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お父様

「読んで構わないですよ。殿下から公爵様宛の手紙ですが」

 読んで構わないって言われたので、遠慮なく。

『視察は遅らせよ』

 ただその一言だけ力強い字で書かれていた。

「こ……これは?」

 視察の必要性は殿下も分かっているはずだ。

「いやぁ、その、何処まで言っていいのかなぁ」

「全部よ」

 マーカスを睨み付ける。

「お父様に伝えるはずだったことを、全部言ってちょうだい」

 いったい、なぜ殿下がお父様に視察を遅らせよなんて手紙を書いたのか。

「ほ、ほら。シャリアーゼ様もあと3日で学園の寮に入ってしまうし、親子でゆっくり過ごせという……」

 そんなはずない。

 仮にもお父様は宰相だ。国のこの先を左右するような重大な災害が起きたというのに、家族を優先させて視察を遅らせるなどと許されるような立場にはない。

 いえ、たとえ陛下が許したとしても、お父様は駆けつけるだろうし、私も行ってと言う。

 殿下だって、そういう私のことは分かっているはずだ。

 この先、皇太子妃、王妃になった後も。戦争が起きた時「行かないで!」と止めるような女では務まらない。

「私を誰だと思っているの、マーカス」

 マーカスがふぅっと小さく息を吐きだした。

「それが、私にも実際よくわからないんですよ。分からないけれど、殿下は何か不穏な動きを掴んだようで」

「え?」

「何も詳細は教えてくれなかったんですが……影から何か情報でも入ったんですかねぇ。非常に焦った様子で。着替えもしないうちに呼び出されて、この手紙を届けるように言われたんです」

 影からの情報?

「それはもう殿下の顔といったら。シャリアーゼ様を心配して慌てふためいていましたよ」

「どんな情報を入手したの?」

 指先が冷たい。

「さぁ?そこまでは聞いてないですが、視察を遅らせたいというのは、シャリアーゼ様を屋敷に1人に残したくないってことじゃないですかね?」

 マーカスは本当にそれ以上の話を聞いていなかったのか。

「……殿下暗殺が失敗に終わった今、シャリアーゼ様に狙いを変えた可能性を恐れているのかもしれませんねぇ」

 手を見る。

 私の寿命に変化はない。

 私は狙われてない。

「まだ、つかまってませんし……」

 マーカスが少し声のトーンを落としてつぶやく。

 ジェフが?

 ジェフがまだ何かを計画していると?その情報を殿下がつかんだ?

 確証のない情報だから詳細は言えないということ?

「私じゃないわ。狙われているのは、お父様よ……」

 誰がどんな目的でお父様に何をしようとしているのかは分からない。

 分かっているのはこのままガルーシア地方に向かっては危ないということ。

 それだけは殿下も感じていることだろう。

「マーカス、殿下に何か情報があれば小さなことでも教えてほしいと伝えてちょうだい」

 ソファから立ち上がる。

「メイ、お父様を追うわ。止めないと」

 メイに声をかけて部屋を出る。

「え?ちょっと、シャリアーゼ様っ、危ないって。追うなら私が行きますからっ!」

 マーカスの顔を見てにこりと微笑む。

「私は、大丈夫。マーカスは殿下から追加の情報を……お父様を説得できるだけの情報をもらってちょうだい」

 その言葉を最後にマーカスからは視線をそらして部屋を出て行く。


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