十話 ひとつの決着
十話 ひとつの決着
裂姫はフールフールが何度時間を止めても構わず攻撃を仕掛ける。絶対的に有利な立場のフールフールであったが焦りが出てきていた。もし時間を止めるタイミングを誤れば、裂姫の超振動ブレード”白菊”で一刀両断にされてしまうだろう。額に汗が滲んでくる、
・・・おかしいですね 何度首を刎ねようとしても私のこのステッキに仕込んだ細剣が弾かれる あのお嬢ちゃんの着ているレオタード、一見普通の服のようですがケブラー等のアラミド繊維で出来ているのかも知れませんね ハイネックで急所の首を守っているわけですか それなら ・・・
それまで裂姫の首を狙っていたフールフールが今度は、飛び掛かってきた裂姫の時間を止めその目を目掛けて突きを出した。裂姫の左目に剣を突き刺し、そのまま脳を串刺しにする。これで、ジエンドです。フールフールはこれで決着したと思った……。
・・・なんですと ・・・
フールフールは驚愕する。裂姫の目を突きにいった細剣が、突き入れられない。いくら腕に力を込めようが無駄だった。そして、時間停止が解除され、裂姫は後方に吹き飛んだ。
・・・これは私の窺い知れない力をお嬢ちゃんが持っているという事ですか? まったく恐ろしい これは後日の為にその力を把握しておく必要がありますね ・・・
フールフールは飛び掛かり斬りつけてくる裂姫に何度となく突きを入れ斬撃を叩き込む。狙いを変え裂姫の様々な箇所に試してみるが、どこもフールフールの細剣を撥ねつける。
・・・馬鹿な 有り得ない ・・・
フールフールは得体の知れない怪物と戦っている感覚に陥っていた。裂姫の無表情な顔がまるで深い深淵の底に居る悪魔の如き形相に見えてくる。
「おおぉぉーーっ 」
必死に裂姫の弱点を探るフールフールだが、精神的に裂姫に押され始めていた。しかし、その時裂姫も同じように追い詰められていた。何度攻撃しても時間を止められ致命傷を与えられない。だが攻撃するしか手がない。二人の戦いは均衡していた。
だがその均衡が破れる時がきた。フールフールは裂姫の首に斬撃を叩き込んだ時、初めて裂姫の首にわずかに剣が食い込んだという実感があった。
・・・これです 集中的に同じ個所を狙う ・・・
フールフールは確信し笑みを浮かべる。そして、裂姫の首を落とす為集中的に首に斬撃を叩き込む。
・・・このまま受けたら私の首は刎ねられる ・・・
裂姫は意識して首を庇っての動きになった為、スピードが落ち攻撃の間隔がだんだんと大きくなってきた。それでも無表情の裂姫はダメージの度合いが判り辛いが、確実にフールフールから受けたダメージが蓄積されているのは間違いなかった。そして、ついに……。
「うわぁぁーーっ 」
首は刎ねられなかったがフールフールにひと際大きく吹き飛ばされた裂姫が、初めて声を上げコンクリートの床に叩き付けられ転がる。今まではすぐに起き上がり次の攻撃に移っていたが、今度は床に転がったまま裂姫は動かない。
「裂姫ちゃんっ 」
紅葉が大声で叫ぶが、裂姫はピクリともしなかった。
・・・まさか、死…… ・・・
紅葉は銃鬼の手を握り叫んだ。
「銃鬼さん 裂姫ちゃんがっ 」
だが銃鬼は裂姫を見つめたまま動かない。フールフールは止めを刺そうというのか笑みを浮かべながら倒れている裂姫に向かって歩いてくる。それを見て飛び出そうとする拳勝と紅葉を銃鬼が腕を掴み止めた。
フールフールはコンクリートの床に横たわる裂姫を見つめ、それから足で裂姫の体を乱暴に仰向けにした。そして、裂姫の体を細剣で串刺しにしようと大きく振りかぶる。そして、フールフールは裂姫の心臓目掛けて細剣を勢いよく振り下ろした。
ひっ……。思わず紅葉は目を逸らすが、裂姫は寸前のところで横に逃れ串刺しを免れていた。そして、ゆっくりと起き上がる。
「えっ 」
紅葉は裂姫のその姿を見て驚きの声をを漏らす。拳勝も口を開けたまま硬直していた。