十三話 ゲーデ教団のダンタリオン
十三話 ゲーデ教団のダンタリオン
「ご入信希望でしたら、随時受け付けておりますのでご遠慮なくお申し付けください 」
ダンタリオンは拳勝たちに向かい微笑みながら話しかけた。
「いや、申し訳ない 我々は入信希望ではないのです 」
禍対委のメンバー宮内が答えると、ダンタリオンの顔から笑みが消える。
「それでは何故私たちの敷地内に無断で立ち入るのですか 」
「いえ 教団に興味がありまして、つい…… 」
確かに嘘ではないが、それが不法侵入の言い訳にはならない。しかし、ダンタリオンの顔に再び笑みが戻る。
「ほおっ、我教団に興味をお持ちで…… では是非お越しください 」
ダンタリオンは自分の身体を横にずらすと、空間の裂け目に拳勝たちを誘った。しかし、はいそうですかとそのまま空間の裂け目に入るには躊躇せざるを得なかった。ダンタリオンも教団もまだ信頼できるのか判断できない。拳勝たちは顔を見合わせ互いの表情を読み取り、どうすべきか悩んでいたが年長の阿部が意を決したように頷く。
「分かりました せれでは、是非 」
阿部は率先してダンタリオンの創った空間の裂け目に入っていった。その後に、拳勝たちが続いて裂け目に入っていく。拳勝たちが裂けめに入るとダンタリオンは、開いていた裂け目を閉じた。すると辺りは暗闇に包まれ、前後左右上下の間隔がなくなり自分が今どんな状態なのか分からなくなる。拳勝は、隣に居ると思われる剣市に声をかけようとしたが声もでなかった。
・・・まさか 罠…… ・・・
拳勝は自分の超技能を使い戦闘態勢をとろうとしたが拳に力が入らない。それどころか身体の感覚も薄くなってきたが、その時暗闇の中にスッと裂け目が入り白い空間が広がった。拳勝たちはそこから転げるように外に出ると、そこは先程覗いていた教団の建物の中だった。信者たちが祭壇に置かれた像に祈りを、いや、呪いを浴びせている。
「大丈夫か、剣市 」
拳勝が横で青ざめている剣市に声をかけると、問題ないというように手を振る。
「さあ、皆さん 今、お祈りの真っ最中です 皆さんもこの崇高な儀式をご覧になってください 」
ダンタリオンが拳勝たちに向かって両腕を大きく広げると深くお辞儀した。
「祈り? とてもお祈りのようには見えませんが 」
拳勝が言うとダンタリオンは、何を言っているのかという顔をする。
「祈りというより、呪詛の言葉を浴びせているようにしか思えません 」
「もちろんです それが我々の教えですから 」
えっと拳勝たちは、ダンタリオンを、信者を、安置された像を順番に見渡した。そして、再びダンタリオンンに視線を戻す。
「何を驚く事がございます 」
ダンタリオンは再び大袈裟に腕を広げ、拳勝たちに向かい話し始める。
「あなたたちは自分に頼ってばかりで何もしない者たちをどう思いますか? 祈るばかりで助けてくれると思っている愚かな者たちを…… 」
「そんな自分の事ばかり考えている愚か者など救済する価値がございません ゲーデ様への信仰はもちろん 我々もゲーデ様に対して差し上げるものがある それがこの祈りの儀式です 」
「我々に救いを与えてくれるゲーデ様に、我々もゲーデ様の邪魔になる四凶や七悪魔を排除するお手伝いをさせていただいているわけです 」
ダンタリオンは誇らしげに胸を張る。
「人間の念というのは相当の力があります それを集団で行使すれば対象を弱体化させる事が出来るのです そして、弱体化した悪魔を私たちが滅します 」
くくくっと含み笑いをしていたダンタリオンが大声で笑いだす。
「なるほど…… 確かに祈るばかりで助けてくれると思ってる奴らには反吐がでる そんな奴らの為に俺たちがどれだけ犠牲になっているか あんたの言う事も尤もだな 」
剣市が高揚した顔で拳を握りしめる。
「俺たちも入信できるのか? 」
「おい、剣市…… 」
拳勝が剣市を止めようとするが、その前にダンタリオンが口を開いた。
「もちろんでございます 我々は門戸を広く開けております お布施さえ頂ければどなたでも入信いただけますよ 」
「お布施? 」
「我々も霞を食して生きているわけではございません 教団を維持する為にも必要なもの ご理解いただけると思いますが 」
「それを払えない者は? 」
「残念ながら諦めてもらうよりありませんな 先程も言ったように祈るだけではいけません まずお布施を用意する事が信仰への第一歩です そうすればその後平穏な暮らしを送れることでしょう 」
「信仰というものは、救いを求める者に平等に与えるものではないのですか 」
拳勝がダンタリオンに食い付く。
「そんな理想論 現実では通じませんよ 」
「祈るだけしか出来ない人も居ます 老人や病気の人、他にも様々な事情のある人も居るでしょう その人たちは見捨てるというのですか? 」
なおも拳勝が食い下がった。
「そんな方たちは居ても意味がないでしょう 」
「それは違う そんな人たちを守るのが我々人間だ この教団がそんな考えなら僕は帰らせてもらう 」
拳勝は捨て台詞を残すと、ドアに向かって歩き始めた、剣市や他のメンバーもそれに続く。
「まあ、致し方ありませんね 」
ダンタリオンはポツリと呟き、特に拳勝たちの邪魔をする事はなかったが、拳勝がドアノブに手をかけドアを開けようとした時、最後尾にいた信者の一人がヨロヨロと歩いてくると拳勝の腕を掴みそのまま倒れこんだ。
「お願い…… 助けて…… 」