後を追う
「お嬢様」
メイが後を追う。
「行かないでと、私の言葉では無理でも……これがあれば……。殿下の手紙があれば、止められるかも」
お父様が出発してからどれくらい時間が経った?
どれくらいお父様は進んでしまっている?
心臓がバクバクする。
0という数字は、0年だ。
今日何がおきるか、明日何が起きるか、半年後なのか分からない。でも、今日、お父様と一緒に出発した人全員が0だったことを考えると、近いうちに何かある。向かった先で事件が起きると考えて間違いないと思う。
時間がない。
「マーカスさんにお任せしたほうが……」
すいっと手を伸ばして手のひらをメイに見せる。
「私の数字は15よ。お父様を追いかけると決めても変わらない。私に危険はないわ」
メイが言葉に詰まる。
「メイ……着替えを」
お父様は馬車で先行している。追いつくためには馬車では駄目だ。
馬に乗って行かないと。
「……はい」
メイは、まだ何か言いたそうだけれど乗馬用の服を出して着替えを手伝ってくれる。ズボンに、その上に身に着ける膝丈のスカート。ロングブーツと、手袋。胸元に折りたたんだ殿下からの手紙。
護衛を10名。
馬にまたがり、出発した。
淑女たるもの乗馬などするものではないと眉を顰める者もいる。
けれど、有事の際に身を護るすべはいくつ身に着けていても無駄にはならないと叩き込まれた。馬に乗れれば逃げられる可能性が広がると。
それを教えてくれたのはお父様だ。
まさか、こんな時に役に立つなんて。
ああ、お父様、死なないで!
どれくらい馬を駆けていただろう。手綱を握る手に力が入らなくなってきた。
「シャリアーゼ様、そろそろ休憩を」
並走する護衛の声にハッとする。
一向にお父様たちの馬車に追いつかない。
休憩なんてしたくない。……でも……。
「馬に水を与えませんと」
「そうね」
近くの村に立ち寄る。
村人の一人がすぐに護衛に話しかけてきた。
「川には近寄っちゃだめさぁ。水は井戸からくみなされ」
村から少し離れた川が見えた。
「川に近づかない方がいいとは?」
川上を指さす。
「2、3日山の向こうさで激しい雨がふっとったでなぁ。あんだけ雨がふりゃ、増水して流れも速くなって危険さぁ」
護衛が首をひねった。
「増水しているようには見えないが」
確かに、水位はあまり高くないように見える。普段はもっと水が少ないということだろうか?
「そうなんじゃ。水はにごっちょるじゃろ。普段なら濁った水が川から溢れそうなくらい流れてくるんじゃが。いつ増水するかわわかんねぇから念のため濁りが無くなるまで近づいちゃなんねぇ」
「もしかしたら上流でせき止められているのかもしれませんわね」
それでせき止められていたところが決壊して鉄砲水がお父様たちを襲う……とか?
ううん、さすがにそれなら気が付くよね。
だって、被害状況を確認して対策するために視察に行くのだから。せき止められて水が溜まっている場所は把握してるはずだ。
専門家も同行していると言っていたし。
「そういえば、何やら様子を聞きに来た役人さんもそんなことを言っていたのぉ」
役人?