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二十四話 次元弾


 二十四話 次元弾



 ダゴンは瞬間移動で拳勝たちの周囲に毒鱗を出現させ攻撃するが、フールフールは時間を止め毒鱗を全て叩き落とす。そして、ダゴンの時間を止め攻撃を叩き込もうとするが、ダゴンはその攻撃をことごとく避ける。時間を止まられている筈のダゴンが動き回る姿にフールフールは確信する。


・・・ふむ、どうやら奴は別空間に潜んでいるようですね その空間がどこか分からない以上、奴の動きを止めるのは不可能ですか これは消耗戦になりますね 奴が攻撃を仕掛ける瞬間はこちらの空間と同じ空間に存在する筈です そこを狙うよりありませんね ・・・


 フールフールはこちらの意図を悟られないように慎重に事を進めていく。拳勝と千里は、二人の戦いがどうなっているのか、まるで把握出来なかった。


「横山くん、動けるか? 」


「はい、大丈夫です。先輩 」


「よし、次にフールフールが毒鱗を叩き落とした瞬間、あそこの葦の茂みに駆け込むんだ。あの悪魔の瞬間移動は見える範囲だ。隠れていれば毒鱗で狙われない 」


「でも、やみくもに攻撃してきたらどうしましょう? 」


「うん、だから常に動き回っていよう。あのフールフールという人物は強い。でも、相手も空間を操作する悪魔だ。どちらが勝つとは言えない。僕たちは僕たちで最善を尽くさないとね 」


「さすがです、先輩 」


 千里はうるうるした瞳で拳勝を見つめる。その時、フールフールが時間を止め毒鱗を叩き落とした。


「今だっ!! 」


 拳勝と千里はフールフールの後ろから飛び出し、葦の茂みの中に飛び込む。そして、居場所を悟られないように動き回りながら支部に連絡を入れていた。ダゴンは拳勝たちなど何時でも倒せると思ったのかフールフールの方に攻撃を集中している。しかし、時間を止められるフールフールはダゴンの攻撃をものともせずチャンスを伺っていた。 

 ダゴンも、このままでは埒が明かないと思ったのか今までよりも多くの毒鱗を空間に出現させた。


・・・ククク、今ですね ・・・


 多くの毒鱗を出現させた為、今までよりもこちらの空間で時間を費やしたダゴンの時間を止めるフールフール。それまではすぐに別の空間に移動し時間を止められるのを避けていたダゴンの動きが止まる。


・・・ふふっこれで終わりです ・・・


 フールフールはダゴンに向かって飛び出し、黒いステッキに仕込まれた刃を抜く。そして、大上段からダゴンに斬りつけた。


ガギィーン!!


 硬質な音が響き、フールフールの黒いステッキに仕込まれた刃が折れ飛び散った。


・・・この悪魔、体は通常の硬度の筈ですが何故? ・・・


 時間が動き出す。フールフールは飛び退き、空間を操作するダゴンには無意味であると知りつつも距離をとる。拳勝は、いつの間にかフールフールのステッキが折れているのに気付き、フールフールが劣性に追い込まれている事を知った。


「横山くん、おそらくフールフールは退くだろう。そうなると次は僕たちだ。今のうちに気付かれないよう逃げるんだ 」


「いやです。先輩をおいて行けませんよ。一緒に逃げましょう 」


「ダメだ。二人一度に逃げては奴に気付かれる。僕が残って…… 」


 が、千里は拳勝の腕をとると走り出した。拳勝もつられて走り出す。いつの間にか拳勝の予想通りフールフールの姿は消えていた。ダゴンの目が拳勝と千里に向いた。


「バーカ、バーカ、魚野郎。私はこっちだ。その腐った目じゃあ見えないだろうねえ 」


 千里はダゴンを挑発しながら走り、拳勝を突き飛ばして違う方向に走って行く。ダゴンは怒りに満ちた顔で千里を睨み付けると毒鱗を出現させた。その無数の毒鱗に囲まれながら千里は拳勝に向かってニッコリと微笑んだ。


・・・早く、先輩。今のうちに逃げて下さい ・・・


 千里は少しでも拳勝とダゴンを引き離そうとするが、それは無駄な事だった。千里の前方にも行く手を塞ぐように毒鱗が出現する。もう、千里の逃げ道はなかった。そして、毒鱗が千里に向かって一斉に襲いかかる。


