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 ある者は斜面を駆け上がり、ある者は馬で遠くまで駆け……。

 何とか、土石流から逃げることができた。

 途中立ち寄った村に、人が集まってきている。

「お父様、ご無事で……」

「シャリアーゼ、良かった。殿下も……」

 お父様に力強く抱きしめられる。

 寿命は戻っている。私もお父様も。そして殿下も。

 助かったのだ。

 0になっていたのは、あの土石流に飲まれると言うことだったのだろう。

 あのまま進んでいれば、逃げ切ることはできなかったはずだ。

 ということは、未来予知をしたと言って足止めしてくれたあの令嬢のおかげ。

 お礼をと、思ってあたりを見回す。

「あら?ミミリアさんと言ったかしら?彼女は?」

 ピンクのドレス姿をしていれば目立ってすぐに見つけられると思ったけれど見つけられない。

 確かに土石流から逃れたのは見たけれど……。

 マーカスがすぐに教えてくれた。

「まだ危険だと言ったんだが行っちまったよ。なんだか失敗した。こんなはずじゃとぶつぶつ言いながらね」

「失敗?どうして?ミミリアさんがお父様たちを足止めしてくれたおかげで助かったのに」

 マーカスが首を傾げた。

「未来予知の精度が悪くて失敗だったのか、自分のお付きの人間が犠牲になったのが失敗だったのかは知りませんけどね」

 そっか。

 確かに、ミミリアの後ろにいた男性たちは無事だったのだろうか。

 マーカスは犠牲なんて言うけど、2頭立ての馬車があったので、その馬車から馬を離して乗って逃げていれば逃げられただろうし、そうじゃなくても山に素早く上ることができても命拾いしたかもしれない。ミミリアは、彼らのことが心配でじっとしていられなくて立ち去ったのかな。まだ危険が残っているというのに。

「犠牲……か……」

 殿下が自分の手を見た。

「ジェフは、なぜ自分の命を犠牲にしてまで俺を助けたんだ?殺そうとしていたというのに……」

 本当に、殺そうとしていたのだろうか。

 2刻ほどで、落ち着きが出てきた。

「街道の復旧はいよいよ難しそうだな。一度王都に帰って陛下と相談せねばならない」

 お父様が土石流の調査をした専門家の話にため息をついた。

 どれくらいの長さかは分からないけれど、土砂が山の間の道を川の水のように流れてふさいでしまった。

 土砂崩れの何倍もの距離をふさいでいるのは間違いないのだろう。早急な復旧は確かに難しそうだ。

 引き返そう。シャリアーゼ、乗りなさい。

 何とか難を逃れた馬車に、私と殿下が乗せられた。私が連れて来た護衛とマーカスと、お父様たち全員でいったん王都に戻ることになった。

 馬車には私と殿下の二人だけだ。

 殿下が、くしゃくしゃになった紙を懐から出した。

 「それは?」

 小さく折りたたまれた紙を殿下広げる。

「あの時、ジェフが俺に握らせた紙だ」

 紙を持つ殿下の手が小刻みに震えている。

『あなたでよかった』

 震えながら殿下が私に尋ねた。

「俺でよかったって、そういうことだと思うか?なぁ、シャリアーゼ……」

「それは……」

 どう考えても、殿下に仕えられてよかったっていう話じゃないのかな。

 もともとは王弟殿下の側近候補だったけれど、結果として殿下の側近になった。それでよかったっていうことなのでは。

「殿下の側近になれて良かったと」

 殿下が下を向いてしまった。



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