婚約破棄?
なんか唐突に褒められて、びっくりして顔が赤くなる。
それを見て、殿下が慌てた。
「って、周りのやつが言ってただけだからなっ、シャリアーゼは賢いって。き、綺麗なのは、まぁ……み、認めるけど」
綺麗なのかな?そう言われることは多いけれど、他の子たちも綺麗だし可愛いよね。
「銀色のサラサラな髪が光を反射してキラキラしてるのは天使みたいだ……」
ええ?
「て、天使?」
なんかめちゃめちゃ褒められてる。殿下は私を天使みたいだって思ってるの?更に顔がほてる。
いやいや、いやいや、いやいや。ほ、褒めたって、何も出ませんよ?
「って、ほ、他の奴らが言ってたんだっ」
うぐっ。そうですか。ええ、そうですね。
それに……。
「殿下の方が、美しいです」
日に透けてキラキラ光る細くてサラサラの金色の髪。やっぱり金のほうが天使っぽいですよね。
エメラルドよりも輝く翠の瞳。髪よりも少し濃い色のまつげは長く、瞬きするたびに光を反射しているようだ。
そばかす一つない肌。数え上げたらきりがない。
「うっ、美しいとか言うなっ!」
あれ?褒めたのに、怒られた。
「どうして、ですか?」
「お、女みたいだって、叔父上が……王子というよりは姫だなって」
は?
いや、まぁ、確かに女の子みたいだけど、それって、まだ12歳なんだから男の子が男の子らしく成長するのって、これからじゃないのかな?
子供に向かって、姫とか、からかうにしても酷いな。
叔父上ということは王弟のことだよね。確か、今年27だったはず。
言われた記憶があるのだから、ずっと昔の5歳の時だったとしても、その時はすでに18,9歳前後だったわけだよね。
十分大人だよ。言っていいことと悪いことが分かる年齢でしょ。
まぁ、本当に可愛すぎて女の子みたいで、悪気はなかった可能性があるけれど。
現状、女の子みたいだと言われることを殿下はとても嫌っている。
それを知りながら、もし今も口にしているとしたら嫌がらせだよね。
まぁ、27歳の大人が、12歳の子供にそんな些細な嫌がらせをするとは考えにくいけれども……。
とはいえ、私の言葉が殿下を傷つけてしまったかもしれないのは寝覚めが悪い。
「殿下のお父様である陛下のことも美しいと私は言いますよ?美しいと思いませんか?」
殿下はお母様ではなくお父様に似だ。
殿下が成長して大人になったら、きっとあんな感じと思わせる容姿。姫には見えないちゃんと男の人だ。
そして、男だけど美しいという単語が似合う。
「ち、父上が美しい?」
殿下がちょっと考えている。
「確かに。そうか。美しいとは男にも使う誉め言葉なのか!」
納得したようだ。
「そうです。別に女みたいという意味じゃないですよ?」
殿下がニコニコ顔になった。
「そうか、そうだったのか。父上と同じように俺は美しいって言われているだけか。お前は俺を褒めてくれたんだな。シャリアーゼは、俺を……美しいと褒めているんだ」
自分で俺は美しいとか言い続けられるのも、なんだかちょっとばかり残念な感じなので、話題を変えることにする。
「話を戻しますね、殿下。私の命が狙われた可能性もありますが、もし殿下の命を狙ったのだとすると……」
殿下が表情を引き締めた。
「……俺に効く毒の種類や、俺がムースなら食べるということを知っていたってことか……」
こくんと頷く。
「事情に詳しい内部の人間の犯行か、内部の人間に協力者がいるか……ってことだな?」
もう一度頷いて見せる。
もしそうだとすると大変な話だ。
だって……周りを固める信用できる人間に裏切り者がいるということになる。
王宮内の、いつでも命を狙えるところに殺人者がいるなんて……。
「その可能性も無くはないと思います……。ただ、殿下が狙われたのか、私を狙って偶然毒の種類やムースを選んだだけという可能性もまだ捨てきれません」
もしくは、そういうように思わせて混乱させようとしたか。
殿下が苦々しい顔をした。
「俺のせいで、シャリアーゼが狙われるのか。俺と、婚約破棄したいか?」
殿下が尋ねてきた。