼と裂姫は普通にその人影に近付いていく。そこに居たのはやはり人間だった。燕尾服にシルクハットという正装に黒いステッキを持っている。一見、穏やかな老紳士風の人間だったが、こちらを見たその目に拳勝は寒気がした。冷たい何の感情もない凍りつく様な視線。しかも、一人でこんな危険なところにいること事態が怪しさ全開である。


「おやおや こんなところに人がやって来るとは 」


 老紳士は、手を広げ大袈裟に驚いてみせる。拳勝たちは警戒してこの老紳士を見ているが銃鬼と裂姫には緊張の欠片もない。


「こんにちはなの ここで何してるの 」


 裂姫が世間話でもするように普通に話し掛ける。


「おおっ 可愛いお穣ちゃん 私はここでお祈りをしているのだよ 」


 老紳士が裂姫に深々と頭を下げ、そして跪くと裂姫の手を取りその甲に口付けする。何あれ、気持ち悪くない。紅葉が拳勝の耳元で囁く。


「お祈り なにに? 」


 しかし、何も気にしない様に裂姫は疑問を口にする。老紳士は再び大袈裟に手を広げると……。


「偉大なるゲーデ様にっ!! 」


 大声で叫ぶ。


 その声に反応したのかごそごそと禍獣が現れ、老紳士の姿を見ると飛び掛ってきた。小鬼の禍獣ゴブリンだ。そのゴブリン四体が左右と後ろ、上から襲いかかる。裂姫が、ピクッと反応したが何故かカタナは振らずそのまま立っていた。

 ゴブリンは老紳士に飛び掛り鋭い爪と牙で引き裂くつもりだ。どうして銃鬼と裂姫は動かないんだ。拳勝は助けに飛び出そうとしたが、老紳士が掌を前に出して無用と意思表示する。その次の瞬間、四体のゴブリンの首が飛び、遅れて血飛沫があがった。ゴブリンの体がごろりと床に転がりピクピクと痙攣する。頭は何処かに転がっていってしまった。


「そこの若い人 お気持ちは有難いが、手助け無用 私は偉大なるゲーデ様に守られております故 」


 老紳士は何事もなかったかのように言うと、銃鬼と裂姫を値踏みするかのようにその冷たい目でジッと見つめる。そして、また深々と頭を下げると、それでは失礼致しますと歩き始めた。が、途中で一度立ち止まるとクルッと振り返る。


「私はゲーデ教団のフールフールと申します あなた方とはまた御会いできそうな気がします それまでお達者で 」


 フールフールは唇の端に笑みを浮かべるとビルの奥へと歩いて行った。


「あの、お爺さん、何者? 」


「なんでゴブリンの首が? 本当に何かに守られているのか? 」


 拳勝と紅葉が同時に喋り出す。


「ゲーデ教団というのは? 」


 銃鬼も疑問を呈する。その疑問には紅葉が簡単に答えた。


「ゲーデ教団は、永遠の交差点に立つというゲーデを信奉する教団で、このゲーデという死の神は人間が死んでこの交差点に行った際にどの方向に進むか指示するらしいわ ただ教団の教義や活動の実態は全然分からないの でもかなりの数の信者がいるみたいよ 」


「それ、何も分からないのと同じじゃないか 」


 拳勝が突っ込むと、紅葉は拳勝の頭を平手で叩く。その二人の掛け合いもまるで関心が無いように感情表現に乏しい裂姫が驚いた表情で呟くように言う。


「あの、フールフールという人 持ってたステッキでゴブリンの首を刎ねたの 」


「えぇーーっ 」


 裂姫の言葉に、拳勝と紅葉が驚きの声を上げる。そんな動きはとても見えなかった。大体、同時に飛び掛ってきた四体のゴブリンの首を一瞬で刎ねるなんて事が可能なのか……しかも動いた気配さえ見せずにステッキで……。拳勝は、自分にはとても無理だと感じた。

 拳勝が衝撃で打ちのめされている間に、紅葉は抜け目なく貴金属をバックパックに詰め込んでいた。


「どうだ 裂姫 あの動き 」


「うん 記録したの 」


「そうか よし それで 」


「分析したの これは…… 」


 裂姫が珍しく言葉に詰まる。


「時間流を止めているの 」


「時間を止めたっ!! あのフールフールという男、只者ではないと思ったが 」


 拳勝と紅葉が貴金属を詰め込んでいる時、銃鬼と裂姫はヒソヒソと小声で話していたが、二人は互いの目を見て頷く。


「おい、拳勝 俺達はここから上のフロアの禍獣を殲滅してくる 」


「ちょっと行ってくるの 」


「大丈夫だと思うが、何かあったら大声で泣き叫べ 直ぐに来る 」


「泣くの 」


 口を開けたまま啞然とする二人を残して、銃鬼と裂姫は二手に別れ歩きだした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