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山賊

「シャリアーゼ様、馬に水を飲ませ終わりました」

「行きましょう、村人の話では、お父様の乗った馬車は1刻ほど前に通り過ぎたようです」

 お父様は、支援物資を運んでいる馬車とともに進んでいる。私は馬だ。

 1刻の差まで距離が縮んだのであれば、次に馬を休憩させるまでには追いつくはずだ。

 殿下からの手紙と、今の話。これでお父様を止める。少なくとももう少し情報を集めてからにしてくれと。

 平地の道から、左右を山に挟まれた道に入った。港と王都をつなぐ重要な街道なので、山に囲まれているとはいえ、馬車も通れるように幅もあり、均されて整備された道だ。

 しかし、村で何日か雨が続いたと言っていた。ぬかるんで水が溜まっている場所が散見される。山の影になっていて日陰になっている場所はひどい状態だ。

 バシャバシャと泥水をはね上げながら進んでいく。

 いっそ、馬車の車輪がぬかるみにはまって動けないままになっていればいいのに。

 そんなことを考えながら走らせていたせいだろうか。異変に気が付くのに遅れてしまった。

「シャリアーゼ様っ!」

 木の影に隠れていたのだろう。風体の怪しい男が乗った馬が全貌に2騎。その周りに、同じように風体の怪しい……そう、山賊のような服装をした者が20名ほど姿を現した。

 慌てて馬を停止する。護衛たちが私の周りを固める。

「山賊か」

 見たところ、服装だけではなく立ちふるまいも粗野で、とても役人や正規兵と見間違えるような感じはない。

 こちらは、訓練を受けた護衛が10名。私も含めて馬に乗っている。

 あちらは20名と人数では勝っているものの、馬に乗っているのは2人だけだ。こちらの方が有利だが、実力は分からない。

「ここを通りたければ金目のものを置いていけ」

 馬にのった髭面で頭の禿げた男が声を上げる。

「お嬢様、いったん引き返しますか?」

 護衛の一人が私の横へと馬を近づける。

 手綱から右手を離して、護衛の腕に触れる。

 この男は今いる護衛の隊長だ。部下を大切にする男で、判断を間違えたりしない。

 彼の寿命が短くなっていないことを確認する。

 大丈夫。死なない。

「いいえ。進むわ。ごめんなさい」

 隊長が小さく頷くと、すぐに指示を出した。

「二人は後ろを守れ、二人は左右に分かれろ、残りは私とともに前へ!周りの警戒も怠るな。仲間が隠れているかもしれない、行くぞっ!」

 剣を引き抜いて隊長が山賊の隊長へと突き進んでいく。

 すぐに剣と剣がぶつかり合う音が響き渡る。

「ははっ、馬に乗っているからと有利だと思うな!」

 山賊が走りながら、何かを地面にばらまいた。途端に突っ込んでいった護衛の操る馬が後ろ足立ちになる。

 危ない!落馬する!と思ったけれど器用に馬を操り落馬は逃れた。だけれど、馬が落ち着く前に、山賊が襲い掛かってくる。

 馬を諦め、降りて相手をし始めた。

 地面を見れば、棘が何本も飛び出た菱のような形のものがばらまかれている。

 なるほど。あれを馬が踏んでしまえば、暴れ出すのも分かる。

 よく、あんなものを思いついたものだ。

 馬上からというアドバンテージがなくとも、護衛の腕は確かだ。山賊を一人、二人と確実に減らしている。

 馬から降りて戦う護衛たちの横をすり抜けるようにして馬に乗った山賊が近づいてきた。

「お前がこいつらの主かっ!殺されたくなきゃ金目のものを出しやがれ!」

 男が剣を振り上げた。

 不味い!

 馬を傷つけられてしまえば、お父様たちを追いかけることができなくなってしまう!

 とっさに身に着けていた腕輪を外して投げつけた。

「宝石がいくつか付いてるわ!かなりの価値があるはずよ!」

 男は腕輪を取り落とし、慌てて拾おうと馬を下りた。

 今だ!

 馬の腹を蹴って、走り出す。

 棘の付いたものがばらまかれていない場所を通ってこの男は向こうから来たのだ。そこを通れば……!


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