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十九話 変貌


 十九話 変貌



「あの小さな虫みたいなのは何なの? 」


 紅葉は、自分が鼻息で飛ばしてしまったものについて銃鬼に尋ねる。


「あれは深淵の底に居るモスキート 小さな蚊だな 目に見えない程小さいが人間の血を吸うと数百倍の大きさに膨れ上がるぞ 」


 銃鬼が説明している途中で裂姫が割り込んでくる。


「モミジ 試してみるの 」


 裂姫は紅葉の前で掌をパッと開く。そして、紅葉は頬の辺りがチクッとしたなと思ったら、いきなりボンッと顔の前に50センチ位ある巨大な蚊が現れた。


「ひやぁぁぁーーーっ 」


 紅葉は、悲鳴を上げ地面に座り込んだ。裂姫は”向日葵”で瞬時に一刀両断し、巨大な蚊はめらめらと燃え尽きていった。紅葉は、やっぱりこの二人といるのは怖いと改めて思った。


「巨大化したモスキートに血を吸われると、一瞬で体内の血を全部吸われて死んじゃうから気を付けるの 」


 はぁはぁはぁ……。紅葉は息を切らしながら、禍獣に殺される前にこの二人に殺されそうだわと心の中で思いながらも、二人を信頼している自分がいた。


「よし、注意しながら進むぞ 」


 一行は深淵の底を先に進んでいく。その後、モスキートは現れなくなり、今度は大きな蚯蚓のような生物が姿を現した。地面をうねうねと動く姿は、まさに蚯蚓だ。


「うえぇっ、私、ダメ、ああいうの。生理的に受け付けない 」


 紅葉が肩をすくめて銃鬼の後ろに隠れる。裂姫は、平気で近づいていき”向日葵”を一閃する。巨大な蚯蚓は、真っ二つに切り裂かれ燃えだした。うねうねと体をくねらせながら燃えていく巨大な蚯蚓を見ながら紅葉は、あんなのまだ出てくるの不安そうに二人に尋ねると、裂姫は笑いながら、ほらと少し先に見える岩柱を指さす。


「あれが、どうしたの? 」


 紅葉が、目を凝らして見ると、何か岩柱の表面が動いているように見える。


「もっと、近づいて見るの、モミジ 」


 裂姫に言われ紅葉が柱に近づいて見ると、柱の表面に無数の数えきれない程のミミズが張り付きうねうねと動いていた。


「んぎゃー---っ 」


 紅葉は絶叫し転がるように駆け戻ると、ゲエゲエと吐き出した。


「もう、モミジ、だらしないの 」


 裂姫は”向日葵”でミミズの這い回る岩柱に火を点ける。めらめらと燃える火を見ながら紅葉は、拳勝の奴、絶対殺すと殺意を固めていた。


 ようやく落ち着いた紅葉を連れ、さらに先に進んでいく一行の前に鶏と蛇を合わせたような巨大な禍獣が現れた。


「コカトリスか。どうやら、こいつがこの深淵の主らしいな 」


「コカトリスって? 」


「旧約聖書のイザヤ書に記載されている怪物だ。毒を使い、視線で焼き殺すこともできる怪物だ。紅葉は隠れていろ 」


「シェイクスピアの「十二夜」にも名前が出てくるの モミジ、知らないの 」


「シェイクスピアくらい知ってるわよ。「ロミオとジュリエット」でしょ、「ハムレット」でしょ……。でも「十二夜」は知らない 」


 なんだか裂姫に馬鹿にされたようで、紅葉はぷんぷんと怒りながら岩陰に隠れる。


「モミジ、可愛いの 」


 裂姫が、頬を膨らませ怒りながら身を隠す紅葉を見て笑いながら言う。紅葉は、こいつら、ほんと頭にくると思いながらも、岩陰から頭を出して戦いの様子を見ていた。


 銃鬼がデザートホークでコカトリスの足止めし、裂姫が”向日葵”で斬りかかるが、”白菊”と違い”向日葵”では一撃でコカトリスを切り裂くことは出来ず苦戦しているように見えた。


・・・剣i市になんか”白菊”あげちゃうから・・・


 紅葉は、裂姫が”白菊”を持っていれば楽に勝てそうなのにと思った時、コカトリスが口から黒い霧を吐き出した。


「毒霧だ。紅葉、気を付けろ 」


 銃鬼の叫びで紅葉は慌てて口を押さえるが、こんな地下で毒霧なんてだされたら充満して死んじゃうじゃないと顔面が蒼白になる。が、裂姫が”向日葵”で毒霧を一閃すると、その毒霧が発火し消滅する。


