ゼロ
「ん?シャリアーゼどうした?」
「外までお見送りしますっ」
お父様が頷いた。
外に出ると、すでに視察に行く人間が集まっていた。
専門知識を持った者。護衛。作業員。それから何が起きているか分からないため、近隣の村の援助ができるように支援物資も運ぶようだ。さすがお父様だ。抜かりはない。
「お父様を、よろしくお願いしますね」
声をかけながら護衛に触れる。
0。
「気を付けて行ってくださいね」
0。
「王都のみなも街道の復旧を待っているでしょう」
0。
0、0、0、0、0!
どういうことなの!
いったい何があるというの?皆の寿命が……!
「お父様、まさか土砂崩れが起きた場所に近づくのですか?また崩れてくるかもしれません」
青い顔をしてお父様に尋ねる。
「私はそれほど近づきはしないよ。専門家に任せるからね。私は距離をおいた場所で情報を収集して判断を下していくことになると思う。街道の復旧に時間がかかるようなら荷は山を越えて運んでもらうことになるかもしれないし……。そうなると山に詳しい人間を雇うことになるだろう。山賊にも警戒しなければいけない。私は主にそういう判断すべきことに対処するからね」
専門家とは離れた位置……つまり土砂崩れが起きた場所から離れた安全なところにお父様はいるというのなら、土砂崩れに巻き込まれるわけではない……?
お父様の服を掴んでいる手が震える。
私の震える手にお父様の手が重ねられた。
「大丈夫だよ。シャリアーゼ」
大丈夫じゃないっ!
絶対大丈夫じゃないよ!
「準備が整いました」
お父様は声をかけられると、じゃあと言って馬車に乗り込んだ。
「行ってらっしゃいませ」
引きつった笑顔で何とかお父様にそれだけ声をかける。
それからも一緒に行く人間になるべく触れていく。
40人ほどに触れただろうか。全員が残りの寿命が0。
こんなことある?
盗賊に襲われるとしても、1人位命からがら逃げだせそうなものだ。
何が起きると言うのっ!
遠ざかっている馬車を見ながらがくがくと震える。
そして、その場に膝をついた。
メイが慌てて駆け寄ってくる。
「お嬢様、どうされました?お別れが辛いのですか?突然でしたものね」
メイの腕を振るえる手でつかむ。
そして……メイに伝えた。
「見えたの……0よ……」
すぐにメイには何のことか伝わった。
「まさか、公爵様の身に何か」
メイがハッとして私の体を支えるようにして移動を始める。
「お嬢様、お寂しいですわね。分かりますわ。では出発までに手紙を書いたらいかがでしょう」
周りの人間に、私が寿命が見えるということがばれないようにと配慮してくれるメイ。
メイがいてくれてよかった。私一人でお父様が死んでしまう!なんてわめいても、頭がおかしくなったと思われかねない。
部屋に入り、ソファへと倒れこむように体を預ける。メイはすぐに他の者たちに退室を促した。
「お嬢様……先ほどの話は本当なのですか?」
メイがソファの前に膝まづいき、私の背中をゆっくりと撫でながら落ち着いた声で尋ねた。
「ええ……」
あの光景を思い出して呼吸が早くなる。
「0が見えたの……それも、お父様だけ……はぁ、はぁ……では……はっはっ、なくて」
呼吸が、苦しい。
「お嬢様っ!」
過呼吸だ。メイが素早くハンカチを取り出して口と鼻に当ててくれた。
「はっはっはっ……はっ……メイ、書記官も、補佐官も……はっ、はっ……お父様と一緒に向かう皆に輾転0が」
メイが青ざめる。
「何かに皆が巻き込まれて一斉に命を落とすということですか?」
たぶんこのままではそうなるのだろう。