どうなってるのか
全力で馬を駆けさせたいところだけれど、道がぬかるんでいることもあり、急く気持ちを押えながら馬に負担をかけないスピードで進む。
会話をする余裕がある速さだ。
「アーノルド殿下、いったい何があるんですか?」
何度尋ねても答えは返ってこないと思っても、聞かずにはいられなかった。d
殿下が私を見て小さく首を振った。
「分からない」
分からない?
「何かが起きるとしか……」
それだけの情報しかないということ?
「その何かが起きるということは、確かなのですね?数日ずらせば回避できる、もしくは対処できる類の……」
確証がなければさすがにお父様の行動を止めるために学園を抜けて、護衛にマーカスだけを伴い駆けつけるはずがない。
殿下が小さく頷く。
「……ここに来るまでに立ち寄った村でおかしな話を聞きました。何年か前から、山で怪しい人を見ると」
「山賊か?」
マーカスが会話に入って来た。私を挟むように、右側に殿下、左側にマーカスと並んで進んでいる。少し大きな声を出せば3人での会話も可能だ。
「いえ、それがある時は役人のようで、また別の日には正規兵のようだったと。妖精のような娘が怪しげな行動を取っていたという話も……」
殿下がすぐに気が付いたようだ。
「数年前から正規兵のような者が山に出る場所で山賊が出るのはおかしな話だな?……さっきのやつらか?あの人数で、正規兵に対抗しようとしたのか?無謀にもほどがある」
殿下の言葉にマーカスが続けた。
「逆に、盗賊が出るのに若い娘がうろつくと言うのも変な話だな」
確かにそっちもおかしい。
「あ、でも、その娘さんのお付きの者だったんじゃない?正規兵や役人に見えた人は」
思いついたことを口にする。
「ああ、なるほど。しかし、そうならばその娘は貴族か?少なくとも金回りのいい身分だろうな。それならなおさら森をうろつく理由が分からないな。食べる物を探していたわけでもないだろうし」
殿下はすぐに予想されることを口にする。
「んじゃあ、金持ちの娘がこのあたりに出ると聞いて山賊がやってきたのかもな」
マーカスの言葉にハッとする。もしそうなら、何も不思議な点は無くなってしまう。
お父様を説得する情報としての価値が。
って、別にいいのか!殿下がいるんだもんね。殿下の言葉に逆らってまですぐに進むことはいくら宰相と言えども難しいはずだ。数日ずらせば運命も変わるかもしれない。
「あ、あれじゃないか!」
マーカスの言葉に道の先を見る。
左右は山。正面にはひときわ高い山。
一本道の街道の先に見知った馬車が見えた。
「お父様たちだわ」
ほっと胸をなで下ろす。
「どうしたんだろう?こんな場所で休憩をとるはずはないのに」
思ったより早く追いついたと思ったら、どうやらお父様たちは止まっている。殿下の言うように、道をふさぐように止まっている。
休憩をするならば、道をふさがないように開けた場所でするはずなのに……。
「土砂崩れで通れなくなっているのか?」
土砂崩れがあったというガルーシア地方はまだ先のはずだ。