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最終話 最後の刻

「アップグルント」最終話となります。

裂姫と銃鬼、拳勝と紅葉の物語もこれで終了です。

描き切れなかった面も多くありますが、ご了承下さい。



 最終話 最後の刻



 時は流れて、七つの大罪の悪魔、最後の一人【憤怒】”サタン”と裂姫は激しい戦いを繰り広げていた。


「ゲシュタルト崩壊 これで貴様の自我は崩壊した 」


 裂姫の体が白から黒へ変わっていく。裂姫の変貌は何度か見ている拳勝たちであったが、何か今までと違う印象を受けた。


「うわぁぁぁーーーっ!! 」


 裂姫の背から黒い翼が飛び出す。裂姫の全身からサタン以上の禍々しい気配が放たれる。


「何が起こっているの? 裂姫ちゃん 」


 紅葉が怯えたように拳勝に抱きついてくる。拳勝が銃鬼を見ると、銃鬼は口許に笑みを浮かべ変貌していく裂姫を見つめている。裂姫は以前にも拳勝たちが見たことのある黒い裂姫とは違う、まるで悪魔そのもののような姿に変貌していた。目はつり上がり口は裂け、黒い爪が鋭く伸び、そして、背中から生えた黒い翼がゆっくりと羽ばたき出す。


「堕天が完了したか ふはは、これでこの女は我らの仲間だ 」


 裂姫は黒い翼で空を飛び、サタンの前で動きを止める。


「ここであなたに出会えた事は幸運なの この早い段階で会えて嬉しいの 」


 裂姫はサタンを見つめ不気味に笑う。銃鬼は拳勝と紅葉に振り替えると、お前たちは直ぐに逃げろと指示した。危険な予感を感じた拳勝は紅葉の手を取ると、すぐに駆け出した。紅葉も素直に走り出す。二人とも今までと違う嫌な感じを頭から拭えなかったのである。


「この後の裂姫の姿をお前たちに見せるのは少し(はばか)れるからな 」


 銃鬼はポツリと呟くと近くの岩の上に腰を下ろした。


「何故、笑う 何故、喋れる ゲシュタルト崩壊を起こして自我が消滅したのではないのか 」


「ゲシュタルト崩壊? そんなもの知らないの 私はあなたを喰らう為に存在しているの 」


 裂姫はサタンに向かい不敵に微笑む。


「我を喰らう 何、世迷い言を言っておる 喰われるのは貴様の方だ 」


 サタンは邪悪な闇の波動を放出する。人間がこの波動を浴びてしまえば、自我が崩壊し精神が破壊される。が、しかし、変貌した裂姫はサタンの波動を浴びても平気でいるばかりか、その波動を吸収しているように見える。


「貴様、いったい何者だっ!! 」


 不気味に微笑む裂姫を見てサタンは恐怖に駆られていた。


・・・我が恐怖を感じている? 馬鹿な、あり得ない話だ ・・・


「悪魔は対象の恐怖の波動を吸ってエネルギーにしているの でも、悪魔も自分の理解出来ない事に恐怖を覚えるのは当然なの 私は悪魔の恐怖を喰らうの あなたが今まで人間にしてきた事を逆にやられて、あなたは死ぬの 」


 裂姫の顔が邪悪に笑う。その顔は悪魔であるサタンよりも恐ろしい表情に見えた。まるで、悪魔よりも悪魔のように変貌した裂姫がサタンを喰らっていく。


「馬鹿な…… こんな事はあり得ない 」


 サタンは驚愕の表情を残し、この世から消滅していった。



 * * *



 七つの大罪の悪魔を滅ぼし、四凶をも倒した裂姫と銃鬼は最後の敵、ゲーデと戦っていた。ゲーデを復活させたゲーデ教団は、その教団としての使命を終え、すでに解散している。ただ、ゲーデの本当の信者である者はゲーデに付き従いついてきていた。あの、時間を止めるフールフールもその一人であった。


「よく見ておけ、裂姫の最後だ 」


「最後って……? 裂姫ちゃんの方が優勢です 裂姫ちゃんが勝ちますよ 」


 拳勝の言葉に銃鬼は、意味が違うと呟いた。裂姫とゲーデの戦いは熾烈を極めていた。しかしこれまでの戦いで多くの悪魔の能力を吸収封印している裂姫の力は、もはや神の一人であると云われるゲーデの力をもすでに凌駕している。