「横山くーんっ!! 」


 拳勝が悲痛な叫び声を上げるが、無数の毒鱗が千里の体をバラバラに粉砕したかに見えた。が、バラバラに粉砕されていたのは毒鱗の方だった。当の千里も何が起こったのか分からず立ち尽くしている。そこへまた瞬間移動で毒鱗が出現するが、その毒鱗も瞬時に粉々に粉砕された。


「横山くん、大丈夫か? 」


 拳勝は千里に駆け寄ると、千里は崩れるように倒れこんできた。拳勝は千里の体を支えながらダゴンに目を向けると、ダゴンは拳勝たちとは違う方向に目を向けていた。ダゴンの視線の先には黒い大きな人影が立っている。


・・・あれは、まさか ・・・


 拳勝が目を凝らして見つめると、人影は両手に巨大な拳銃を持っている。それは間違いなくデザートホークだった。こんな銃を両手で撃てる人物を拳勝は一人しか知らない。


「銃鬼さん…… 」


 案の定、近付いて来る人影は、あの深淵の中で消息が分からなくなっていた銃鬼だった。


「すまんな、拳勝。大丈夫か? 」


「はい。銃鬼さんこそ大丈夫なんですか? 」


 銃鬼は、大丈夫というように微笑むとダゴンに目を向けた。


「あいつがここの深淵の悪魔か。深淵の底まで降りる手間が省けて助かるな 」


「いや、気を付けてください銃鬼さん。あいつは空間を操作します 」


「問題ない 」


 銃鬼はデザートホークを構えるとダゴンに向かって引き金を引く。すると、ダゴンの右腕が吹っ飛んだ。


「えっ! 」


 拳勝と千里は驚いたが、当のダゴン本人はそれ以上に驚いていた。


「き、貴様、何者だっ! 別空間にいる私を銃撃出来るなどあり得ない。しかも私の体を一撃で破壊するだと…… 」


「ずいぶん、お喋りな悪魔だな。まあ、俺と出会ったのが運の尽きってやつだ 」


 銃鬼は続けて引き金を引く。ダゴンはなす術もなく銃撃を浴び手足は吹っ飛び地面に転がった。そこに銃鬼は止めの一撃を撃ちこむ。ダゴンはピクピクと痙攣していたが、そのうちに動かなくなった。


「凄い…… 」


 あれだけ苦戦し多数の犠牲も出し、フールフールでさえ退いた悪魔ダゴンを瞬殺した銃鬼に拳勝は恐れに似たものを覚えた。以前、裂姫にも感じたが、この人たちが敵に回ってしまったらどうなるのかと思わずにいられなかった。


「あの…… 」


 千里が恐る恐る銃鬼に向かって口を開く。


「どうして、別の空間にいるあの魚野郎に銃弾を当てられるんですか? 」


 銃鬼は千里をチラッと見ると拳勝に目を向けた。拳勝は、うんと頷く。


「俺のデザートホークの弾は”次元弾”という特殊な弾だ。これはどの空間だろうと関係ない。俺の目で捉えたものに次元を超えて着弾する 」


 銃鬼はさらっと言うが、そんな物凄い武器を持つこの人は何者なんだという疑問が拭えなかった。思えば裂姫の持つ刀にしても、とてつもない性能を誇る。拳勝が考えているうちに、支部から援軍が駆けつけてきた。救護班が負傷した千里に応急処置を施し、ようやく拳勝は安堵する事が出来た。


「おーいっ!! 」


 その時、遠くから声と共にバイクの排気音が聞こえる。


「紅葉さんの声だ 」


 治療を受け椅子に腰かけていた千里が立ち上がる。そこへバイクに2人乗りした裂姫と紅葉がやって来た。


「すまない、裂姫 」


 銃鬼が面目なさげに頭を下げる。


「いいの それより悪魔はどうしたの 」


「悪魔は銃鬼さんが瞬殺してくれたよ、裂姫ちゃん 」


 拳勝が自分で倒したかのように自慢気に胸を張る。その時、千里の包帯を巻いた腕に目を向けた紅葉の顔が強張る。


「ちょっとぉ、拳勝 」


 振り向いた拳勝に平手を打とうとした紅葉を、素早く察した千里が止める。


「違うんです、紅葉さん。これは先輩が来る前に私のミスで負った怪我なんです 」


「千里ちゃん、こんなの庇わなくてもいいのに 」


 そう言いながら紅葉は、(むく)れている拳勝の肩を叩く。


「まあ、あんたも頑張ったみたいだからみんなでバーボンで乾杯でもしますか 」


 途端に機嫌の良くなった拳勝に、銃鬼も裂姫も千里も同じように歓声を上げる。この世界の束の間の平和で楽しい時間が訪れる。




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