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二十五話 七つの大罪の悪魔


 二十五話 七つの大罪の悪魔



 紅葉は秘蔵のバーボンを振る舞っていた。拳勝もいい気持ちになっていたが、せっかく確保したバーボンをこんなに消費してしまっていいのかとも思っている。


「おい、紅葉 良いのか、こんなに飲んじゃって? 」


「ふふ、もちろんお金は貰うわよ 」


「なにぃ みんな奢りだと思ってるぞ 」


「そんなの勝手に思ってるだけじゃない 請求はきちんと致します あんたも、ターキー結構飲んでるね 」


 ニヤリと口許に笑みを浮かべる紅葉を見て、拳勝はガクガクブルブルと震え始めた。


・・・この女、恐ろしい ・・・


 拳勝は一気に酔いが醒めてきたが、裂姫から声がかかる。


「こらぁ拳勝、何やってるの もっと景気よく飲むの 」


「せんぱーい、こっち来て下さいよぉ 」


 千里が拳勝の腕をとり、嬉しそうにグラスを渡す。拳勝が千里に引かれ歩きながら紅葉を見ると、紅葉は禍対委の隊員にまめにバーボンを注いで回っている。その目が、バーボンを注ぐ度にチャリーンといっているように見えた。拳勝は、考えてみればこれでお金が早く貯まれば紅葉は安全な場所に行く事が出来る、そう思い自分ももっと紅葉に協力しようと思い直した。


「よーし、飲むぞ! 裂姫ちゃん、横山くん 」


 拳勝も、また勢いよくバーボンを飲み始めた。いい気持ちになっている千里のグラスにバーボンを注いだ時、銃鬼と乾杯している人物が目に入り拳勝はぎょっとした。銃鬼も酔っているのか、その人物と肩を組み旧知の仲のように談笑している。


・・・嘘だろ あり得ない どうして? ・・・


「おーい、飲んでるかぁ 」


 拳勝にバーボンを注ぎに来た紅葉も、銃鬼の前の人物に気付きぎょっとする。


「どうして、アイツがいるの? 」


 紅葉が拳勝の陰に隠れるように体を竦める。二人の視線の先には、ゲーデ教団のフールフールがちゃっかりと周囲に溶け込みバーボンを飲んでいた。紅葉は最初こそ驚いていたが、ツカツカとフールフールに向かって歩いていく。大丈夫なのかと心配する拳勝だが、裂姫と銃鬼がいるのでフールフールも無茶はしないだろうと考えた。それでも、紅葉を庇うように脇に並んで歩いていく。


「おーっ、お嬢さん 私もご相伴にあずかっておりますぞ 」


 紅葉に気付いたフールフールが気安く声をかけるが、紅葉は強張った顔でビシッとフールフールの持ったグラスを指差す。


「そのお酒、私の売り物なのできちんとお金は戴きますからね 」


「勿論ですよ、お嬢さん この時代にこんな貴重な美味しい酒を飲めるとは思いませんでした まだストックがあるのでしたら、是非我が教団で買い上げたいところです 」


「えっ 」


 紅葉の頭の中で素早く計算が始まる。そして、急に猫撫で声に変わり態度が一変した。


「もちろん、このお酒以外にもストックしてますよ いかほどでお買い上げいただけますか? それによってはゲーデ教団様にお譲りする事も検討致しますが 」


・・・おいおい、紅葉 自分の命を狙ってる奴とお酒の商談かよ ・・・


 拳勝はハラハラしながら見ているが、裂姫も銃鬼も成り行きを楽しんでいるようだった。


「こんな貴重なお酒です お嬢さんの言い値で構いませんよ 」


 紅葉はごくりと唾を飲むと、かなりの金額を口にした。


・・・紅葉、いくら何でもぼったくりしすぎだろう ・・・


 拳勝は、フールフールが激怒して斬りかかってくるのでは緊張したが、フールフールはあっさりと首を縦に振る。


「よろしい、それではその価格で購入致しましょう 前金として半額を今支払っておきましょう それにまたお酒が入荷しましたら連絡下さい いつでも買い取らせて戴きます 」


