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「あの、役人はいつ来たんですか?何人くらいで?」

 村人が別の村人に声をかけた。

「役人さんがきたんは、いつ頃じゃったかのぉ?」

「ん?村に来たんは、一刻ほど前じゃなか?」

「んだなぁ。一刻ほど前に馬にのって役人が一人来た。2、3質問していって、それからすぐに街道を進む馬車に合流してったなぁ」

「ああそうじゃ。驚いたなぁ。100人はいたかのぉ。戦争が始まるのかと思ったが、それにしては少なかった」

「討伐に来てくれたんじゃなかと?山賊が出るとうわさになっちょちゃやろう?」

「ああ、そうそう。行商人が言っておったのぉ。商隊じゃなくて行商人を狙う山賊が出て困ってるとなぁ」

 山賊が出るんだ。

 背中がすっと冷たくなる。

 でも、商隊じゃなくて行商人を襲う?ということはそれほど大人数ではないということ?だったら、お父様たちを襲うわけではないのよね?

「ああ。なんだか見慣れぬ者が山をうろついてるのを何度か見たっちゅぅ話もよぉきくでのぉ」

 山をうろついてる?

「木こりも猟師も見たっちゅうとったなぁ。だけど山賊には見えんかったとも言っておったぞ」

「あの、それはどういう人達でした?」

 山賊には見えないって、まさか……。

「そうじゃなぁ、役人さんに近いって聞いたぞ。マントからちらりと見えた服装は整ってたとか」

「いやいや、おいらが聞いたのは正規兵みたいだっちゅぅ話だ。姿勢がよくて剣を持ってたらしい」

「わしは、若い女じゃと聞いたぞい?なんだかほれ、臭い谷あるじゃじゃろう、お湯がぶくぶく沸いてるとこで笑ってたそうじゃ」

「その女の噂はおいらも聞いたわ。魔女が出るって話じゃろ。若くて綺麗な娘を山で見かけたら気を付けろっちゅうて。魔女じゃから近づいちゃならないって」

 どういうこと?

「あの、いつごろから山で見かけるのですか?」

 昨日、今日の話ならば、土砂崩れが起きたことで調査に来た者だろう。

 山賊が出るようになった話よりも後ならば、山賊を討伐するために派遣されている者たちの可能性が高い。

「さぁのぉ。もうずいぶん前じゃろう?」

「魔女の話は3年も4年も前から出てたじゃろ」

「そのときは魔女じゃなくて妖精っちゅぅ噂じゃなかったか?」

「いろんな人間を山で見るようになったんは1年くらい前かの?それからここ半年くらいで山賊の話をちらほら聞くようになったんじゃなか?」

 そんな馬鹿な。

 この話はおかしい。

 だって、役人や正規兵がうろついてると噂されてる山にわざわざ山賊が来る?

 何が起こってるの?

 ぎりりと奥歯をかみしめる。

 でも、これだけおかしな話があるならば、何かがある。

 ジェフなの?

 ……だけれど、ジェフの狙いは殿下じゃなかったの?妹のために殿下の命を狙っていたんじゃないの?

 噂が出始めたのは何年も前……。そんな前から、お父様暗殺も計画していたということ?

 それとも狙いは別にあるの?

 ……巧妙に殿下に毒を盛ることができたんだ。私が寿命が見えなければ……殿下はもうすでに死んでいただろう。

 毒イチゴムースの時。それから遅延性の毒を盛られたとき……。

 それができるくらいだ。お父様を暗殺したいのなら、何年も前から計画する必要などなかったのでは?何十人も一度に殺すような大規模な計画は必要なかったのでは?

 いったい、何が狙い?

 ……それともジェフじゃない別の人間が動いてる?

 情報が足りない。

 でも、お父様を引き留められる情報としては十分だ。

 役人や正規兵が出ると噂されていた山に山賊が出るようになった。

 この不自然さにお父様も気が付くだろう。



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