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六話 センタービルへ


 六話 センタービルへ



 早朝、爽やかな朝の空気を胸いっぱいに吸い込み紅葉は深呼吸した。隣で拳勝が顔を洗っている。銃鬼と裂姫はすでに準備を整え、裂姫はバイクを乗り回していた。


「よほど気に入ったのね 」


「でも朝から目の毒だ 」


 拳勝がバイクを乗り回す裂姫を見てぽろっとこぼす。裂姫が勢いよくバイクを乗り回す為、白いスコートが捲れ上がり丸見えになっていた。紅葉が、パンと拳勝の頬を叩く。


「何だよ 僕は何もしてないだろう 」


 拳勝が脹れていると、裂姫がバイクで二人の前に来て言った。


「ふたり けんかするの良くないの 」


 いやいや君が原因だろうと拳勝は思いながら、銃鬼の方へ行くと、本当に大丈夫ですかと確認する。昨夜の禍対委の犠牲が気になっていた。途中から駆けつけた者も入れると三十人以上のメンバーの一割近く九人が犠牲になっていた。数十体のガーゴイルにである。

 センタービルにはその数倍以上の禍獣が潜んでいるだろう。それに、ガーゴイルやファーヴニルよりも強力な禍獣もいる筈である。銃鬼と裂姫、二人の強さは分かっているが、拳勝は弱気になっていた。


「拳勝 もし迷っているなら来ない方がいい 心の迷いは死につながるぞ 」


 銃鬼は拳勝の不安を見抜いたように言う。


「そうですね 」


 拳勝は、裂姫と話している紅葉の所に戻ると手を引きコンテナの中に連れ込む。


「ちょと 何っ 」


「やっぱり、君は残ったほうがいい 」


「何言ってるの お宝があるって言ったのは、あなたじゃないの 」


 紅葉は今更何を言ってるのと噛み付く。


「昨夜の禍対委の犠牲を聞いたろう センタービルは危険すぎる お宝なら僕が持ってきてあげるから 君はここに残るんだ 」


 拳勝の口調がつい強くなる。


「拳勝、あなた 本当に私のこと大切だと思っているの? 」


「当たり前だろう だから安全なここに居るんだ 」


「安全な所なんて何処にもない 」


 紅葉がぽつりと呟く。


「ここだって昨日みたいにまたファーヴニルに襲われるかもしれない 本当に大切なら自分の眼の届く所に置いておくんじゃないの 」


 紅葉は涙を流して訴える。拳勝は言葉が出なかった。どうせ何時もの嘘泣きだろうと思ったが、紅葉の言葉に動揺していた。


「ごめん そうだな、僕が悪かった 君の言う通りだ 」


 拳勝は、紅葉が涙を拭き終わるのを待って手を引いてコンテナを出た。銃鬼が拳勝と紅葉の顔を見てニコリと微笑む。


「どうやら 気持ちが固まったみたいだな 」


 拳勝は大きく頷くとバイクに跨る。紅葉もタンデムシートに跨ると拳勝に抱きついた。


 * * *



 拳勝はバックミラーで後ろの二人を確認する。運転は裂姫がして、銃鬼はタンデムにどんと腰を下ろしていた。それにしてもと拳勝は思う。もう何年もバイクに乗り、自分でも運転は上手い方だと自認している拳勝に、昨日初めてバイクに乗った裂姫が平気でついてくる。一体今までどういう経験をしてきたんだと恐ろしいくらいだった。


 センタービル前の駐車場でバイクを降りた四人は、そこから物陰に隠れながら入り口へと向かう。先頭は裂姫。その後は銃鬼、紅葉、拳勝と続く。その時、銃鬼が裂姫に後ろの二人に聞こえないように小声で囁く。


「分かってると思うが、後ろの二人を必ず守るんだぞ 」


「うん 大丈夫 私、ふたり好きだから 」


 拳勝は前を行く紅葉を見る。改めて、大型のバックパックを背負った紅葉を見ると、どれだけここから持ち帰るつもりなんだと突っ込みたくなる。しかも、自分だけでなく拳勝もリュックサックを背負わされていた。


 無事ビルの入り口に辿り着いた四人は、そこからビルの内部に侵入する。その途端、空気の質が変わったような感覚を覚えた。おそらく多数の禍獣が潜んでいる。その息遣いが至る所から感じとれた。


「ここからは先は戦場だ なるべく俺たちから離れるなよ 」


 銃鬼が後ろの二人に言う。ビル内の淀んだ空気が揺らぐ。何かが動き始めたようだ。裂姫がカタナを抜き構える。銃鬼が黒いコートをはだけると、その裏には何丁もの銃器が隠されていた。銃鬼はその中から二丁の拳銃を抜き両手に持つ。拳勝はその拳銃を見て驚愕する。デザートホーク。五十口径のマグナム弾を撃ち出す最強の拳銃だ。それを片手で撃てるのか。常人では考えられない筋力だ。

 とんでもないカタナを持つ裂姫といい、この二人が何者なのか。拳勝は大災害以来止まっていた時代の流れが動き出していく感覚に囚われていた。


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