 紅葉は代金の半分を受け取ると、震える手で領収書を書いていた。


「宛名は、ゲーデ教団でよろしいですか? 」


「ええ、教団でも”上”でも構いませんよ 」


 紅葉は両手で領収書をフールフールに渡す。フールフールは、確かにと受け取るとお酒の引渡し場所について紅葉に指示していた。


「今日はこんな美味しいお酒を手に入れる事が出来たし、深淵の悪魔も倒す事が出来て素晴らしい一日になりました 」


 フールフールは上機嫌で、またバーボンを飲み始めた。紅葉も顔を上気させ、まさか自分の命を狙ってるいる者が、とんでもない上客になるという信じられない出来事に興奮していた。


・・・酒の力というのは恐ろしい ・・・


 拳勝は今さらながら思い知った。


・・・やっぱり、バーボンは素晴らしい こんなお酒を作った人に感謝だな ・・・


 いつの間にか拳勝も、裂姫たちの輪に入りバーボンを飲んでいた。


「あの悪魔ダゴンの体表が普通ではない硬度だったのですが、お嬢さんたち何か存じないですかな? 」


 フールフールが先程の悪魔ダゴンとの戦闘の疑問点をこぼすと、裂姫がバーボンを煽りながら蘊蓄をたれる。


「水系の悪魔で硬度がアップしているとしたら、おそらく七つの大罪の悪魔が関係していると思うの 海の悪魔「嫉妬」のリヴァイアタン、彼が関わっていると思うの 」


「七つの大罪の悪魔と云ったら魔王クラスじゃないですか あの魚野郎、そんな凄い悪魔と何か関係があるんですか 」


 千里が驚いたように叫ぶが、裂姫は何でもないように、次はそのリヴァイアタンを倒すの、と軽く口にする。


「いやいや、お嬢ちゃん いくらお嬢ちゃんでも、さすがにリヴァイアタンは手に余ると思いますな 我らゲーデ教団も手をお貸ししますよ 我が教団としても、七つの大罪の悪魔は倒すべき存在ですからな 」


 フールフールも軽く助力すると言うが、拳勝はそんなに簡単に行く筈がないと危惧する。その拳勝の耳元に紅葉が顔を近付け囁く。


「ねえねえ、七つの大罪の悪魔って何? 」


「西方教会で云われる人間が犯してはならない七つの罪に対した悪魔の事だよ 」


「という事は、7人もいるってこと? 」


「そうだよ ”傲慢”のルシファー、”憤怒”のサタン、”嫉妬”のリヴァイアタン、”怠惰”のベルフェゴール、”強欲”のマモン、”暴食”のベルゼブブ、”色欲”のアスモデウス、この7人の悪魔だ 」


「聞いたことある名前、結構あるけど みんなかなりヤバイ奴なんじゃないの? 」


「ああ、そうだよ でも確かに倒さなければならない悪魔だ 」


 拳勝は紅葉に七つの大罪の悪魔について説明しながら、ふと気付いた事があった。


・・・七つの大罪の悪魔が出て思い出した そういえば、ソロモン72柱の悪魔の中にフールフールという名前があった それに、あの空間を操作するダンタリオンの名前もソロモン72柱の悪魔の中にある 偶然なのか、それとも? ・・・


 陽気にバーボンを飲むフールフールを見つめながら拳勝は、これから先何が起きるのかを考え不安が広がってきていた。


「先輩、とまってますよ 」


 千里が陽気にお酒を勧めてくる。拳勝はグラスにバーボンを受けながら、辺りを見回す。そして、裂姫と銃鬼に目を止めた。この二人を見ていると、心が落ち着いてくるのを感じた。何故かこの二人なら、七つの大罪の悪魔もソロモン72柱の悪魔も問題にしないのではと何の根拠もないのに信じている自分がいた。


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