・・・凄い。あれが”向日葵”の力なの・・・


 裂姫が何回か空中を切り裂くと、漂っていた毒霧は消滅していた。なるほど、確かに何でも斬る”白菊”より、何でも燃やす”向日葵”の方が便利なのかもと紅葉は思ったが。いやいや、そもそも剣市にあげないで二本持ってれば一番じゃないと気が付いた。

 紅葉が思うにコカトリスの鶏の部分は弱そうだが蛇の部分が邪魔をして裂姫の攻撃を防いでいる感じであった。でも、銃鬼の銃撃を受けても倒れないということは、あの鶏の羽毛、意外に丈夫なのかと観察していると、コカトリスと目が合ってしまった。コカトリスの目が赤く輝く。


「ひぃぃっ 」


 紅葉が恐怖で固まった瞬間、赤く輝くコカトリスの目から熱線が照射された。


・・・もう死んじゃう。ごめんなさい ・・・


 紅葉は心の中で誰にともなく謝ったが、裂姫が”向日葵”でコカトリスの熱線を弾き返した。


「モミジ、隠れてるの 」


 裂姫に怒られた。紅葉は、はいっと素直に返事すると岩陰に頭を抱えて縮こまり、もう決着がつくまでこのままでいようと心に決めた。


ズガッ、ズガッ、ガラン、ゴロン……


 最後の音の後、シーンと静まり返り歩いてくる足音が聞こえた。


「少し手こずったな。一本ではきついか 」


「ううん。トレーニング代わりに丁度よかったの 」


「お疲れさま 」


 二人の会話が聞こえ紅葉も安心して岩陰から身を出し手を振る。少し先にコカトリスの巨体が横たわっていた。


「さあ、早くここから出るとしよう。主が倒れると深淵は閉じていくからな 」


「出るって、どうやって? 」


 紅葉が疑問に思った時、右の太ももに激痛がはしり血が噴き出した。紅葉は地面に倒れながら、自分に何が起こったのか、まだ理解できずにいた。


「まさか、一体ではなかったのか 」


 銃鬼の言葉に深淵の先を見ると、もう一体のコカトリスの目が赤く輝いていた。


「あと一体だけじゃないみたいなの 」


 一体のコカトリスの後ろにさらに何体かのコカトリスが見える。


「紅葉、すまん、大丈夫か? 」


 銃鬼が紅葉を覗き込んで心配そうに呟く。その顔は、今まで紅葉が見たことのない銃鬼の顔だった。その銃鬼の顔を見た裂姫が青ざめる。


「モミジ、逃げるの 」


 裂姫は言うが早いか紅葉を背負い走り出す。紅葉は、何がどうしたのか分からなかったが、裂姫に背負われた時に見た銃鬼が白く輝いていたのを見た。普段、黒い衣服の銃鬼が白く……。白い裂姫が、黒く変身したのをセンタービルの地下で目撃した事のある紅葉は、今度は銃鬼が変身したのかと漠然と思ったが、それにしても、なぜ裂姫が慌てて逃げようとするのか理解できなかった。確かに、コカトリスがあんなにたくさん現れては危険なのは分かるけど……。裂姫は一言も喋らず必死に逃げている。なにか、とてつもなく恐ろしいものから命からがら逃げるように……。

 裂姫は、かなり離れた所から今度は壁を蹴り、また反対側の壁を蹴り、降りた時とは逆に深淵を登っていく。そして、深淵の淵から地上に出ると、バイクの場所まで走り、紅葉を背中から降ろすと、紅葉の足の応急手当てをした。


「あの、銃鬼さんは? 一人で大丈夫なの? 裂姫ちゃんが逃げるほど危険なんでしょう? 」


「私が逃げてたのはコカトリスからじゃないの 銃鬼から逃げてたの 」


「えっ…… 銃鬼さんから…… 」


「銃鬼が白くなるのを見たの? あれは銃鬼が制御できなくなると発動するの 」


「な、なに 何言ってるか分からないよ、裂姫ちゃん 」


「わからなくてもいいの あれは”コンダネリュミエール”断罪の光 あの光を浴びると光崩壊を起こして原子レベルでバラバラになるの 」


 紅葉は、それでも意味が分からずにいたが、裂姫はパンストを破いた紅葉の足に包帯を巻き終わる。


「銃鬼はいいから、早くお医者さん行くの、モミジ 」


 裂姫はバイクに跨り、紅葉に早く後ろに乗れと促した。


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