三十三話 避けられぬ戦い
三十三話 避けられぬ戦い
裂姫と剣市がお互いに”向日葵”と”白菊”を構えて向き合っている。視線は空中でぶつかり合い火花を散らしているようだった。そこへ、禍対委のメンバーがばらばらと駆けつけてくる。
「剣市さん、どうしました あれは誰です? 人間のようですが、人の形をした悪魔ですか 」
どうやら剣市の考えに賛同する禍対委のメンバーのようだった。全員が申し合わせたように剣市に倣ってカタナを構えている。
「あなたたちには関係ないの 死にたくなかったら離れているの 」
裂姫が冷たく言い放つが、逆に禍対委のメンバーはその言葉でいきり立つ。
「なんだ、コイツ 俺たちの邪魔をするなら斬るぞ 良いですよね、剣市さん 」
「禍獣の味方をするつもりか ならば人間の敵 容赦なく斬る 」
禍対委のメンバーは裂姫の周りを取り囲むが、裂姫は慌てる様子もなく平然としている。
「やめろ、お前たち 僕たちの敵は禍獣だろっ 人を相手にしてどうするんだ 」
思わず拳勝が飛び出して叫ぶが、隊員たちはもう裂姫を敵として認識していた。
「拳勝さん、禍獣を討伐するのが俺たちの仕事です 禍獣を倒して平和な世の中にする それを邪魔するつもりなら拳勝さんでも斬りますよ 」
「違うっ 間違っている 人を守るのが僕たちの仕事だ 考えを改めないのなら僕がお前たちに鉄槌を下す 」
拳勝は、紅葉の超技能”縮地”を使い、一瞬で間合いを詰めると禍対委のメンバーの一人に拳を叩き込む。その一撃でメンバーは倒れた。勿論、拳勝は力をセーブして殺さないように配慮している。
・・・こうなったら剣市も僕が先に倒す 裂姫ちゃんが動く前に…… ・・・
拳勝は連続で”縮地”を使い、次々とメンバーを倒していく。
「あいつ、いつの間に私の超技能を使えるようになったの 」
「超技能は心の波動のようなものだ 拳勝が紅葉の超技能を使えるのは、さもありなんという事だな 」
紅葉は銃鬼の言った意味が分からず首を傾げるが、銃鬼にはそのうちに分かるさと軽くはぐらかされてしまった。拳勝は、その間も”縮地”と自分の超技能”鉄拳”を使い禍対委のメンバーを倒していく。
「さすがは、拳勝さんです ですが、これならどうです やれっ! 」
隊員たちが拳勝に向かって何かを投げ出した。それは地面に当たると激しく破裂する。それは禍対委が支給している爆裂弾だった。威力はさほどではないが敵を足止めするために良く使われる武器だった。
「拳勝さん、あなたの超技能は確かに脅威です ですが、それを使う為には相手の間合いに飛び込む必要があります つまり、間合いにさえ入られなければ何も怖くないという事ですよ 」
しかし、拳勝は爆裂弾の爆風を受けても飛び込んでいく。全身ボロボロになりながら、禍対委のメンバーを一人ずつ確実に倒していったが、何度目かの爆裂弾で足がもつれ、間合いに入りきれずに途中で足が止まってしまう。そこへメンバーの一人がカタナを振り下ろしてきた。
「拳勝さん、あなたにとって届かない間合いでも、僕には必殺の間合いなんですよ 」
普段の拳勝であれば、剣市の"高速の剣"ならともかく、隊員の斬撃など軽くフットワークで避けるところであるが、今は足がふらつき避ける事も出来ない。拳勝がカタナで両断される寸前、”縮地”を使った紅葉と、飛び込んできた裂姫の二人が拳勝を助け出していた。
「本当にあなたは馬鹿 無茶し過ぎなのよ 」
紅葉が涙ぐんで言うが、拳勝は立ち上がるとまだ自分が戦おうとする。しかし、裂姫がトンと拳勝に当て身を当てた。
「モミジ ケンショウを連れて銃鬼の所に行ってるの 」
紅葉に指示を与えた後、裂姫はポツリと独り言を言う。
「本当にケンショウは優しすぎるの だから私には非情な心も詰め込んだの 」
紅葉は、その裂姫の独り言が耳に入ってしまった。
・・・何? 今の裂姫ちゃんの独り言…… ・・・
紅葉は裂姫に問い返そうと思ったが、裂姫は他のメンバーを倒す為、すでにその場にはいなかった。そして、当て身を当て禍対委の隊員を倒していく。あっという間に剣市を除く、他の隊員は裂姫に倒されていた。
「剣市、裂姫ちゃんに謝れ、そして、考えを改めろっ 」
気が付いた拳勝は紅葉に支えられながら剣市に向かって叫ぶが、剣市はまるで聞こえないように拳勝の言葉を無視する。
「銃鬼さん、裂姫ちゃんを止めて下さい 」
拳勝は銃鬼に救いを求めるが、銃鬼から返ってきたのは冷たい言葉だった。
「無理だな、拳勝 裂姫はもう剣市を始末するつもりでいる 人間を害する者は俺たちの敵だからな 勿論、俺も裂姫と同じ気持ちだ 」
「そんな、銃鬼さん、剣市は今まで多くの人を助けてきていますよ これが殺されてしまう事なんですか 」
「そうですよ、銃鬼さん 私も剣市さんの考えは間違っていると思います でもそれで始末なんてあんまりです 」
拳勝と紅葉が銃鬼に訴えるが、銃鬼ももはや聞く耳を持たなかった。
「人を助ける、それは当たり前の事だ もしそこの男の子が目の前で斬られていたら、お前たちも怒りの感情を持っただろう 何より、人を助ける仕事に就いている人間が人を殺すなどあってはならない事だ それは、その仕事に就いている他の全ての人間の信用を失墜させ裏切る行為だからだ 」
拳勝も紅葉も、銃鬼に言われるまでもなくそれは分かっている事だった。それでも、剣市が悪とは言いたくなかった。裂姫も銃鬼も、はっきりと善と悪で分けてしまう。でも、人間はそんなにはっきりと分ける事が出来ないのではと感じていた。
禍対委の隊員を当て身で眠らせた裂姫は、剣市に向かって”向日葵”を構えている。もう、この二人の戦いは止める事が出来ない。そして、剣市が裂姫に勝てる可能性は限りなく”ゼロ”に近いものだった。