「さあ、もうサヨナラなの 」


「こんな娘に、まさか私が敗れるとはな 娘、お前が十字路に来た時には天に続く道を示そう 」


 ゲーデの体が徐々に崩壊し崩れていく。


「残念なの 私は死ぬという事が出来ないの 」


 崩れていくゲーデを見ながら裂姫がポツリと寂しそうに呟く。


「おおっゲーデ様 なんという事 私もお供致します 」


 フールフールはゲーデに向かいスックと立ち上がると、自分自身の時間を止めた。タイムパラドックスが起こり、フールフールの体も消滅していく。

そして、裂姫は勝利の証のように右手を高く上げ拳勝たちを振り向くとにこりと笑った。


「ほら、銃鬼さん、裂姫ちゃんが勝ったじゃないですか 」


「そうだな…… これで長い旅も終わりだ 」


「よーし、みんなで乾杯しましょ 取って置きのバーボンを開けるわ 裂姫ちゃんも早く…… 」


 紅葉が裂姫を呼ぼうと視線を向けた時、紅葉の表情が凍り付く。拳勝も紅葉の視線を追うと、そのまま体が固まっていた。二人の視線の先では裂姫の体もまた、まるで砂のように崩れ始めている。そして、拳勝たちの見ている前でサラサラと崩れていき頭だけになった裂姫の口が小さく動いた。


「パパ、ママ サヨナラなの…… 」


 崩れた裂姫の体の跡には小さな箱がポツンと残っていた。唖然とする拳勝と紅葉の前で銃鬼は、その箱を貴重な物のように静かに掴むと大切にコートの中に入れた。


「これはもう開けてはならないパンドラの小箱 俺には墓守として未来永劫この箱を守る使命が残っている もう会う事はないだろう 」


 バイクに跨がりエンジンをかける銃鬼に、ようやく我に返った拳勝が叫ぶ。


「待ってください、銃鬼さん 何もかも分からないんですけど 」


 銃鬼は拳勝と紅葉を振り向くと、今まで見たことのない優しい笑顔で拳勝と紅葉の頭を撫でた。


「そのうち分かるさ この世界を救ったのは裂姫でも俺でもない 拳勝、紅葉、お前たち二人だ 」


 小さくなっていく銃鬼の後ろ姿を見送りながら立ち尽くしていた拳勝と紅葉の目に駆け寄って来る禍対委の仲間たちが見えた。


「裂姫ちゃんが最後に言った言葉、聞こえたか紅葉 」


「うん 聞こえた どういう意味なのかな 私が裂姫ちゃんのママのわけないし 」


「銃鬼さんはそのうち分かると言ってたけど 」


「ゆっくり考えましょう、拳勝 私たちはもう怯える事なく考える時間があるんだし 」


「そうか、紅葉の”金集め”ももう終了か 」


「馬鹿じゃない それとこれは別よ 」


 拳勝が横を見ると紅葉の目から涙が溢れている。その紅葉の横顔が滲んで見えているのは……。

 拳勝は自分の目を腕で拭った。あの二人が居てくれたから、こうして世界の平和が取り戻せた。この平和を維持していくのがこれからの僕たちの仕事だ、そう思わずにはいられなかった。



 * * *



 長い時が流れた。数十億年という気の遠くなるような時間が過ぎ去り、この惑星もその寿命を迎えようとしている。この惑星に生命の力を与えていた太陽も、もうその使命を終え燃え尽きる寸前の赤色巨星となっていた。この惑星の地表を動くものはもう何もなかったが、その地下ではまだ稼働しているものがあった。広いコンクリートの打ちっぱなしのような機械が並ぶ殺風景な部屋は何かのメンテナンスルームのような趣だ。その部屋の中央で一人の黒い服を着た男が座っている。


「もう、この星の寿命も終わりだな この全ての災いを詰めた箱が開く事がなくて何よりだった 」


 ポツリと男が呟くが、それに答える者は誰もいない。


「長かった俺の旅もようやく終焉を迎えそうだ さすがに、そろそろ眠くなってきたな 」


 また、男は呟きながら静かに目を閉じるとごろんと横になった。男の胸のポケットから小さな箱が転げ落ち、男の頭の横で止まった。男は横を向いてその箱を眺めた。男の目には遥か遠い昔の映像が映し出されていた。


「拳勝…… 紅葉…… 」


 男の口が微かに動き、その後目を閉じると二度と男は目を開く事も、動く事もなくなった。


 赤色巨星の太陽が沈み、夜がやってくる。動くものもなく、真の暗闇の中でこの男と共に、この星の意志もアップグルント(深淵)に沈んでいった……。




     了




最後までお読み下さりありがとうございます。

これで、この物語も終了となります。私の力不足で、思う所が伝え切れなかった面も多々ありますが、読んでくれた皆様には本当に感謝です。


一言でも感想頂ければ嬉しいです。


ありがとうございました。


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