十二話 ゲーデ教団支部
十二話 ゲーデ教団支部
拳勝はとある山中に潜んでいた。そして、木の陰から山中にひっそりと建つ白い建物を監視している。その建物は、ゲーデ教団という団体のこの地区の支部のようで、思いのほか人の出入りが多く、信者の数が多いと言っていた紅葉の言葉が証明された形になった。
拳勝は監視を続けながら、以前出会った教団の人間フールフールを思い出していた。フールフールは裂姫との戦いの後、行方を探ろうとしたがその所在がわからなくなっている。禍対委で調査した結果、この山中の建物に潜んでいるのではいう事になり、拳勝がその裏付けの為に派遣されたのだった。
「どうだ? 何か変化あったか 」
一緒に監視している剣市が小声で拳勝に尋ねる。
「いや 今のところ動きはないな 信者らしき人間が出入りしているだけだ 」
剣市は拳勝の横に来ると、同じように教団の建物を見つめる。
「その教団の男は、禍獣を倒していたんだろ それなら我々と同じ目的なんじゃないか 」
「確かに悪魔ペルケレやゴブリンを倒してたけど、僕らにも攻撃してきたからね その目的が分らないと何ともいえないな 」
「そうか それにしても時間を止めるなんて超技能の奴とは、出来れば事を構えたくないな この教団が普通の教団であってほしいよ 」
拳勝の思いも剣市と同じだったが、あの時のフールフールの態度を見ると明らかに自分たちとは違う目的があるように思えてならなかった。
「おっ 誰か偉そうな奴が来たぞ 」
剣市の言葉で拳勝が教団の建物の入り口を見ると、その前に着いた白いセダンのドアを開け一人の白い衣を羽織った長身の男性が出てきた。
「あれは…… 一度見た 確か”ダンタリオン”という奴だ 」
「“空間を切り裂く”と 、お前が報告してた奴か 」
拳勝は頷きながら緊張してダンタリオンの姿を目で追うと、ダンタリオンはそのまま教団の建物に入っていった。ほっと安堵のため息を漏らした拳勝は、目でもっと建物に近付こうと剣市に合図する。そして、そろそろと建物に近付いていった。
* * *
一方、その頃紅葉は裂姫たちと行動を共にしていた。これからも教団の人間から命を狙われる危険がある為、教団の真の目的が判明するまでは裂姫たちと一緒に居るようにと拳勝に言われていたのである。
裂姫と銃鬼はN市の山中にあると禍対委で確認された深淵に二台のバイクで向かっていた。
「モミジ 大丈夫なの 」
バイクで先導する紅葉に、裂姫はバイクで並走すると声をかけた。出発してから一度も休みをとらず走り続けている紅葉に、裂姫は気を使ったようだ。
「私は大丈夫 ごめん そうか、少し休憩しようか 」
紅葉は、銃鬼を乗せタンデムで走り続けている裂姫に気を遣うべきだったと反省しバイクを止めた。裂姫も紅葉のバイクの隣にバイクを止めスタンドを立てる。
「これから行く深淵だが、どの程度の規模か把握できているのか? 」
「ええ おそらく、この前のセンタービルにあった深淵と同規模のようだけど、実際に見てみないと分からないですね 」
「ふん そうすると、深淵自体はそれほど問題ないと思えるが、あの教団の奴らが居るかもしれない 俺たちから離れるなよ、紅葉 」
「ごめんなさい なんか、迷惑かけてるね 」
「全然迷惑じゃないの、モミジ モミジと一緒に居ると楽しいの 」
「ありがとう 裂姫ちゃん 」
実際、紅葉はあのセンタービルでの戦い以来、恐怖で一人でいる事が出来なくなっていた。何時あのフールフールという老人がやって来るかと思うと恐ろしさで体が震える。だが、この二人と一緒にいると安心する事が出来た。
「拳勝は今、どうしているんだ? 」
「彼は禍対委の仕事で、教団の支部を探っているわ 」
「そうか あの教団の目的が分れば手を打ちやすいからな しかし、あの教団の人間の超技能を思うと危険ではないのか 」
「一応、拳勝一人じゃなくて他の禍対委のメンバーも一緒だから大丈夫と思うけど…… 」
「ふん それならいいが 拳勝の奴、無茶しなければいいが…… 」
銃鬼はそう言うと腕を組んで考え込む。紅葉は、あなたたちの目的も何なの?と心の中で思ったが、今は彼らと共に行動していく事が一番だと感じていた。
* * *
拳勝たちは教団の敷地内に忍び込み、建物の窓から中の様子を伺う。窓には薄いカーテンが引かれていたが、顔を近づけると中の様子を見る事が出来た。
室内は広い斎場のようで、祭壇の上に黒い像が安置され、それに向かい信者が祈りを捧げている。そこだけ見れば普通の宗教集団と思えるが、拳勝と剣市はなにか違和感を感じていた。
「なにか、おかしくないか? 」
「ああ、なんだろう この感じは…… 」
「あの安置されている像が可怪しいんだ 紅葉が言ってたけど、ゲーデは破れた山高帽に燕尾服姿だと云う あれはどう見ても禍獣みたいに見える 」
「そうだな…… 四凶と云われている悪魔のようにも見えるな 」
拳勝と剣市は、その時気付いた。彼らは祭壇に置かれた像に向かって祈りを捧げているのではない。その像に憎しみをぶつけているのだ。祈りではなく呪いの言葉を……。
「どういうことなんだ? 」
「いや、理解不能だ 信仰しているんじゃないのか? 」
二人が窓の外でひそひそと話していると視線を感じた。窓の中を見ると一人最前列に立っていたダンタリオンが窓の外に顔を向けていた。
「まずいぞ 感づかれたか 」
「いや、大丈夫だ が引き上げよう 」
拳勝と剣市は急ぎ教団の敷地から抜け出し、山中に身を隠した。幸い、教団に特に動きもなく二人はしばらくじっと身を潜めていたが、その後気付かれぬように退却した。そして、同じく教団を監視していた別動隊と合流する。
「阿部さん どうでした? 」
「裏口の方を見張っていたが、特に怪しい事はなかったな 」
阿部がそう言った時、突然、バリバリという音と共に空間が裂ける。そして、その空間の裂け目からにゅるりと人間が姿を現した。
「これは、皆様 ようこそお越しくださいました 」
ダンタリオンは、拳勝たちに向かいにっこりと微笑んだ。