狙ってない!
っていうか、お父様は陛下に伝えてない?
いや、この物々しい警備は伝えている証拠じゃないのかな?
それともお父様は私をよく思わない者がいて命を狙われているとでも伝えた?殿下が狙われている可能性までは伝えてない?
それとも陛下には伝えたものの、陛下が殿下に伝えてない?
「……えーっと、殿下は毒には慣らされて多少は耐性があるのでは?」
と、声を潜めて聞く。
「いや、耐性がある物もあるけど、ないのもある」
「……それは、どうしてですか?」
殿下が私が声を潜めていることに気が付いたのか、ソファに腰を下ろして同じように声を潜めた。
「そりゃ、毒なんて何十種類もあるんだから、少しずつ接種して耐性をつけるつっても、限界があるだろ。その毒は耐性のないやつだ」
え?
毒に種類があるのは分かる。
殿下が食べるかもしれないお菓子に毒を入れたのは、私を殺害するためで、殿下が口にしたとしても耐性があるから問題ない説……が、これで完全に消えた?
狙われたのは私と殿下の両方?
いや、耐性があると思っていたのに、耐性がない毒をうっかり使ってしまった可能性も?
それとも……。
「殿下、ムースに毒を入れた目的は何だったと思いますか?」
「そんなの、暗殺だろ、この俺様を殺そうとしたんだ。間違いないさ」
殿下が自信満々に答えた。
「いえ、でも……私が先に食べていれば、私が死んで殿下は無事だったんじゃないですか?そんな運任せな計画を立てるでしょうか?」
殿下が首を傾げた。
「運任せじゃないだろ?俺に耐性の無い毒を使って、俺が苺関係で唯一嫌がらずに食べるムースに仕込んであったんだ」
殿下の言葉にに今度は私が首を傾げた。
「殿下、耐性のある毒とない毒がある話は、みんな知ってるのですか?」
「馬鹿だな、どの毒が効いて、どの毒が効かないなんて知られてたら、意味ないだろう。効く毒を使うに決まってるじゃねーか。ちょっと、考えろよ」
ちょ、なんかバカがって感じで言ってますけど、空気読まずに叫んだ殿下に言われたくないですよっ!
耐性があるかないかは秘匿された情報なら、やっぱり殿下にも効くかどうかわからない毒を選んだのは運任せってことになるよ?
言ってることに矛盾があるよ、殿下……。
「えーと、苺のムースは食べるというのは有名な話ですか?」
「いや。この前のお茶会の前に、俺でも食べられる苺のお菓子を料理長に考えてもらった」
「なるほど」
……と、いうことは、殿下が苺のお菓子が並べられている時に、ムースに手を伸ばすということはほぼ知られてなかったと思っていいってこと……かな?
殿下がどの毒に耐性があるのかは知られていない。
殿下が苺のムースに手を伸ばすだろうことも知られていない。
……と、すると……。苺のムースに毒を仕込んだ狙いは……。
「やっぱり私が狙い……」
ぼそりとつぶやく。
「ちっ、違うからな!べ、別にシャリアーゼに好かれたいからと狙ったわけではっ」
私の呟きに、殿下が顔を真っ赤にして慌てて否定の言葉を口にした。
ん?
好かれたいと狙った?
毒を入れられたわ、殿下好き!とはならないと思うんだけど??
まぁいいや。とにかく話の腰を折られてしまったけれど……。
「殿下、私の命を狙った可能性もありますが……」
「あ、命?え?ああ、そっち、そっちの話か」
そっちの話って、ずっと毒の話しかしてないですよね?
どっちの話が他にあると……?
「私が狙いの可能性……を考えると、婚約者が私になったことを不満に思う勢力の仕業だと思うんです」
殿下がはぁと口を開く。
「シャリーアゼに不満?何が不満だ。賢いし綺麗じゃんっ」
ん?